もう40年近くも前の話しです。
某大手企業に勤めていた頃の私でした。
年末の大忘年会という事で、各部署、眼の色を変えての大合戦。
それその筈、一等賞金10万円といった、社長からの大盤振舞い。
凡そ八つの部署が工夫を凝らしての出し物でした。
私の部署は経理課でした。
審査の採点基準は、出来の良さではなく観る人をアッと驚かす奇想天外な出し物と言うことでした。
我がチームは女鼠小僧でした。見せ場は、鼠小僧が捕らえられて縄を掛けられて引き立てられる場面でした。
衣装など無く、浴衣姿の私を縛り上げる役人に扮した上司。
40年前、SMと言った言葉はあったもののサドマゾといった言葉も、実際には一般人には無縁の事でした。
凡そ100名近い社員の前で縛られて歩まされた舞台上、恥ずかしさの余り、真っ赤に火照った顔。
頭はボーっと、耳鳴は起こる、足下は覚束ず、その後の事は覚えていませんでした。
部屋に戻って、優勝したことを聞かされた私でした。
この舞台の女鼠小僧が、その後の私の運命を決定付けたのでした。
男の人に縛られて縄尻を取られる。背中を押されて歩まされる恥ずかしさ。
私は縄の虜になってしまったのでした。そしてマゾの喜びを知ったのでした。
私を縛ってくれた上司に頼み込んでプライベートでも縛って貰いました。
当時22歳の私に対して、上司は離婚歴ある50歳に近い年齢でした。
ある日、上司の家に押しかけた私は、強引に結婚を申し込んだのでした。
玄関の土間に正座して平伏したのです。そして頭上高く差し出した両手には縄を持っていたのです。
その後、私は寿退社しました。彼は同僚、上司からの羨望の眼差しで見られたそうです。
やはり、出し物の女鼠小僧と役人での舞台が馴れ初めになったのではないのかと噂に上ったとの事でした。