続きを書きます。5日目の金曜日。一応のお約束の最後の日、私はお屋敷の炊事場をお借りして食事を作り、美幸さんと食べる事にしました。それまでは杉本さんが用意してくれた、食事を食べていたのですが、由希江さんが食べれる物として、殆どがレトルトパックの物で、(ご飯までパックの物、、、)しかも、パックから出すのも、彼女の目の前で出さないと食べられないとの事でした。私も付き合って、それを食べていましたが、それでは何にも進展がありません。食べてくれなくても良いから、ちゃんとした食事を用意して、一緒に食卓を囲む事が大事だと思ったので、、、。生ものは避け、全て火の通した食事を用意し、どうしても食べてもらえない時は、諦めてレトルトの食事を出す事にして、私は彼女をテーブルに着かせました。最初の内、彼女は自分の食べれる物が無いと感じているようで並んだ食事を一通り見ただけで、箸を持つ事すらしませんでした。それでも構わず、私が先に食べ始め、「この五目豆の煮物は、私の得意料理なの。人参を煮崩さないのが 難しいのよ。」「このホウレン草の白和えは、私の母の直伝なの。口に合えば良いんだけど。」「このカジキマグロの照り焼きは、、、」頑張って作ったけど、やはり食べてくれません、、、それどころか一緒に過ごす最後の日になっても、殆ど何も出来て無い自分に、、、失望し、、、涙がポロポロと零れて来てしまいました、、。分かっていた事とはいえ、少しでも気持ちが伝われば、、、と期待していただけに、落胆も大きく、自分の力の無さに、、その現実が私を押しつぶそうとしているみたいでした、、。考えてみれば当然の結果です。家族を裏切り、背徳の関係を続けている汚れた私の作る料理など、食べてくれる筈もありません。「ごめんなさい。今、杉本さんにお願いして、いつもの食事を 用意してもらうわね。」そう言って立とうとした私の横に、いつの間にか美幸さんが居て、、いつも持っているタオルで、私の涙を拭こうとしていました。「ダメよ。汚れてしまうから、、、。」 と顔をそむける私に「、、、なみだは、、きたなくない、、ただ、、、かなしいだけ、、」と小さくか細い声で、初めて話してくれて、、涙で濡れている私の顔を拭いてくれて、、、そして席に着くと、少しづつですが、食べ始めてくれました。その姿に、余計に涙が溢れそうでしたが、必死に我慢をして「美味しく無かったら、無理に食べなくても良いから、、、。」と言って、私も食事を続けました。しばらくすると、、、「、、、これ、、、おいしい、、、」と言う声が聞こえ、「ん?どれかしら?」そう言う私の問いに、箸でホウレン草の白和えを指していました。「良かった。私のは少し甘過ぎると言われるんだけど、、、。」「、、、、おいしい、、これ、、、」そう言う彼女の顔は、今までの無表情から、ほんの少しだけほころんだ感じに見えました。長い時間を掛けて食事をし、その後は2人並んで座り、絵本を見ながら私が朗読してあげました。この本も私が大好きな本で、「100万回 生きた猫」彼女は無表情のままでしたが、私の横で絵本を覗きこみながら黙って、私の朗読を聞いていました。読み終えると、「、、、そんなにいきたら、、、つらいのに、、、」「そうね。辛い事が一杯あるかもしれない。でも、この猫さんは 最後に何かに気付いて、それ以上は生き返る事はしなかったのね。」「、、、それは、、、なに、、、」「美幸さんは、なんだと思う?」
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それでは、続きを書きたいと思います。美幸さんが帰り、1週間が過ぎ、、気にはなっていましたが、私からその事を切り出す事はしませんでしたし、会長さんもあえて、その事は何も言って来ませんでした。ですが、10日ほど過ぎたある日、珍しく(と言うか、初めて)会長さんから先にメールが届き、「至急連絡されたし。」 私は慌てて、「今日は特に予定はありません。直ぐにお伺いした方がよろしいのでしょうか?」とReメールし、「大至急来られたし。」との返事。身支度もそこそこに、私はお屋敷に向かいました。正門にはすでに杉本さんが待っていて、「こちらです。お急ぎを。」何がどうしたのか、私は全く把握出来ないまま、言われた通りに応接室に向かいました。 ノックもせずドアを開くと、そこには会長さんが立っていて、、、ソファーには美幸さんが座っていました。「急に呼び出してしまってスマナイ。良く来てくれた。」「一体どうなされたのですか?それに美幸さんまで、、、。」「う~ん、、実はな、、、」会長さんの話では、美幸さんが帰宅して、少し復調が見られるようになった事を、ご家族は大いに喜んだそうです。ですが、数日が過ぎると、また同じ状態に戻ってしまい、ご家族の方々もどうしたものかと途方に暮れてしまったそうです。「ご家族の中で、何か問題があるのでしょうか?」「いや、私もその事が気になって、美幸を迎える前に少し調べてみたが、 特に問題は無い、むしろ美幸を思って大事にしているくらいだ。」「では何故また、、それに何故美幸さんがココに、、、?」「私もビックリしているのだよ。今朝早く、金も持たずにタクシー に乗ってココに現れてな、直ぐに向こうに連絡をしたら、 朝、美幸が居ないのに気が付いて、方々を探し回っていたそうだ。」「なぜ、、ここなのでしょう?」「う~ん、、それは、、たぶん、、、、」そんな会話をしていると、ふと私の手が握られました。え?と思い、横を見るといつの間にか美幸さんが私の横に立っていて無表情のまま私の顔を見つめていました。「やはりそうか、、、。」「どう言う事でしょう?」「美幸は、由希江さんに会いたくて、ココまで来たんだよ。」「私に?」私は困惑していました。確かに5日間を過ごし、少しだけ心を開いてくれて、多少の会話も出来るようになりました。ですが言いかえればそれだけしか出来なかったのです。そんな私にわざわざ会いに来たなんて、、、腑に落ちない事だらけです、、。取り合えず、落ち着くまでは会長さん宅で美幸さんを預かる事になり、「とにかく、皆少し落ち着こうか。座って一息付けよう。」そう、落ち着かないと、、、と思っても、なかなか頭の中の思考が止まりませんでした。杉本さんがお茶を用意してくれて、それを皆で飲みながら今後の事を考える事になりました。お茶はフルーティーな香りのするジャスミンティーで、とても美味しく、飲んでいると身体が落ち着きを取り戻して行くのが分かりました。しばらくの沈黙が続き、考え込んでいた会長さんが、「私はしばらく席を外そう。2人で話してみてくれないか?」「はい、、それは構いませんが、、。」「うむ、頼む。」そう言って会長さんは、お部屋を出ていかれました。私は美幸さんと向き合い、、「美幸さん、貴女は何をしたのか分かっている?」「、、、、、」「ご家族に黙って、お金も持たずにココまで来たの。それ
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これでこのエピソードは最後になります。たぶん、、、。 家に帰り、どうしようか本当に悩みました。上手く出来る自信がどうしても持てなかったからです。最近の若い女性は、そう言う経験も(レズビアン)ある人も多いのかもしれませんが、私の世代では、、少なくとも私の周りでは、そういう行為をしていた人は居ず、せいぜい修学旅行などで、胸の触りっこをしたり、お遊びでキスをしたりする程度でしたので。それに、上手く性的感覚を取り戻したとして、そのままレズビアンになってしまわないか? もしくは性的感覚のみが戻り、心は閉ざされたままになってしまわないのか?最悪の場合、どちらも戻らず、今のままになってしまう恐れもあり、、、正直、不確定要素が多過ぎて、決断できませんでした。決められぬまま、翌日を迎え、、、私はお屋敷に向かいました。正門には会長さんが待っていて、「おはよう。君の事だから、あれこれ考えて決められなかったんだろう。」「おはようございます、、、すみません、、決断出来なくて、、。」「うむ、まぁ、仕方が無かろう。難しい選択だ。決めれなくて当然だ。」「、、、、」「少し庭を歩こう。」「はい。」お屋敷の庭を歩きながら、会長さんは話はじめ、、「人の身体と心は一対でなければならない。どちらが欠落しても、 両方欠落しててもだ。」「今のあの子は、どちらも不十分な状態のまま漂っている。地に足が 着かず、空高く昇る事も、落ちる事も出来ない風船のようなものだ。」「君が何もしなければ、あの子は今のまま漂い続けるだろう。だが それは、あの子にとっても、あの子を愛する家族にとっても不幸な 結果でしかないのだよ。 もちろん断っても誰も君を責める権利は無い。 誰一人もだ。 だが君自身はどうだ? 救いを求め、ここまで来た あの子を、、君を頼って来た美幸の手を払いのける事が出来るのかね。」「、、、私に、、救えるのでしょうか、、、」「私達にあの子は救えない。神ではないからね。ただ私達に出来る事は あの子の周りにある、イバラを取り払い、そこから出してあげる事だよ。 その後の愛情は、あの子の旦那や家族が与えるモノだ。私はそう 思っている。」「わかりました。やれるだけの事はやってみます。が、美幸さんが拒否 したらそれ以上は私には出来ません。それでよろしいですか?」「うむ、大丈夫だ。君はあの子に充分な愛情を注いでくれた。きっとあの子も それを分かっているよ。 あ、そうそう、100万回生きた猫 だったかな。 君が読んで聞かせた絵本。私もあの絵本を買って、あの子に渡したんだ。 そしたら嬉しそうに胸に抱えてな、、その後私に差し出したんだよ。 読んでくれと言っているようなので、君ほど上手くは出来なかったが 朗読してあげたら、私の横で絵本を覗きこんでいてな。まるで幼い頃の あの子が居るようで、この老いぼれの目にも熱いモノがこみ上げて来たわ。」お屋敷に戻り、お部屋に行くと美幸さんは椅子から立ち上がり、私の所に足早に近付いて来たかと思うと、いきなり私に抱きついて来ました。「どうしたの?少し遅れたから心配したの?」彼女は私の胸に押し当てた顔を小さく肯き、、顔を上げて私を見つめて来ました。その瞳には、以前のような生気の無い暗さは無く、微かですが輝きが戻っていました。彼女が落ち着くまで、抱き合って頭を撫でてあげ、ベットの端に2人で座りました。そして、、、「今日は、2人で新しい事をするのよ。これは私もした事が無いから 上手く出来る自信が無いの。それでも貴女の為にしなくてはいけない 事なの。わかる?」
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