便璃に話しかけたのは「緊張のあまり黙っていられなくなって」「人に見つかった時のことを考えて」というのもあるが、それは建前で、この時俺は、無意識的にこの異常な関係を演じたい、演じて欲しい、と考えていたのかもしれない。
「何飲みたい?」
そう言って、財布から二人分のお金を取り出す俺。
道中、もうちょっと新鮮な便璃のリアクションを期待していたが、特に目新しい反応はなくて、ちょっとだけがっかりする。でもよく考えたら、あの時の便璃も、この異常な状況で「普通を演じて」楽しんでいたんだろうな。
「ありがとうございます」
いつもより若干薄めの笑顔で、お礼を言う便璃。そのまま部屋に戻ろうと思ったが、もっと楽しみたくなって、俺は更に過激な提案をする。
「便璃ちゃん、髪濡れてない?」
「?」
「タオル、髪に巻いた方がいいんじゃない?」
平静を装おうとする俺だったが、俺を見上げる便璃の視線は痛かった。
「……」
しかし相変わらず、俺の無茶ぶりには余計な返答をせず、淡々とこなしていく。
「!!」
自分でやらせておいて、自分で焦り出す俺。
もちろん、便璃が髪にタオルを巻く神秘的な姿が一番印象的ではあったが、ほとんど全裸で廊下に立つ便璃の姿は、なんというか、心地よい罪悪感が身体を痺れさせるような、そんな破壊力があった。
(これは……やばい……)
居酒屋で便璃のアソコをなぶった時よりも強い、目の奥に流れる電撃のような衝撃。
多分便璃は、自分の身体一つが俺の精神をここまで滅茶苦茶にしているなんて、思ってもいないんだろうな。そう思うと、余計にこの少女を虐めたくなった。
「あ、街が綺麗だ」
そう白々しく言って、自分達の部屋をスルーして、廊下の突き当りまで便璃を誘導する俺。
別に窓に連れてきたかった訳ではない。その窓に向かう途中にある鏡の前を通りたかったのだ。
一瞬だけ鏡の方に目をやるが、まるで「鏡なんてない」という恥じらいの態度で、足早に俺の方に駆け寄る便璃。これは、予想していた反応のうちの一つだった。
「あれ、兄貴ん家じゃない?」
俺も、鏡の前での便璃の反応についてはスルーして、とりあえず便璃に窓の外を覗かせようとする。
(そんなことはあり得ないが、)窓の外から自分の姿が見られるのが恥ずかしいのか、便璃は窓から顔を出そうとはとしなかった。
「……」
時刻は深夜1:00頃。気が付けば俺は、もう何時間も便璃と二人きりでいたことになる。
続きます。
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