便璃がシャワーを浴び終わるまでのことをざっと紹介すると、俺が「髪のお礼に身体を洗ってあげるよ(←触りたいだけ)」と言ったが、すんごい嫌な顔をされて拒絶される。そんな感じ。
しかし、見られる分には一向に構わない様子の便璃。自分の身体を拭く便璃の姿を、便座に座りながらまじまじと観察する俺。
まるでおあずけの犬のような気分だったが、欲望に任せて触って便璃に嫌われるのも嫌だったし、これはこれで幸せだった。
しかし、この子は本当にすごいと思う。お風呂から出た後も、俺の期待を悟ってか、ずっと服を着ずにショーツ1枚の姿でいてくれた。兄貴の家や居酒屋での態度そのままで、服だけなくなった感じ。
「便璃ちゃん、喉乾かない?」
そんな時間が、長い間続いたからだろうか。その時俺は、便璃が裸同然の姿でいることがなんだか当たり前のことのように思えてきて、色々な感覚がマヒしていた。もしかしたら、便璃もそうだったのではないだろうか。
「じゃあ……ジュース買いに行こうか」
「えっ」
階段側とは別の突き当たりのすぐ側に、自動販売機があった。エレベーターでこの階(3階だか4階だか)まで登ってきた時、なんかそれっぽい物があったのは確認している。
「……」
押し黙る便璃。彼女も、俺の言わんとしていることは把握している。
「あ、いや。今日そんな寒くないし、服はいいよ」
面倒くさそうに自分のカバンの中を漁ろうとする便璃を見て、慌てた口調になる俺。あまりの必死さに多分便璃は引いていたが、俺の要求は彼女にとっても未知の魅力であったらしく、すぐにカバンから手を離した。
「はい、これ」
それだけ言って、バスタオルを手渡す俺。意外なことに、「え、バスタオル?」みたいな表情になって、それでも俺の意図を理解してバスタオルを受け取り、自分の身体に巻きつける便璃。
目算通り、丁度彼女の胸から腰回りまでだけが隠れる。これなら、人に見られても「だらしない」と思われる程度で済むだろう。
「……」
ドアを開けてキョロキョロと見渡し、安全確認の後部屋の外に出る俺。
俺が前を歩いて、便璃がその後ろを着いてくる。「どうせこんな時間に人なんか出てこないさ」なんて高を括っていたが、それでも互いの心音が聞こえる位に二人は緊張していた。
「 外(廊下)、涼しいね」
「……そうですね」
普段通りの恰好の俺と、無防備な恰好の便璃が普通に過ごす。この異常な状況を、俺は楽しんでいた。
続きます。
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