昨日、ガキの家に行くつもりが仕事が終わらずい行けなかった。
ガキは「無理しないで休んで。」ってメールが来たけど、朝、家を出てなんとか間に合った。
教室に入ると、丁度ガキが号令をかけてるところだった。
「起立、礼、お願いします、着席」
あれ、ガキの声ってこんなに良く通ってたっけ。
いつもの耳元での「あのね、お兄ちゃん・・」の声と全く違うな。
キビキビしてるって言うか、節度があるって言うか、すごく立派に聞こえるよ。
教室の中で俺は浮いてしまった。他の父兄より若いんだ。しかたないか。
授業は国語だ。教科書を読む事から始まって、内容について先生が質問する。
子供達はみんな元気に手を上げてる。もちろんガキもだ。
内容は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」だった。
授業も終わりに近くなって、先生が質問する。
「何故、御釈迦様は蜘蛛の糸を降ろしたんでしょう?」
多くの子供達が答えた。
「カンダタがかわいそうだったから」
でも、先生の次の質問はこうだ。
「では、なぜ可哀想だと思ったんでしょうか?カンダタは一杯悪い事をした人ですよ。」
誰も手を上げない。ただ一人、ガキが手を上げた。
「お釈迦様は、全部の人を愛してくれるからだと思います。
きっと、良い人も悪い人も関係なく助けたかったんです。」
胸がズキッとした。悪人でも助けたい・・。悪人・・。
俺だな。鬼畜の悪人だよな。今は優しいですなんて言い訳はしないよ。
でも、それでも愛してくれたんだよな。救ってくれたんだよな。
お局様の言葉を思い出した。
「修行中の子供の神様って感じ・・」
そうなのかもしれないな。子供の神様が、俺が鬼畜なのを承知のうえで、
わが身を犠牲にして救ってくれようとしてるのかもな。
授業が終わって、またガキの号令。
「起立、礼、ありがとうございました、着席」
子供達が一斉に後ろを、親のいる方を振り向く。
ガキも振り向きかけた。でも一度動きが停まった。
また、恐る恐るって感じで振り返る。
目が合った。ガキの目が大きく見開いた。叫び出しそうな自分を堪えている。
俺はぎこちなく笑いかけて手を上げた。ガキが肯く。満面の笑顔だ。
子供達が教室を出て、先生と父兄との懇談だった。
「みんな、のびのび元気に学校生活を送っています。」
「新しいクラスなのに、もうクラス委員長を中心にまとまっています。」
「イジメとか、全くありませんよ。」
そうか、よかったよ。ガキがイジメになんて心配する必要なかったんだ。
ガキはクラス委員兼全校児童会長だそうだ。
ガキなら務まるよな。でも気を使いすぎないかな。少し心配でもある。
校庭で遊んでるガキが見える。
浮いてるんじゃないけど、なにか他の子と違うな。
確かに痩せてる。他の女の子がスパッツやニ―ハイで足を隠してるのに、
ガキはいつもの短いショーパンで細い足を剥き出しだ。
上も長袖Tシャツ一枚。けして裕福と思える服装じゃないよな。
そう考えてたら、母親の一人がつまらないことを言った。
「クラス委員の女の子の親御さん、去年もPTAに出席できなかったでしょ。
あの子がクラス委員で大丈夫なの?」
俺が「ここにいるぞ。」って立ち上がる前に先生が即答した。
「全く問題ありません。すばらしい子ですよ。あの子は。」
父兄の中から、半分以上の人数が先生に賛同の声を上げる。
「そうだ、そのとおりだ。」「うん、良い子だよ。」「明るくしっかりしてる。」
「娘がまた同じクラスで良かったって喜んます。」「また表彰されたそうですね」
お前って本当にすごい子なんだな。改めて驚いたよ。
懇談会が終わって外で待ってたガキと一緒に歩いて帰る。
恥ずかしげもなく手を繋ぐ。ガキの体温を感じる。
どうしてこんな素晴らしい子が、俺みたいな鬼畜を好きになってくれるんだろう?
何度考えても分からない。
ガキに運命付けられた修行なんだろうか・・。
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