月曜にガキからメールが来た。
「お彼岸におはぎを持って行って良いかな?」
うん、仕事が忙しくて、多分会社だよ。
会社で良ければおいで。
「うん、火曜日に会社に持って行くね。
上手くできなかったら、ごめんね。」
女の子らしい可愛いメールだな。
火曜日か・・。
日帰りだな。ゆっくりする暇はないか・・。
しかたあるまい。
火曜日、俺の課は課長以下、全員休日出社だ。
11時過ぎに課のお局様から
「あの子、来たわよ。」
って声が掛った。
廊下に出てみると、いつものショーパン姿のガキが胸に風呂敷包みを抱いて立ってる。
「あ、お兄ちゃん。」
俺を見て、一瞬嬉しそうな笑顔が輝いたけど、すぐなんだか泣きそうな顔になる。
どうしたんだ?何かあったのか?
「お兄ちゃん、ごめんなさい。
おはぎ、失敗しちゃったの。」
ははは、お前、初めて作ったんだろう。
最初から上手く出来る方がどうかしてるよ。
「お兄ちゃん、粒あんが好きだから、粒あんを作ろうとしたんだけど、きれいにならないの。
べたべた流れて、うまく下のご飯を包めないの。」
お前、粒あんを小豆から作ったのか?
俺は、餡は買ってきたのを使ったのかと思ってた。
「ごめんなさい。
美味しくないと思うの。
美味しくなかったら、捨ててちょうだい。」
ガキは、俺に風呂敷包みを渡して、帰ろうとする。
泣き出しそうだ。
待てよ。とにかく味を見させてくれ。
その場で風呂敷包みを開いた。
重箱が3段だ。
一番上の蓋を開ける。
縦横3個づつ、9個入ってる。
粒あんだけじゃない。
黄粉をまぶしたものも入ってる。
9×3で27個か。
作るだけで大変だったろうに。
とにかく、一つ摘まんでみる。
美味い。美味いじゃないか。
何が失敗だよ。凄く美味しい。
「本当?本当に美味しいの?」
嘘言ってもしょうがないじゃないか。
俺好みの少し甘さが強い田舎風のおはぎだ。
俺のばあちゃんが作ってくれたのとよく似た味だよ。
「お兄ちゃん。食べてくれる?」
ああ、もちろんだ。ありがとう。
「話しは聞いた。一人占めはいかんよ。」
いつの間にか、同僚どもがドアから顔をのぞかせてる。
「こんなに有るなら、俺らの一つづつはゴチになれるかな?」
「ねえ、お嬢ちゃん。良いよね。」
くそー、聞かれてたか。
しかたがない。一人一個づつだぞ。
わー、って盛り上がる室内。
ガキは恥ずかしげに部屋には入らず、すぐに帰ろうとする。
お局様がガキにジュースをくれた。
すまん。ありがとう。
ガキは次の電車で帰ると言う。
そうか、明日は平日だから日帰りか。
ゆっくり話す暇もないのに、朝早くから家を出たんだな。
「おい、お嬢ちゃんと飯位食ってこい。」
話せる課長だ。お言葉に甘えよう。
さあ、何を食べたい?
「私、オニギリ持ってきたの。
これ食べるから、良いよ。」
そうだった。これがガキなんだ。
「お兄ちゃん、お仕事がんばってね。」
がんばるさ。
お前が応援してくれたんだから。
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