後藤くんが部活に復帰してから、わたしが根本くんの家に行くことはなくなった。根本くんは塾があるし、後藤くんの練習を見てから帰るのが日課になった。一緒に帰りたかったけど、うちのサッカー部の練習は遅くまでやってたし、わたしはまだ根本くんの彼女だから後藤くんとは帰れない。暗くなる前にいつも1人で帰った。グラウンド横を通るときはいつも後藤くんと目が合わないかなとずっと見てたけど、集中して練習する後藤くんと目が合うのは数えるほどだった。目が合わなくても一生懸命にプレーする後藤くんはかっこよかった。
一度夜後藤くんと電話で長話をして、翌日根本くんから「誰と長電話してたの?」と怒られてからは、根本くんに先に電話して、終わってから後藤くんとゆっくり話すことにした。
たまに練習後に後藤くんと近所の公園でお話ししたけど、あれ以来セックスはしなかった。練習でなかなか時間はなかったし、川沿いのスポットでするにはもうかなり寒くなってしまってた。それでもコンポタ飲みながら15分くらい話して、後藤くんに抱きしめてもらうだけでわたしは幸せだった。
12月を前に、わたしは根本くんにはっきりと別れを告げることを決意した。お互い好きなのに後藤くんと堂々とクリスマスに逢えないのは納得いかなかった。それにこのままいることが根本くんも含めて、誰も幸せになれないことは明らかだったから決着をつけようと思った。わたしは根本くんに別れを伝える決心をして、塾の前で根本くんが出てくるのを待った。
塾から出て来た根本くんは意外にも友達と一緒だった。学校では後藤くんとしか喋らないのに、どちらかというとリア充っぽいグループの人たちと普通に話しながら出てきた。私に気づいた根本くんは驚いて「さりぃどうしたの?」こちらに駆け寄って来た。まわりの友達が根本くんを囃し立てる。「根本ほんとに彼女いたんだ!ウソじゃなかったんだ!」「彼女ほんとにかわいいじゃん!彼女さんおれにも友達紹介してくださーい!」「根本の噂の彼女見れてよかったわ!」根本くんは「おれ彼女と帰るわ!わりぃ」と言って友達たちから離れた。友達たちはけっこう遠くになるまで「またねーさりぃちゃん!」とか「今度おれともあそんでねーw」と大声で叫んで笑ってた。今思えば、この言葉が意味するところはわかるのだけど、この時の私はこれから切り出す別れ話で頭はいっぱいで、まったく理解していなかった。いつも後藤くんと会う公園は避けて、違う公園でわたしは根本くんに別れ話を切り出した。
さりぃ「根本くんごめんなさい。別れてください」
根本「…」
さりぃ「もう気づいてると思うけど、わたし後藤くんのこと好きになってしまって」
根本「…」
さりぃ「根本くんは悪くない、悪いのは私なんだけど許して。別れてほしい」
根本くんはしばらく黙ったのち、後藤くんはなんて言っているのかときいてきた。後藤くんは関係ない、私が自分で決めて来たことをつたえた。しばらくの沈黙の後、根本くんは「考えさせてほしい」と言って、公園をあとにした。
それから数日、根本くんとはメールや電話で別れる別れないの押し合いへし合いを繰り返した。わたしの折れない態度を見て、根本くんは「じゃあイブまで付き合って。それで終わりにするから」とメールを送ってきた。やっと終われる。心の荷が降り、私は後藤くんにクリスマス逢いたいと伝えた。根本くんと別れる話は、なんか嬉々として伝えるのもおかしいし、クリスマスに直接言えばいいと思い、後藤くんには言わなかった。
期末試験の勉強からクリスマスの準備、あわただしく毎日が過ぎ去った。
12月24日、根本くんとの最後のデートは塾終わり17時から電車で二駅となりに移動してカラオケだった。事前にメールで、最後にホテルに行きたいとかなりしつこく言われたが、頑なに拒んだ。折れた根本くんは前日の夜にカラオケデートを提案してきた。カラオケはあまり好きじゃ無いけど、根本くんの最後の希望だから楽しもう、と了承した。ちょっと緊張しながらはいったカラオケの部屋には、なぜか根本くんの塾の友だちが4人いた。
※元投稿はこちら >>