GWの後、何度か電話があったが休みが違う事もあって会う事はなかった。
七月の最終火曜日、朝7時に電話が鳴った。
「オハヨー、ターくん起きてた?」
「起きてたよ」
「ターくん、今日お休み?」
「悪い月末で色々あるから、事務所に出るつもり」
「じゃ明日は?」
「何とかなるかな」
「だったら海水浴行こうよ♪、新しい水着買ったんだ。スクール水着卒業だよ、ターくんにも見せてあげるから」
「何言ってんだ、誰が見せてくれって頼んだんだ」
互いに冗談を言い合いながらやり取りを楽しむ。
車を出そうかと言うと、バイクが良いと言う。
夏のバイクは傍目で見るのとは違って、ほとんど拷問に近いものがある。
糞暑い中、股間にストーブを挟んでいる様なものだ。
走っている時はまだしも、信号待ちなどバイクを放り出したくなる。
仕方無いと諦め、行き先と待ち合わせ時間を決めた。
県内でも水が綺麗だと、有名な半島にある海水浴場にした。
当日10時に迎えに行くと、由香の変わり具合に驚いた。
髪型はベリーショートから、短めながらボブになり、春にあれ程日焼けしていたのに、今は逆に白くなっていた。
バイクに乗るというので、ジーンズにロングTシャツという姿だが、胸の膨らみが以前より目立つ。
たった二ヶ月見ないだけで、これ程変わるものだろうか。
由香も照れ臭いのか、少しハニカミながら
「ちょっとは変わった?」と聞いてくる。
「うん可愛くなったよ」
小躍りして喜ぶ由香をバイクに乗せ、海水浴を目指した。
少し遠回りだが信号の少ない海岸線を流す。
おだやかな波が夏の陽光を浴び、キラキラと反射する。
焼けたアスファルトにバイクの濃い影が映しだされ、高速で移動する。
海岸沿いの九十九折りの道を、右に左に車体を傾ける。
少しコーナーを攻めてみる。
私の体の動きに合わせ、由香も体を左右に振る。
兄に乗せられた経験かもしれないが、勘の良い子だと感心した。
ペースを上げたおかげで、予定より早く着いた。
ヘルメットをとると、強い潮の香りが鼻を擽る。
海の家で桟敷を借りて、ヘルメットと貴重品を預ける。
小銭だけ持って、桟敷に荷物を運ぶ。
綺麗で有名海水浴場だがアクセスが悪いせいか、桟敷も四割程の入りだ。
まぁ夏休みとは言え、平日ならこんなものなのかもしれない。
由香が唐突に目の前で脱ぎ始めた。
ヘッヘーと、お得意の舌を出してジーンズを一気に足元に引き下ろす。
「ジャンジャ、ジャーン、ビックリした?」
始めから水着を着て来たらしい。
黄色い生地に花柄を散らしたビキニだ。
「また~、そんなんで驚くかよ」
由香はTシャツも脱ぐと、グラビアアイドルの様にポーズをとる。
「どう?ちょっとは見直した」
相変わらずスレンダーな体つきだが、確かに胸は少し大きくなった気もする。
「似合ってるよ、すごく可愛いパチパチ拍手」
「もう、真剣味が無いんだから」
頬を膨らませる由香。
私は脱衣所まで行って着替えた。
桟敷では肩にタオルかけた由香が、膝を抱えて待っていた。
その後ろ姿が急に愛おしく感じた。
抱きしめていなければ、何処かへ消えてしまいそうな気がした。
由香に声をかけると、満面の笑みで振り返った。貸し浮輪を借りて、二人で海に入る。
浮輪に腰を沈め漂う由香を浮輪ごと沖へと引っ張って行く。
回りには誰も居なくなった。
「ターくん、良い天気だね」
空を見上げ由香が言う。
「そうだな」
「ねぇターくん、今日私を抱いてよ」
空を見上げたままポツリと呟いた。
「何を言ってるんだ、そろそろ戻るぞ。腹も減ったし」
「私本気だよ」
今度は私の顔を見詰めて言う。
由香の目には涙が溢れていた。
何か気のきいた冗談で返すつもりだったが、無理だった。
「何かあったのか?」
ウンウンと首を振る。
「ターくんが好きなだけ、私はまだ子供かもしれないけど好きな気持ちに嘘は無いよ」
「分かったけど、俺を困らせないでくれ」
「由香の事は愛おしいとは思うが、今はまだ女としては見られないよ」
「私の事嫌い?」
「嫌いじゃないさ」
答えを見つけられず、逃げているのは私自身、自覚していた。
年齢差もあるが、別れた妻への未練なのかもしれない。
桟敷に戻る頃には、由香も平静を取り戻していた。
何も無かった様に振る舞う由香に正直助けられた。
海の家の食堂で、軽く食事をしてもう一度海に入った。
2時半にはシャワーを浴び、帰路についた。
濡れた髪でヘルメットを被るのに、抵抗はあったが仕方無い。
走り出して暫くすると、急に西から雲が流れて来て、今にも雨が降りそうになった。
道半ばで、滝の様な雨になった。
服は全身ずぶ濡れだ。
降り始めのむせる様な夏の匂いは、今は雨に押し流されいる。
濡れた体は我慢できても、この大雨では視界が効かない。
路肩にバイクを止め、由香に事情を説明する。
見渡す限り暗い空、当分止みそうに無い。
何処か雨宿りの場所を探そうと話すと、由香が指差した。
「あそこ行こうよ、私一度行ってみたかったんだ」
指差した方を見ると、ラブホテルだった。
駄目だと言うと、もうあんな事は言わないから、興味があるだけだからと食い下がる。
夏とはいえこれ以上雨で体が冷えるのもまずいと思い、ラブホテルに入る事にした。
ガレージにバイクを突っ込み、横のドアから急な階段を上って部屋に入った。
エアコンが効いているせいで、濡れた体が急速に冷やされた。
さっきまで物珍しそうに、あちこち見ていた由香もガタガタと震えている。
先にシャワーを浴びる様に由香に言い、バスルームに連れて行った。
アメニティや水栓の使い方を簡単に説明して、バスルームを出た。
私も服を脱ぎ備え付けのガウンを羽織った。
洗面化粧台で服を絞り、バスタオルで挟んだ。
少しでも水分を減らしたかった。
タバコはケースに入れていたので、助かった。
火を着け、ベッドに仰向けになる。
この状況はやはりまずかったのでは。
時計を見ると4時が近い。
確か由香の母は、6時過ぎには帰宅すると言っていた。
5時にはここを出ないと間に合わない計算だ。
遮光用の建具を開け、空模様を確認するがまだ止みそうにない。
二本目のタバコに火を着けたところで、由香がバスルームから出て来た。
私と同じ様にガウンを羽織っている。
私は、服を絞ってタオルで水分をとる様に言ってから、バスルームに向かった。
浴槽にお湯が張られている。
由香が気を利かせてくれたのだろう。
ゆっくりと体を温める。
まだ30分くらいは大丈夫だ。
バスルームから戻るとベッドに入った由香が、アダルト放送を見ていた。
「ターくん、すごいねこれ」
「未成年が何見てんだ、逮捕されるぞ」
「そん時はターくんも一緒だよ」
「そろそろ出ないと、母さんが帰るまでに間に合わないぞ」
「大丈夫だよ、この電話って外に電話出来るって書いてあるし」
「ママには友達の所に泊まるかもって言ってるから」
「おいおい、俺は聞いてないぞ」
「別に泊まらなくていいからさ、雨止むまでは居ようよ」
また由香のお願いに屈してしまった。
私もベッドに入り、見るとも無しにビデオを見ていた。
由香は盛んに、スゲーとかエロいとか一々合いの手を入れる。
おそらく照れ隠しなのだろう。
「そう言えば、喧嘩した友達とは仲直りしたかい」
一瞬で由香の顔が曇る。「なんだまだ喧嘩したままか」
由香は顔まで布団を引き上げると鳴咽し始めた。
どうした、何かあったのかと聞いてもただ泣くばかり。
15分程も泣いただろうか。
少し落ち着いたのを見計らって、再度問うてみた。
少しづつ話し始める由香。
噂は忘れ去られるどころか、五千円でやらすとか千円でパンティを売ってるなどのデマが広がり、すれ違いざま背中に卑猥な言葉を書いた紙を張られたりすると言う。
机に落書きされたり、下駄箱にコンドームが入っていた事もあったそうだ。
中学から続けていたテニス部も五月末には、辞めてしまったと話した。
「なんで学校に言わないんだ」
「そんな事したら、また何言われか分かんない」
「それにターくん言ったじゃん、そのうち皆忘れるって、私ターくん信じてるもん」
悲しい程の泣き笑い。
「なんでもっと早く言わなかった」
「ターくんに嫌われたくなかったの」また涙ぐむ。
無責任に由香にかけた言葉が、ここまで彼女を追い込んだのかもしれない。
昼間の態度も今は理解できる。
全ては私のせいだ。
この子を守ってやりたい。
本当に愛おしいと思った。
どちらともなく唇を重ねあった。
今度は由香も積極的に舌を絡めてくる。
私の中で何かが弾けた。
右手は、由香のガウンの合わせ目から滑り込んだ。
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