GWの前日、帰宅後留守電をチェックしていると
「ターくん、由香です。GWはお休みですか?休みならまた何処か連れてって。11時頃また電話します」と、元気なメッセージが残されていた。
時計を見るとまだ30分程ある。
風呂に入ると電話をとれないかもと思い、買ってきた惣菜で晩酌を始めた。
11時を少しまわったところで電話が鳴り、受話器を取ると案の定由香だった。
「今晩は、ターくん明日休み?」
「いや明日は休日出勤、四日五日は大丈夫だけど」
「ラッキー♪だったら四日何処か行こうよ、私太平洋が見たいな~」
「ターくんのバイクでツーリングしたい!」
平日定休日の私にとって、祝祭日の渋滞する時に出掛けるのは苦痛なのだが、由香のハイテンションに引きづられ約束してしまった。
当日渋滞を考慮して早めに出発する事にした。
待ち合わせ場所は、由香の家から自転車で10分程の最寄り駅にした。
その駅まで私の家から24・5㌔ある。
時間は8時半なのでそろそろ出かけなければ間に合わない。
バイクのエンジンをかけ、エンジンが暖まるまで一服する。
今日のルートを頭の中で反復してみた。
目的地まで片道約140㌔、昼はバイク仲間のイタリアンでとるつもりで、昨夜のうちにコースランチを予約しおいた。
高速が二人乗り禁止なのが痛い。
高速が使えれば、往復で2時間近くは短縮出来るのだが。
今から出れば、下道でも午後4時には帰れるだろう。
二、三度アクセルをあおりエンジンの調子を確認して由香の元へ向かった。
小さな駅舎の前に、大きなデイパックを背負った由香がすでに立っていた。
バイクを由香の前で止め、ヘルメットを脱ぐ。
「オハヨー」由香の明るい声にちょっと怯む。
デイパックからヘルメットを取り出し、「ママには内緒だからね」と笑顔を見せ、舌をちょっと出してみせる。
今日の予定を説明して出発した。
やはり渋滞していたものの、予定通り目的地に着いた。
名勝の浜を散策し、併設された水族館を見た後、食事の為市街に戻った。
本格的なイタリアンは初めてという由香は、出てくる料理に一々反応する。
「う~ん、なんか大人な感じ♪」
なんだか分かった様な分から無い様な感想を言う。
もっと遊ぼうとぐずる由香を乗せ帰路についた。
4時前に駅に戻ったが、
名残惜し気に言うので、誰も居ない駅舎のベンチで話をする事にした。
今日一日でかなり由香の事が分かった。
家族は母と兄との三人。
父親はいるが母とは入籍しておらず、要はお妾けさんの子である事。
兄はこの父親の子では無く、母が若くして結婚し離婚した男との間にできた子だと言う。
総じて優しい父親だが、兄は血の繋がりが無かった為か、あまり良い関係ではなかったそうだ。
六つ上の兄は高校卒業すると自衛官になり、今は北海道に居るらしい。
母は、その父親が経営する関連会社で事務として働いている。
父親の素性を聞くと、私の会社とは取引はないが、県内でもそこそこ名の知られた建設会社の社長だった。
兄が高校時代乗っていた2スト250CCが家にあるので、免許をとって乗るのが当面の目標。
そして将来の夢は、教師になる事だと言う。
母を見ていて、女も自由に生きていくには、収入を得る術を持たない無理だと感じたらしい。
「ねぇ明日も付き合ってくれる?」
駄目だという理由もないので、なま返事を返すと
私の部屋に行ってみたいと言う。
その時は別にやましい気持ちも無く、ただ若い子がバツ1の男の所にノコノコとやって来るのも、世間的にも不味いだろうと思っただけだ。
行きたい行きたいと駄々をこねる由香に、またまた根負けして承諾してしまった。
天気予報では明日は雨らしいので、車で迎えに来る事を伝えた。
二日続けて朝早くから家を出るのもまずいだろうと、1時の待ち合わせにした。
翌日車で迎えに行くと、デニムのミニスカートを履いた由香がいた。
上はフリルの付いた白いブラウスに、淡いピンクのカーディガンだ。
ベリーショートの髪型に小麦色の肌、首から下は思い切り少女趣味の服装。
そのアンバランスさがなかなか可愛い。
昨日と違って、小さいお洒落なデイパックを背負っている。
これが今の流行りなのだろうか。
由香はすぐに私の車と気がつき、助手席のドアを開け乗り込んで来た。
「ターくん、この車カッコイイ!なんて言う車?」
私はメーカーと車名を告げた。
私はバイクはH社だが、車は昔からN社のファンだ。
由香が晩御飯作るから、何処かスーパーに寄って欲しいと言う。
ろくな調理器具が無いので断るが、鍋くらいはあるでしょと譲気配も無いので自宅近くのスーパーに寄った。
二人で店内をうろうろするのもヤバイと思い、一万円を渡し由香一人で行かせた。
初めは文句タラタラだったが由香だが、それじゃ帰るかと脅すと渋々買い物に向かった。
車中で待つ間、今の自分について考える。
16も年下の女の子に振り回されているおっさん。
いったいなんなんだ、自分でも理解不能だ。
カーオーディオからは浜省が流れている。
なぜだかイラッとして、吸っていたタバコを揉み消した。
ポツポツと雨垂れがフロントグラスをたたき合う始めた。
由香が小走りに車に駆け寄ってくる。
「今晩はカレーだよ、お菓子もいっぱい買っちゃた」
嬉しそうに買い物袋を広げて見せる。
いつもこの笑顔に負けてしまう。
私のアパートはこのスーパーからは目と鼻の先だ。
駐車場に車を入れ、由香を伴って部屋に向かった。
鍵を開け2DKの部屋に由香を招き入れた。
物珍しそうに部屋を見回すと、「結構綺麗にしてるじゃん」と偉そうに言う由香。
由香は買ってきた物を冷蔵庫に仕舞うと、菓子類と飲み物だけ持って、居間として使っている部屋のソファに腰掛けた。
「ターくん、コップある~」
ハイハイと返事して、グラスを二つ用意して由香の隣に腰掛けた。
テーブルの上には、誰が何人で食べるんだと言うくらいの量の菓子が山積みされている。
2時間ほどテレビを見ながらお菓子を摘み、時折由香が振ってくる話題に答えた。
流石に由香も退屈してきたらしく、キョロキョロと部屋を観察し、目敏く本棚からアルバムを見つける。
見て良いかと尋ねるので、本棚から取り出し渡してやった。
背表紙には年数が書いてあるので、どうやら古い順番に見るつもりらしい。
高校生の私がそこにいた。
自分で見るのは恥ずかしいものだ。
事実もう何年も手に取った事さえなかった。
勝手に見てくれと言って、キッチンでコーヒーを入れる。
ドリップしたコーヒーを二人分運ぶと、真剣にアルバムを見ていた由香が顔上げる。
「この人が前の奥さん?」と、一枚の写真を指差した。
アルバムのほぼ半分は妻との思い出だ。
高校から付き合って結婚した事は、由香にも話していたのですぐに検討がついたのだろう。
「奥さん綺麗な人だね、うぁ巨乳!」
それは高校二年生の時、海水浴に行った時のものだった。
「スタイル良いんだね、ボン、キュ、ボン!って感じ」
「ターくんやっぱり巨乳好きなんだ」
「馬鹿、たまたま彼女がそうだっただけだよ」
「本当~、なんか怪しい~」
由香が横目で睨む。
コーヒーを飲みながらアルバムをめくる。
大学時代に突入した。
大半が妻とツーリングに行った時のものだ。
由香は興味深々で、ここは何処?どんな所?と、やたら質問してくる。
良いな~を連発し、私も大学生になったら絶対行くを繰り返す。
結婚式のアルバムも見ながら、ああだこうだと聞いてくる。
適当に受け答えしていると、アルバムの最後に挟んであった封筒を見つけ手に取った。
私も昔の事ですっかり忘れていたのだ。
「何これ?」
由香が折り曲げられた封筒を開け、中に入っていた物を床に広げた。
一瞬、私の息が止まった。
それは新婚時代、お遊びで妻とのセックスを撮ったポラロイド写真だ。
見る事も無く7~8年もたつので、すっかり記憶から消えてしまっていた。
由香は最初おどろいた様だが、慌てて拾い集める私をよそに数枚手に撮り、「イヤー、エッチ!エロエロだ~」と囃し立てる。
写真を持って逃げる由香を狭い部屋の中で追いかける。
ソファに倒れ込んだ由香に馬乗りになり、腕を押さえた。
「ごめん、怒った……、ターくんなら良いよ、そう思って来たんだ」
由香の手から写真が落ちた。
顔を見るとかすかに涙目になっている。
素直に可愛いと思った。
ただその時はまだ充分理性のブレーキが効いていた。
歳の差を考えると、到底許されないとも。
目を閉じた可憐な少女を少しからかってやろうと思った。
私は唇を重ね、唇に舌を差し込み、口内を探る様に舌を動かした。
アッと由香が喘いだ瞬間、脇をくすぐってやった。
キャっと叫んで体を縮める由香。
「ターくんの馬鹿」
「由香が言う事聴かないからだ、大人をからかうなよ」
「う~ん本気だったのに、ターくん意地悪だ」
少しドキッとした。
「子供が馬鹿な事を言うじゃないよ、幾つ違うと思ってんだよ」
写真を片付けながら言う。
「もっとちゃんと見たかったな~」と、お得意の舌出しで甘えてくる。
「冗談はやめてくれよ」
困惑顔で由香に訴えた。
「ごめんなさい、もう言わないから、またキスしてね」
「なんで」
「だって、キスがあんなに気持ち良いって知らなかったんだもん」
「だ・か・ら、またしてね」甘えた声で訴える。
「由香が言うこと聞いていい子だったらな」
「もう、いつも子供あつかいなんだから」
カレーを作ると言い張る由香を、そろそろ帰る時間だからと、帰り支度をさせ車で送った。
別れ際に、ありがとうと言うと、私の頬にキスをしてくれた。
バックミラーには、いつまでも手を振る由香の姿が映っていた。
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