翌日予定通り、家電を処分し引越しを始めた。
すでに片付けは出来ている。
段ボール箱と家具が機械的にトラックに運び込まれる。
最後にバック一つが残された。
バックには由香のちょっとした部屋着と由香が作った二人のアルバム、由香専用と持って来た、キャラクターの描かれたマグカップが入っている。
バックを玄関に置き、手紙を一通忍ばせ鍵をかけた。
鍵はそのままポスト口に放り込む。
引越屋のトラックはすでに出発している。
私はバイクのエンジンをかけ、暖機運転を始めた。
転勤は一応上司から、三年と言われている。
父親の病気の事もあり、またここに戻れるとは思うが、約束してくれた上司が居なくなれば、すぐに反古にされるのが会社だ。
夕方になれば由香がやって来て、あのバックを見つけるだろう。
もし由香が来なければ、不動産屋がバックを見つけて連絡してくるはずだ。
ちょっとした賭けだが、必ず由香が来ると信じていた。
由香は泣くだろうか。
きっと私を怨むだろう。
アイドリングが安定した事を確かめ、バイクに跨がった。
由香との思い出を紡いだアパートを、一度振り向き見上げた。
クラッチを継ぎ走り出す。
もう振り向く事はなかった。
由香へ
許して欲しい。
こうするのが由香の為だと思う。
由香に似合いの恋人を見つけて下さい。
三年間ありがとう。
植村 隆弘
追伸 鍵は閉めてからポストにいれて下さい。
さようなら
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