由香との最後の二日間が始まった。
いつものインターチェンジ近くのコンビニで待ち合わせた。
高速に上がる前に、休憩するサービスエリアを伝えた。
今は、バックミラーで心配しながら確認する必要は無い。
私の走りに充分ついて来る。
由香の為に、この二日間何をしてやれるのか?。
『良い思い出』を、ただそれだけだ。
明後日の10時には、リサイクルショップと引越屋が来る事になっている。
ライフラインの手配も終わっている。
車は先週の休みに、転勤先の不動産屋を訪ねた際に置いてきた。
荷物を積み込み引越屋と一緒にバイクで行けば、それで全て終りだ。
携帯は、先月から会社のを支給されている。
勿論由香には教えていない。
自分の携帯はこの旅を終えたら処分するつもりだ。
バイク仲間にも転勤は伝えなかった。
由香もその日は、夕方まではバイトと聞いている。
可愛そうとは思うが、由香のバイトが終る頃には、私の痕跡は無くなっているはずだ。
ただ一つ由香が、会社に聞く事は考えられた。
その時は少なくても、転勤先は知られる可能性はある。
しかし今は、それを考えても仕方が無い。
四月が目の前とは言え、走りだせば体感温度はかなり低い。
山越えをしてしまえば違うと思うが、まだ山の中だ。
サービスエリアの熱いコーヒーで暖まる。
次の休憩ポイントを打ち合わせ、再び走り出す。
昼には目的地に着いた。
観光ガイドで紹介されていた店で昼食をとり、いくつかの旧跡を見てまわった。
観光案内にあった桜の名所に寄る事にした。
河川沿いに桜並木が続き、途中に小さな公園があった。
バイクを止め、桜の下にあるベンチに腰掛けた。
暖冬とは言え、南国のこの地でも桜はまだ二分咲きだった。
それでも春の伊吹は、充分に感じる事は出来た。
「来週なら満開だったかな~、でも綺麗だね」
由香が頭上を見上げ呟く。
「ターくんと知り合ってう三年だね。」
「出会った時は、散り始めだったかな」
「そうだね。私ターくんに出会わなかったら学校を辞めてたし、もしかしたらもうこの世には居なかったかも」
「それははちょっと、大袈裟だろ」
「うぅん、だって入学して一週間くらいで、変な噂流されてさ。中学からの友達に裏切られて、毎日毎日いじめられて…」
由香は私にもたれかかり、肩に頭をくっつける。
「ターくんが側にいてくれなかったら、私…」
「由香は強い娘だから、俺が居なくても立ち直ったさ」
「そんなこと無いよ。ターくんに出会えて良かった」
由香の肩に手を回し、強く抱き寄せる。
自分から捨てようとしている女に、何をしているのだろう。
「ねぇ学生結婚て無理かな」
私を見上げるその眼差しに、押し潰されそうになる。
「そんなに焦る事はないさ。まずは教師になる事だろ」
「分かってるけど…」
また泣き顔になる。
「由香にはまだ言ってなかったんだけど…」
由香は何?それと言う顔で、私を見詰める。
「実は…」、口ごもる私。
由香は不安そうに「何?」と聞き返す。
「聞いて驚くなよ。なんと今日の泊まりはスイートルームだぜ」
一瞬訳が分からず、由香の動きが止まる。
「もう~ターくん、びっくりさせないでよ。」
私の肩を拳で叩く。
私は立ち上がり、その拳を避けた。
「3時からチェックインできるからもう行こう」
座りこんでいる由香の手を引き、立ち上がらせた。
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