翌朝、物音で目を覚ました。
時計は9時になろうとしていた。
スェットを着て、ダイニングキッチンに行くと、パジャマ姿の由香が朝食を作っているところだった。
「おはよう、先にコーヒー飲む?」
私は寝ぼけまなこで頷いた。
ドリップされるコーヒーの香りで、頭の中の霞が晴れていく。
由香は二人分のカップを持って、私の前に腰を降ろした。
私はいつもブラックで飲む。
由香も私と付き合いだしてからはブラック派だ。
「ご飯炊けるまで、後10分くらいかかると思うよ」
髪を後ろでまとめポニーテールにした由香が、やけに可愛く見えた。
夕べの事を思い出したのか、恥ずかしそうに下を向く。
「ターくん今日さ、この後どうしようか」
呼び名がターくんに戻っていた。
「特別考えてないけど、由香は行きたいとこあるの?」
通学用の新しいデイパックとレインウエアが欲しいので、バイク用品店に行きたいと言う。
それなら合格祝いに、私からプレゼントする事になった。
由香を送るる足で行こうとしたが、服はセーラー服しか無いと言うので、流石にそれだけは勘弁してくれと言って、一度由香の家まで送る事になった。
食事を済ませ、車で出掛けたが、正直他人から見たらどう見えるか気になった。
おやじと助手席にセーラー服…ヤバイよな~。
自宅前まで行くのも憚られるので、いつもの公園で降ろし待つ事にした。
由香は1時間くらい時間が欲しいと言うので、近くの喫茶店で時間を潰す事にした。
1時間後公園に迎えに行くと、すでに由香は待っていた。
髪はポニーテールのままだが、メイクをしていた。
薄化粧は今までも見た事はあるが、本格的なメイクは初めてだ。
胸が大きく開いたV字ネックの薄手のセーター、その胸には去年誕生日にプレゼントとしたネックレス、下はミニのフレアースカートに、足元はハイヒールのショートブーツだ。
かなり大人ぽく見えた。
ちょっと恥ずかしそうに、くるっと回って見せる。
「どう?、これならターくんの横に並んでも大丈夫でしょ」
満面の笑顔で問い掛ける。
元々私は若く見えるらしいので、他人から見れば多少年齢差は縮まって見えるかもしれない。
すでに昼を回っているが、朝食が遅かったせいでまだ食欲が無いので先に買い物をする事にした。
バイク用品店で、あれこれ迷い悩んで品物を選んだ。
ついでにと、ジャケットも買わされた。
これが由香への最後のプレゼントかと思うと、惜しくはなかった。
無邪気にはしゃぐ由香を見るのは、正直辛かったが、私の思いを悟られぬ様に振る舞った。
こんな時だけ、大人で良かったと思う。
感情を殺す術は持っている。
その日は買い物の後食事に寄って、家まで送って別れた。
翌日から由香の前から姿を消す準備を始めた。
大半の書籍や着なくなった服、由香が出入りする様になって多少増えた食器や調理器具は、段ボールに詰め実家に運んだ。
元々結婚していた頃から引き継いだ、大型冷蔵庫や洗濯機など年数も経っているので処分する事に。
引越しの手配やリサイクルショップへの連絡、不動産屋との打ち合わせなどするうちに、由香との約束の日が来た。
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