合格発表の後、由香はファーストフード店でバイトを始めた。
携帯電話を買うんだと張り切っている。
3月に入って早々の火曜日の朝、由香から連絡があった。
休みなら遊びに行きたいと言う。
大丈夫だと答えると、お昼過ぎには着くと言って電話を切った。
合格祝いもしていなかったので、テイクアウトの寿司とお菓子類を買いに出た。
緊急の仕事の連絡が入り、事務所に寄っていたら1時を過ぎている。
すでに部屋で待っているかもしれないと、慌ててアパートに戻ったが、由香のバイクはなかった。
まだ来てないのかと部屋に戻ると、鍵が開いている。
玄関には、見慣れないコインローファーがあった。
ダイニングキッチンを通り、間仕切り障子を開けると、セーラー服姿の由香が座っていた。
「チース、毎度!」
由香がおどけてみせる。
約三年付き合ってきて、由香の制服姿を見るのは、初めてだった。
由香も照れ臭いのだろう。
初めて会った時とは別人の様な由香が、そこに居る。
黒い髪は肩まで伸び、ふくよかな胸はセーラー服を押し上げ、ひだスカートからスマートな足が延びている。
「どうした。そんなかっこで」
「週末にはこの制服ともさよならだし、ターくんに一度も見せてないなと思ってさ」
「それでわざわざその姿?、どうやって来たの?」
由香は電車で来たと言った。
母親には学校に皆で集まって、その後友達の家でパーティーをして泊まってくると言ってきたらしい。
お泊りセットですと言って、嬉しそうにバックを見せる。
「オイ、本気で泊まるつもりか」
「当たり前じゃん」と明るく返す。
「それよりどう、これ」
由香は立ち上がり、くるっと回ってみせた。スカートがふわりと持ち上がり、均整のとれた太腿が少し上の方まで見えた。
「うん、可愛いよ」
「何~その言い方。セーラー服の清純な乙女…興奮しない?」
「馬鹿言うな。それより合格祝いの寿司喰うか?」
「食べる食べる、お昼まだなんだ」
アパートで、テーブルをはさんで、セーラー服の少女と寿司をつまむ……ちょっと考えられない光景。
由香の本心は分かっていた。
あの約束を果たす為、泊まりに来た事を。
今夜こそ二人が一つになる為に。
今更帰す訳にもいかず、私は頭の中で思いをめぐらせた。
転勤の話は由香にはしていない。
私さえいなければ、由香も年相応の相手を見つけるだろう。
由香が就職する頃には、私は40前だ。
大学に行けば、もっと出会いだってあるだろうし。
この転勤は良い機会だと思った。
ただ今日、由香を抱いて良いのだろうか。
目の前から逃げると決めた男が、今から捨てる女を抱くのだ。
だけどこの三年間由香を愛して来た証を、私自身も求めていた。
単に性的欲望だけかもしれない。
曲がりなりにも護り通した物を、精算したかった。
今夜由香を抱く事を決めた。
由香が付き合いだしてから作り始めたアルバムを、夜まで時間をかけて見た。
一頁めくる度に、思い出を語る由香の姿に少し涙ぐむ。
食事に出ようかと言うと、私が作ると言う。
食材も買ってきてるらしい。
作ってる間に、お風呂の用意してと由香に命じられる。
セーラー服にエプロン姿で、台所に立つ由香。
いい加減着替えろと言っても、お風呂に入るまではこのままでいると言い張った。
出来上がったおかずをテーブルに並べ、得意そうな由香。
ビールを飲みながら食事を始めた。
私にもと、初めて由香もビールを飲んだ。
3月最終の火曜日に今年最初のツーリングに行こうと、由香が言いだした。
太平洋側なら、桜が見れるかも知れないと、某球団のキャンプ地で有名な町を目指す事にした。
食事の後、テレビを見て過ごしたが、お互いにタイミングが掴めずにいた。
9時も回った頃、突然由香が、「お風呂入ってくる」と立ち上がった。
初めてのビールに酔ったのか、それとも恥ずかしさのせいなのか、顔が少し赤い。
「どうぞお先に」と、由香を送り出し、テーブルの後片付けにかかった。
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