その児童館はA市の北のはずれにあった。雑木の丘陵地に新興住宅地が食い込んでいる一郭に建っていた。二人の市職員がここを受け持っている。正午から一時までは市の関連施設は昼休みだ、児童館職員の一人は家庭のある女性でこの時は家事をこなすため、かならず家に帰ってしまう。もう一人の男性職員も児童館を戸締まりしてカーテンを全部しめ食事に行ってしまう、子供達がいれば追い出される、つまり一時間は完全無人になるわけだ。しかし、たまに、人の気配がする、クスクス笑いがもれる時もある、二階からのようだ。明かりのない薄暗い階段を登り切ると二十畳くらいのプレイルーム、その先の奥まった行き止まりに小さな音楽室がある、防音のほどこされた鍵がかけられる唯一の部屋、声はその中からだ。
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