デートの約束をした日、その日の夜に俺は実家に電話をかけ、いきなり電話に出た母親をまくしたてた。
俺「なぁ、あの屋根裏収納スペースに置いてた弘明(弟)が小学校の時に使ってたドラゴンボール筆箱あっただろ!!???」
母「いきなりなんやのよ!そんなん知らんわ」
俺「とにかく屋根裏行ってくれ。そしたらなんかブルーかなんかの箱があるわ。その中に筆箱はいってるから見て!早く!」という具合だった。
母は「ちょっと待って、もー!テレビ見てゆっくりしてたのにー!」と電話を切ってきたのだった。
それから数分後、「なに?これのこと?」と屋根裏のガラクタ置き場においてあったドラゴンボール筆箱を見つけたらしく、色や形状が、あの時のものと同じだったので、俺はそれで間違いないと確信し、「とにかくそれ、すぐ送ってくれ!!!」と住所を伝えた。
母親は「こんなの何に使うんよ?」と聞いてきたので、俺は「んとー、あれだ、ほらドラゴンボールマニアがいてだな、そいつが言うのはあの時代の文房具にプレミアがどうこういってたので、その可能性が高いんだよ!」とごまかした。
そして数日後、そのドラゴンボール筆箱が到着し、外観を見ると、やっぱりあの時の筆箱だった。そして筆箱の中を見ると、中にはドラゴンボール以外の鉛筆やシャーペンなども混ざっていたが、ドラゴンボール鉛筆とドラゴンボール定規も中に入っていた。
(やった・・・・!!!!!)
今までホストクラブに通う女から、少しくらいは高級な時計とかもらったことがあったが、汚くなったボロボロのドラゴンボール筆箱ほど、うれしいプレゼントはなかった。俺はこの筆箱で当日、驚かしてやろう。と思い、俺はカバンの中にそれを格納し、日曜日をまったのだった。
日曜日、JR大塚駅。俺は改札口で荒木が来るのを待っていた。すると荒木は駅からではなく、北口のほうから現れてきたので、まず最初の会話は、「あれ、大塚に住んでるの?」だった。
そして荒木は「うん。10分くらい歩くけどね」と答えた。俺は「じゃ、どこいく?」と聞いたが、「うーん・・・」と二人ともなってしまい、俺は前まえから行きたかった靖国神社へ行ってみようと思い、荒木に「靖国でいい?wなんかマニアックだけどww」ときいてみたのだった。荒木は「うんw どこでもいいよw」と答えたのだった。
すると荒木は、手元のレバーを前に倒すと、車椅子が前に進み、俺は「あ、、俺、押すわw 久しぶりに押させてw」と聞いてみた。すると荒木は、「バッテリー積んでるから重いよ^^」というのだった。俺は「大丈夫w」といって車椅子の取ってをつかみ、大塚駅北口から、メトロ大塚駅まで歩いて車椅子を押すことになったのだった。
(懐かしい・・・。こうしてあの時も、荒木の頭のてっぺんのうずまきをみて歩いていたな。。。)なんて思いだしていた。そして日本は、意外といい国なんだな。とも思った。
いろんなとこに身障者用のスロープがあったり、バリアフリーで段差がなかったり。駅にはちゃんとエレベーターが設置してあって、電車がきたら、電車とホームの橋渡しをするための板を設置してくれたり。夜の世界にいたら、絶対に見えることのない世界が見えていた。
そして靖国神社まで移動する間、俺と荒木は懐かしい話をしたり、転校してからどんな生活をしていたかとか、同級生の〇〇覚えてる?とか、そんな身の回りの話をしていた。
俺は自分が中卒であり、仕事が水商売で、しかも底辺のホストであるなんて言えなかった。もともとサービス業に興味があって、今はバーで働いてる。とだけ言っておいた。
だが、小学校の時と、今俺が押している荒木はまるで別人だった。こうして背後から車椅子を押しているだけで、いろんな人とすれ違ったが、きっとこの荒木の美貌と、その車いす。というギャップに驚くのだろう。みな、二度見してくるのを感じた。(荒木はこの時、ちゃんとメイクしてきていた)
そして当時は夏の暑い日だったので、日本全国の女性が薄着になる時期でもあるのだが、車椅子に乗る荒木もその例外ではなく、俺は上から見下ろす荒木のブラウスから、ピンク色のブラとふくらんだ胸の谷間が少し見えて、(こいつも大人になったんだな・・・)と感慨にふけっていた。
そして靖国神社を見学し、そして遊就館に入ろうとしたとき、俺はカルチャーショックを受けることになる。
遊就館の入り口にあるゼロ戦の実物を見て、(なんか燃えてきたぞww)とミリタリー好きの血をたぎらせていたところ、荒木が「お手洗いいっていいかな・・・」と言ってきたのである。
俺は「うん、先トイレ行こうか」と荒木を押して、トイレの前まで来たのだが。。。
俺「え、、とここで待ってたらいいの?」と聞いた。すると荒木は「あっちに身障者トイレがあるから、そっち行こうか」と言ってきたのだ。(あ、、そうか。。車椅子だったんだ・・)と改めて思い直した。
そして身障者用トイレの前まで来て、「一人で大丈夫?」と聞いたところ、「せっかくだし、甘えちゃおうかなw トイレのすぐそばまで連れて行ってw」と言ってくるのである。
俺は身障者用トイレのドアを開け、中にはもうご存知の通り、おむつ替えシート、洗面台、洋式トイレがその中には入っており、俺は洋式トイレのキリキリ近くまで車いすを横付けしてあげたのだった。
俺「ここでいい?」 荒木「あと、体を支えに貸してもらってもいいかな・・?」という会話をした。
俺はてっきり、車椅子を動かないようにストッパーをかけて、「ヨイショ」って具合に自力で車いすから、トイレに移動するものだとばかり思っていたが、どうやらそれは出来ないようだった。
聞くところによれば、身障者用トイレといっても、荒木が言うのは、「このタイプのトイレは一人で移動できないの。だって一番つけてほしい部分に手すりパイプがないからね。例えばもし、ここにパイプがあれば、それを掴んでヨイショってできるのだけど、ないでしょ?」と言っていた。
(ぜんぜん知らなかった。身障者用トイレなんて全部同じだと思っていた。)
俺はそれから荒木の正面に立つと、荒木が俺の脇から背中に向けて手を通し、俺の背中でがっつり俺をつかんできたので、俺も同じように、俺をつかむ荒木の脇の下に手をまわし、まるで抱きかかえるようにして車椅子からトイレへと移動させたのだった。
荒木の両胸が、軽く俺の胸に触れた瞬間だった。荒木は「ごめんね、ありがとw」と言っていた。
(どこかで聞いたことがあるセリフ・・・。そうだ。。。小学校の時、いつも荒木の家に到着したとき、荒木はそう言ってたな・・・。)なんて思い出し、俺は胸がキュンとなっていた。
・・・。「もう大丈夫ww 出て行ってもいいよww^^;」と荒木は苦笑いするのだった(笑)
俺「お、、おうww じゃ外にいるから、終わったら呼んでね」と俺はトイレの外に出て行った。
そして(フー・・・・いろいろ大変なんだなぁ・・・)と、閉めたドアを背にして腕を組みながら、いい意味でのため息をついていると、その10秒後か15秒後に、「ちょっと、、酒井くん!! ドア!!!!ドア!!」と背後から呼びかけられたのである。
というのもドアが半開きになっていたのだった。それもそのはず。入るときはドアのカギをできても、俺が外に出た以上、ドアのカギは空いたままとなる。
この身障者用トイレのドアがクソ重たく出来ているのと、この建物が傾いているのかは知らないが、あるいは俺が勢いよく閉めすぎたのか、ドアが背後で徐々に開いていってたのだった。
俺は「おおお!!!うう」と変な声をあげてしまい、思わず中の荒木と目があったのだが、中の荒木は「しめてwwww」と必死に手でドアをしめるようなジェスチャーをしていた。
俺は「ご、、ごめwww」とすぐにドアを閉め、今度は勝手に開かないように手で押さえていたら、「もういいよw」と中から声がするのだった。ちょっとしたハプニングだった。
そしてもう一度、トイレの中に入ると、「ごめんww ドアがまさか勝手に開いていくとは・・><」というと、荒木は「もーww 誰かいなくてよかったww しっかりしてよねw」と言ってきた。
そして俺たちは全面バリアフリー、館内身障者スロープあり、エレベーターありの至れり尽くせりの遊就館で特攻隊の手紙とか、いろんな遺品をみながら、俺はミリタリー好きでそれに興奮し、荒木は涙を流していた。
そして遊就館を出て、近くのレストランで昼食を取った。しかし、その後の事を考えていなかった。夏の暑い日の事だった。目的もなく歩き続けるというのは、日射病とかの事を考えると出来そうにもないくらい太陽が照っていた。
朝の11時に待ち合わせをし、今はもう17時になっていた。(普通のカップルとかなら、この後飲みに行ったりするんだろうな。。。)と頭をよぎり、俺は荒木に「あのさ、お酒とか飲むの?」と聞いてみた。
すると荒木は「飲まないかな。。。お酒を飲むことができる環境じゃないからなー」というので、「飲めないの?それとも、飲む機会がないだけ?」と改めて聞くと、荒木は「飲めるのは飲めるよ。お正月とか家族で飲むことあるけど、でも車椅子対応の飲み屋さんとか、そういうのはないでしょ?」と言ってきた。
確かにそうだ。どこの飲み屋にバリアフリーで、身障者トイレがある店がある。言われてみればそうだった。
逆に「酒井君は飲みたい気分?」と質問されたので、「うんw そんな気はあったけど、無理させても仕方ないから、、大丈夫だよw」と俺は答えた。
荒木は「じゃ、カラオケいかない?あそこならエレベーターもあるし、段もそんなにないと思うからw」と言ってくるのだった。
俺は「おけw じゃカラオケいきますかww」とその場のノリと流れでカラオケに行くことになったのだが、このカラオケがどうこう。っていうのではなく、酒を飲んでしまった。というところで、この後の展開が大きく変わってくる出来事になってしまうのだった。
きっと、荒木も「やっぱ飲むのはやめよう」って言えば、俺を残念がらせると思って、無理をして付き合ってくれたんだと思う。またいいように言えば、ここでバイバイじゃなくて、まだ時間を一緒に過ごせる。という喜びもあったのかもしれない。
普段、酒を飲みなれていない子が酒を飲む。しかも身障者で一人で満足にトイレもいけないという子が。俺たち2人は、この後の展開が思いもよらない方向へと進んでいくのだった。
つづく。
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