家ではしばらく放心状態だったが、段々と記憶が甦ってきて、恐怖と興奮とがごちゃ交ぜになって、頭の中が混乱してしまった。
親に風呂に入るように言われたが、粘つく股間を見てるとノアとの行為を洗い流してしまうのが惜しくなって、風呂には入らず子ども部屋のある二階に籠もっていた。
ノアとの行為を思い出すと、自然に僕の中心が張り裂けるほどに膨らんでくる。
触れると、ノアの中で感じた、あの痺れるような感覚が蘇ってきた。
でも、すぐにその後のことが頭の中に湧いてきて、それを萎えさせた。
『明日、この女廻すから連れてこいよ』
あのカトウが言った言葉。
“廻す”というのが、ノアにみんなの相手をさせることだと言うことは何となく分かった。
「どうしよう」
僕は思い切って先生に相談しようかと思った。
しかし、すぐにあの先生の態度を思い出した。
『10分後にまた来るからな。それまでに片付けて帰るんやで』
先生は、教室の中で悪いことをしていると知ってるんだ。
でも自分が見つけたら面倒なことになるから、見つからないようにしろよって、連中に教えてるんだ。
きっと、いままでもそうなんだろう。
そうでなきゃ、学校で、あんなタバコのにおいが誤魔化せるはずないんだ。
けど、親には言えなかった。
この期に及んで、家からいままでに何万円かを抜き取っていたことを知られるのが怖かったからだ。
それで、姉に相談しようと考えた。
姉はノアのことが好きで、可愛がってる。
僕を馬鹿にしたり怒ったりすることがあっても、ノアのことは助けてくれるに違いない。
そう思い、姉の帰りを待った。
けれど、その日に限って姉の帰りは遅かった。
十時を過ぎて、親が警察へ連絡しようかと話し始めた頃、ようやく帰ってきた。
寄り道してしまったと言う姉は、さんざん親に説教されて、トボトボと二階に上がってきた。
疲れたように、がっくり肩を落としている姉をみて、ノアの件を言おうかどうしようかと迷っていると、姉の方が気づいて声をかけてきた。
「きょう、なんかあったん?」
姉のほうから声をかけられて、少し話しやすくなった。
「あんな、実は……」
僕は、いじめられていたこと、家のお金を持ち出したこと、そしてきょう、ノアに助けられたことを話した。
ただ、みんなの前でさせられたノアとの行為のことだけは黙っておいた。
「ノアがあいつらにいじめられたらどうしよう!」
僕は、姉に助けを求めた。
「それやったら、大丈夫やて。そんな連中、口ばっかりで心の中ではバレたらどないしよって、ビクビクしてるんやから」
姉は落ち着いた言葉で諭すように話した。
「ノアちゃんには、今度逢うたら話しとくから、あんたも、怖くてもちゃんと学校行ってノアちゃんのこと護らなあかんで」
姉の言葉は、具体的な解決にはなっていなかったが、僕の気持ちを少し落ち着かせてくれた。
「ウチが言ったとおり、ノアちゃん良い子やったやろ?」
それには僕も頷いた。
姉が寝る前に言った言葉が少し僕に勇気をくれた。
「いじめられてること、よう話してくれたね。 あんた、結構、見所あるよ」
朝起きると、昨日洗わずに寝た股間と、僕とノアの体液が付いたパンツの前が乾いてゴワゴワになっていた。
それを見て、なぜか小学校の時、ノアに『朝起きたらパンツの前、パリパリなってるでぇ』と言われたことを鮮明に思い出していた。
それで、そんな前からノアは性についての知識があったのか、と思うと供に、そんな些細なことも覚えている僕は、ひょっとしてずっとノアのことが好きだったんじゃないかと思えてきた。
そう思い始めると、ノアのことばかり気になって、僕は早めに学校に行って、ノアの側に付いてやろうと家を出た。
学校に一番乗りの勢いだったが、その日は早朝から先生たちが学校に来ていて、ちょっとざわついた感じだった。
ノアのクラスの前の廊下で、待っていると、周りで話している子たちの声が聞こえてきた。
昨日の放課後、ウチの不良グループが高校生数人にボロボロにされたらしかった。
不良グループの連中が、「何でもない」「コケただけ」と頑として被害の詳細を話さなかったため、警察も高校生を特定して捕まえるところまで行かなかったらしい。
ボロボロにされたのは、どうやらきのうあの教室にいた主だった連中のようで10人以上が骨折まではいってないが、アザだらけになってベッドで呻いているそうだ。
あのハルキもその中にいるらしい。
ただ、カトウだけは例外で、右腕が折れているそうだ。
ノアは、予鈴ぎりぎりにやってきた。
「おはよう、どないしたん?」
あっけないほどさらっと言ったノアに驚いた。
「どないって、大丈夫やったか?」
僕はあの後のノアのことも心配だった。
「ヤナカくん、なに言うてるん」
まるで、昨日のことがなかったかのように、笑いながら、教室に入っていく。
あの不良たちがボロボロにされたことは知ってるんだろうか。
ノアの背中に声をかけたが、「朝の会、始まるよ」と僕に手を振って自分の席の方に歩いて行ってしまった。
朝の会では、昨日の事件について薄ぼんやりとぼかした様子で先生から話があった。
表だった事件にならなかったので、全校集会とかにはならなかったのだろう。
先生からは、「子ども同士で盛り場に行かないように」など、通り一遍の注意があっただけだった。
昔のことで、学校も、警察もいまなら考えられないような対応だったと思う。
放課後、僕はまた、ノアのクラスを訪ねた。
掃除中だったノアが僕を見つけて、廊下の窓から顔を出した。
「どうしたん?」
「いや、ちょっと気になって」
「えー、じゃあ、掃除終わるまでちょっと待っとって」
ノアは、朝と同じようにさらっと受け答えしている。
掃除が終わると、ノアが教室から出てきた。
回りの人影も少なくなっている。
「ごめんね、待たせて」
不良たちが締められた事件が気になったが、まずは昨日のことが先だった。
「昨日は、ごめんな」
「ううん、ウチもあいつらの仲間やってんから……」
確かに、いじめられてたのが僕じゃなかったら、そいつはどうなっていただろうか。
でも、そんなことはどうだっていい。
確かに僕はノアに助けてもらったんだから。
「でも、僕やから助けてくれたんやろ?」
「あんときは、なんか夢中やったし」
「ホンマにありがとう」
「もう、いいよ。それから、好きって言うたんも、あの場をやり過ごすためやからね。別にヤナカくんのこと、なんとも思ってないし」
でも、本当になんとも思ってないのに、あんな、昨日のような行為『オメコ』なんてできるんだろうか。
「でも、僕な、あれからノアのこと色々考えたんやけど、やっぱり、好きなんやと思う」
僕は自分でも驚くようなことを言っていた。
ノアは頬を真っ赤にしたが、それをごまかすように笑い声を上げた。
「なによもう、ヤナカくん。昨日みたいのん、またしたなっただけちゃうん?」
「そんなんちゃうけど……」
「あんなことあったあとで好きて言われても、なんか信じられへんよ」
「うん」それはわかる気がする。
強く聞かれたら、本当に好きなのか、ただエッチな気持ちなのか、境目がわからなくなる。
「もうちょっと、考えよ」
それで、僕たちは黙りこんでしまって、別れ道で「バイバイ」と手を振った。
その夜、僕は初めてのオナニーを経験した。
ノアのことばかりが頭にあって、昨日のことを思い出して、快感を得てしまって、後から少し嫌悪感を感じてしまった。
結局、考えようって言われていたのに、僕はまた放課後ノアのクラスに行ってしまった。
ノアは僕の顔を見ると、笑ってくれたが、それが苦笑いなのが何となくわかった。
「一緒に帰ろっか」
それでもノアは、そう言って僕と肩を並べてくれた。
「やっぱり、ノアのこと、すごい気になって、なんか、一緒にいたいねん」
「うん……」
ノアは考え込むように俯いてしまって、ほとんど言葉を交わすことなく、別れ道まで来てしまった。
名残惜しいような、息苦しいような雰囲気に、曲がり角で立ち止まったまま、ノアを見ていた。
ノアは立ち止まったまま路肩に落ちてる空き缶のほうに目をやっていたが、意を決したように顔を上げた。
「あの、ウチ、こんな雰囲気苦手やねん」
僕は、返事に困ってしまった。
「やっぱり、ウチらの気持ちって、好きとは違う気がするねんけど」
「でも、ほんまにノアのことばっかり気になるねん」
「けど、いままで大して話したこともなかったやん」
「急に好きになることって、あるやろ? ノアは僕のことどうなん」
ノアはその問いに苦しそうに顔をゆがめた。
「どうなんって、分かれへんからしんどいんやんか」
「しんどいって、好きやからやろ?」
それで、またノアは唇を噛んで俯いてしまった。
「ヤナカくんは、それでいいの?」
ノアが俯いたままボソボソと話す。
うっかりすると聞き取れないくらい細い声だった。
「いまやったら、「冗談やった」で済むんやから」
「冗談ちゃうよ、ノアが好きや!」
僕は、言い切ってしまった。
ノアが一瞬、さらに苦しそうな表情になったような気がしたが、顔を上げたノアは微笑んでいた。
「うん、ウチもヤナカくんのこと、好きやと思う」
ノアの笑顔に、天にも昇る気持ちになった。
「ウチのこと好きになるなんて、ヤナカくん見る目あるやん」
喜んではしゃぐ僕に、ノアがいつもの調子でからかってきて、それがなおさら嬉しかった。
「もう、おやつ買うてもらった幼稚園の子みたいやんか」
「そやかて、夢みたいや」
僕は、何よりもノアが欲しかったんだと思った。
曲がり角で話をしながら、僕はこのままノアと離れたくなかった。
なので、ノアの誘いが信じられないくらいだった。
「ちょっとだけ、家、寄ってけへん?」
ノアの家は近くの文化住宅の一階だった。
親は仕事に行ってるらしい。
ノアはカバンから鍵を出して、ドアを開いた。
中に通されて、卓袱台の前に座った。
ノアが奥の部屋の窓と玄関横の台所の窓を開けると、風が通って気持ちよかった。
ノアが僕の横に「どっこいしょ」と言いながら座って、「ふぅー」と溜息をついた。
それで、思わず吹き出してしまった。
「なんか、おばあちゃんみたいやな」
ノアも笑いながらこちらを見ていた。
「ウチらが付き合うなんて、なんか嘘みたいやね」
ノアが遠くを見るようにしみじみという。
「ホンマに、好きやで」
僕はきょう何回好きって言っただろうか。
「なあ、付き合うんやから……」
いきなりノアが僕に顔を近づけ、目をつぶって唇を突き出した。
キスのことだと分かるが、動揺して固まってしまう。
僕の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
ノアはちらっと目を開けて僕を見ると、
「ほらっ」
と、唇をタコのようにすぼめてきゅっと目を閉じた。
僕は、おそるおそるノアの唇に僕の唇を重ねた。
緊張でカサカサになった互いの唇が、そっと触れただけだったが、いままで感じたことのない、女の子の柔らかさに、心臓が破裂しそうになった。
唇を離すと、ノアがそっと目を開けた。
10センチもない距離に、ノアの恥ずかしそうな目があった。
ノアは乾いた唇を軽く噛むようにして湿らせた。
僕も、唇をそっとなめた。
それで、今度は僕がノアの肩に手を掛けて、ノアを引き寄せた。
ノアがまた、目を閉じて、僕たちの唇が触れあった。
濡れてなめらかになった唇が合わさって、さっきのカサカサのキスとは違う、濃厚な交わりを感じた。
ただ、唇を重ねるだけの幼いキスだったが、僕たちは長い時間、酔ったように抱き合って互いの口を吸いあった。
二人とも、キスだけで息が荒くなって、背中から汗が流れるのを感じていた。
僕の股間は、いつの間にかズボンを突き破らんばかりの勢いでパンツに小さなシミを付けている。
僕はキスを続けながら、迷いに迷った末に、ノアの手を取って、突っ張ったズボンの上に導いた。
嫌がるかと思ったけど、ノアは僕の強張りをズボンの上からゆっくりと揉むように握り始めた。
僕は思わず大きな鼻息を吐いてしまった。
ノアは少し顔を離して、ズボンに手を置いたまま僕をじっと見つめた。
「いいの? いまやったらやめられるんよ?」
「ノア、好きや」
「ウチと…… 後悔せえへん?」
僕は首を振った。
ひょっとして後悔しそうだったのはノアの方なのかもしれない。
ノアは体を離すと、僕に小さく頷いた。
それで、スカートに手を入れて、さっと下着を脱ぎ取った。
僕も、それをみて、すぐにズボンとパンツを脱ぎ捨てた。
でも、それから先は、どうして良いか分からず、仰向けに転がるだけだった。
ノアは僕の腰を跨ぐと、ゆっくりとしゃがんで、右手で硬くなった僕を掴んだ。
そして、左手でスカートを僕の体に掛けて、下腹部を見えなくした。
ノアが、隠れた下半身にそっと手を添えた強張りを擦りつける。
クチュッと言う音が漏れて、先端が温かな中に入るのを感じた。
ノアは掴んだ僕を何度か自分の割れ目に往復させるように位置合わせをして、ゆっくりと腰を沈めていった。
途中、ノアは苦しそうに唇を噛んで、顔を天井に向けたりしながら、腰を上げたり下ろしたりを繰り返した。
その度に、僕の強張りは次第にノアの中に深く飲み込まれていった。
やがて、昨日、僕が爆発してしまった位置まで到達すると、小刻みに腰を上下させて、僕自身を優しく刺激し始めた。
僕は、そのまま絶頂を迎えそうになって腰をくねらせた。
けれども、ノアは大きく深呼吸をして、少し大きめに腰を浮かせると、勢いを付けてぐっとお尻を落とし込んできた。
その瞬間、僕はノアの奥を大きく押し広げて、根元までが完全に埋め込まれてしまった。
手で思いっきり握ったよりも強く締め付けられる感触が僕の強張り全体に伝わって、頭の先までが痺れるようだ。
ノアは苦しさに耐えるように、苦悶の表情をしたまま、自分の恥骨を僕の恥骨にぶつけるように、何度も何度も腰を打ち付けた。
僕はノアの全部を感じながら、腰を浮かせるようにして、ノアの一番奥深くにありったけの精をぶちまけた。
僕の高まりがノアの中でひくひくと脈打ち続ける。
それを感じるように、ノアは僕の上に倒れ込んで、体全体で呼吸するように上半身を波打たせながら、僕にしがみついてきた。
僕は、ノアの背中に腕を回して強く抱きしめながら、荒い息を吐く唇に吸い付いた。
まどろむような時間が過ぎて、僕たちが体を離すと、僕の体にはノアの初めての印がくっきりと残っていた。
ノアは僕の体をぬるま湯で丁寧にぬぐって、きれいにしてくれた。
ノアの親が帰ってきそうな時間になって、僕が帰ろうとするときも、ノアは座ったまま、顔だけで見送っていた。
「動くと痛い」らしい。
出血があったんだから、どこか切れたのだろうか。
「赤チン塗ったろか?」
軽口で笑わせるつもりだったが、ノアは怒った顔で僕をにらんだ。
「さっきアンタの赤チンチン塗ったばっかりや!」
尖らせた唇に顔を寄せてお別れのキスをした。
「もう、スケベな男は、さっさと帰れ」
ノアがほっぺたを膨らませる。
「うん、ほな、また明日な」
ノアの肩をぽんぽんと叩くと、ノアが僕の手を掴んできた。
「あほぉ…… 寂しなるから、もうちょっと居れ」
「いいんか?」
僕はもう一度ノアの顔の高さにしゃがんだ。
「知らんわ。それぐらい自分で考え」
ノアが急に可愛くなって、それはそれで厄介だったが、僕の顔はたぶん、にやけていた。
そのあと、ノアは、昨日の帰り、駅前で偶然逢った姉に、すべてを話してしまったということを打ち明けた。
カトウたち不良をボコボコにした高校生が、姉の通っている高校の生徒だと知ったのは、少し後になってからのことだった。
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