「え、あ…アカンの?」
「ん…うん…」
私はのりこの真っ赤に染まった顔と何か訴えるような切ない目に、不覚にも一瞬心を奪われた。
「ゴ、ゴメン…」
我に返り、そう言って手を自分の体まで戻す。
のりこは胸の前で両手を交差させ、俯いてしまった。
「だ、大丈夫…?」
私が恐る恐る聞く。
乳首を触るとあんなにも痛いものなのか、と当時の自分は思っていた。
「だ、大丈夫…やけど…」
のりこはそう答える前にこちらを一瞬見て、またすぐに俯いた。
あの時の上目遣いは今でもまざまざと思い出す。
「そう、大丈夫ならええんやけどさ…。…やっぱ…痛かった?」
「え…」
のりこはまた黙る。
「…痛くないん?」
「…痛くは…ないけど…」
私は困惑してしまった。
痛くないならのりこはどうして嫌なんだろう?
「じゃあなんでアカンの?」
「え…あの…」
黙るのりこは、一度もこっちを見なかった。
「…ドキドキするから…」
「え?」
のりこが呟く。
「何て言うか…なんやろ?触られたら…頭がクラクラして…そんでな、心臓がドキドキ鳴って…」
「そ、そうなん…」
当時の私にはよく分からなかったが、のりこは感じてしまっていたのだろう。
「…今は大丈夫なん?」
「ちょっとまだ…ドキドキしてるわぁ…」
そこまで言って、のりこは顔を上げた。
少し前までと同じような、明るさの滲み出るような笑顔だった。
が、やはり顔は少し前よりは赤くなっていた。
「もう、アンタがあんなに胸触るからやで?」
風呂に入る前と同じような口調に、なんだか安心した。
やはりのりこはこうでないと、と思う。
私はというと、のりこの言葉に顔を赤くしていた。
「しゃ、しゃあないやん…洗う番やったんやから…」
「まぁそやけど…でもやりすぎやで?一回あたし、止めてって言ったやろ?」
「え?」
私は全く覚えがない。
「そんなん言った?」
「うそ?聞こえてなかった?」
「いや…夢中で触ってたから…」
そう言ってから、しまった、と思った。
「え…夢中でって…ほんまに?」
のりこは困った笑いを浮かべる。
「しゃ、しゃあないやん…その…触りたかったんやし…」
「そ、そうなんや…」
そう言った後、久しぶりに沈黙が訪れた。
風呂の中での沈黙も気まずい雰囲気だったが、今回もかなりの気まずさだった。
「じゃあ…もっと触る…?」
また、のりこが沈黙を破った。
「え…?」
「あ、あたしも…嫌じゃないし…」
「バカ、やめとけって…また頭クラクラするで?」
「大丈夫…やと思う…から…」
「…ホンマにええの?」
そう聞くと、のりこは何も答えず、コクコクと首を縦に振った。
顔はこちらを見なかった。
そして、のりこは胸の前で組んでいた両手を下ろした。
と同時に、のりこの視線は私の手へ向かっていた。
「じゃあ…嫌やったら言えよ?」
私はそう言って腕を伸ばす。
のりこは大きく一つ、また首を縦に振った。
手が胸につく。
感触は変わらない。
のりこはその瞬間、目をきゅっとつむって唇を一文字に結んだ。
「優しく…してな?」
のりこは小さく言った。
ども、今回短いかな?
とりあえず書きました。
返事の欄に少し雑感書きます。良ければ見て下さい。
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