子供の頃、ちょっとした賭け事が流行った。
「そのゲーム、貸してほしい。」
「ええよ。じゃあ何賭ける?」
「んじゃこのソフト。」
「よっしゃ、じゃーんけーん…」
とまあこんな感じで、何か貸して欲しいものがある時などは交渉手段として自分も賭け品を提示し、それと相手の物を取り合ってじゃんけんをする。
無論、勝ったほうは賭け品をゲット。
負けたほうは取られるだけ。
ある日私は、近所の幼なじみの女の子と賭けをすることになった。
名前はミカといった。
「そのビデオ、見せてくれん?」
「何賭けんの?」
「え~…今、何も無い。」
「んじゃアカン。」
「ん~、じゃアタシの服一枚。」
「え、そんなんお前…」
「ええやん、いくで、じゃーんけーん…」
「ホイ!」
「あ。」
私は勝ってしまった。
その時は夏で、ミカはTシャツ一枚とジーパンだった。
「アホやなお前…そんなん脱げへんやん。脱がんでええから諦めろって。」
「でもビデオ見たいしなぁ…。な、もっかい勝負せぇへん?」
「ええけど…服は?」
「…さっきのは、ナシ。」
「しゃあないなぁ。次負けたら?」
「やっぱ、アタシの服一枚。」
「知らんぞ…じゃんけん…」
「ホイ!」
「あ。」
また私は勝ってしまった。
「え~、どうしよ。」
「だから言うたやん…。もうええから、脱がんで。」
「いや、賭けは絶対やもん。脱がな…」
賭けは絶対、それは当時のルールだった。
もしかすると朝に歯を磨くことより重要な決まりだったそれは、守らなければ何か罰があるというような意味も入っていた。
私は信じていなかったが。
「…だから言うたやん、何脱ぐんよ。シャツとかジーパンは脱げへんやろ?」
「まぁ…パンツで帰りたくないし。」
「んじゃ下着?」
「あ、でも今日はシャツの下、何も無い。」
「え~…お前いっつもそんなんで歩いてんの?」
「ええやん、アンタやし。…んじゃパンツ脱がなアカンなぁ。」
「…あっち向いてたほうがいい?」
「ん…恥ずかしいし。」
「終わったら肩でも叩いてくれ。」
「うん。」
そう言ってそっぽを向くと、後ろでパサッと音がした。
その後、何かゴソゴソと音が聞こえ…
私はドキドキしていた。幼なじみとはいえ、真後ろで女の子が下半身裸で立っている。
かつてない興奮に、私は胸が裂けそうだった。
「終わったよっ。」
そう言ってミカは私の頭をポンと叩いた。
「ハイ。」
差し出された手には白い下着が握られていた。
手に取ると、ほのかな温かさが広がった。
「…どうしろっての?」
「…さあ?」
「…じゃあ一応しまっとくかな。」
そう言って私は机の引き出しにそれを閉まった。
「やっぱ下着無いと変な感じ。スースーする。」
「だろな。…着てこいよ、新しいの。どうせ近いんだし。」
「そだね、じゃ、またちょっと後で来るから。」
そう言って、ミカは私の部屋を出て行った。
その後、ミカが帰ってくるまで私があの下着の匂いを嗅ぎ続けていたことは言うまでもない。
今でもあのパンツは、ミカの匂いと共にあの時の記憶を呼び起こしてくれる。