雨が降っている。八月の暑い日、突然降り出した夕立は、大地を、木々をアスファルトを濡ら
し、全ての生命に恩恵を与える。(雨、か・・・)理奈は部室の窓から外を見て、溜め息を
つく。しばらく雨煙に霞む街を眺めていた。やがて、止まっていた着替えの手を再び
動かし、制服のシャツのボタンを止めはじめた。理奈はバレー部である。小学生のころからや
っている。背が高い。中学一年にして、すでに163センチもある。運動神経も優れており、
なにより試合中の流れを読む、先天的なセンスに恵まれている。二年になればレギュラーに
してやる、と顧問が太鼓判を押しているほどだ。
雨が止み、青空がのぞきはじめた。雨にうたれた街は、太陽の光線を浴び、キラキラと輝い
ている。夕立で幾分か涼しくなった。校舎から出た理奈は、一つあくびをし、校門に向
かうべく校庭を歩き出した。雨が降るまでは野球部やサッカー部が練習をしていた校庭
である。スパイクや靴のあとが校庭いちめんに残っている。蝉が鳴いている。周りには誰
もいない。理奈だけが帰りが遅れた。体育館にタオルを忘れたため、取りにいっていたか
らであるが、結局体育館にはなく、さがしまわったが、なぜか部室にあった。ふと、理
奈は足を止めた。校門に誰かいる。学生服を着た少年である。 続く