「えっ、俺の…? そんな訳ないよね」
「そうね、だいぶご無沙汰だもの」
「じゃぁ、誰の?」
「物みたいな言い方しないでよ」「父親が誰かなんて、決まっているでしょう」
「えっ、誰?…」「青天の霹靂だよ」
「誘われいる事もデートに行く事も全部相談したわよね」「貴方は彼を確認した上で好きにしろと言ったじゃない」「いい年して未だ結婚も出来ないなんて変態か欠陥があるかだろうって、バカにしてたじゃない」「人のカミさんだと知って、声掛けるなんて危ない奴だとも言っていた」「最後には、お前がいいなら好きにしろと言ったの忘れた?」
「だからと言って、不貞を許した訳ではない」「常識で判断できるだろう」
「私も生身の女なの、EDだがなんだか知らないけれど10年もほっぽらかされていたのよ」
「だからと言って、…」
「私だって、まさか妊娠するとは思っても見なかったわよ」
「逆ギレかよ、妊娠しなければ許されると言う問題ではないだろう」
「貴方には30年も尽くして来たけど、ただの一度も満足させてもらった事は無かったわ」「前戯もそこそこに直ぐに入れたがったて、入ったと思えば勝手に逝って…」「そんなのセックスじゃないの」「ただのオナニーじゃない」「私は30年、貴方のオナニーの手伝いをさせられて来たのよ」
「彼は私を慈しむように愛してくれたわ」「そして、二人でオーガニズムを迎えた」「その結果の妊娠よ。自然の結果よね」
「お前、何歳だと思っているんだ。50過ぎているんだぞ」「恥かきっ子もいいとこだ」「だいたい、奇跡的な妊娠だからと言って、奇跡的に分娩できるとでも思っているのか」「さっさと始末しろ。そうすれば、全て忘れてやる」
「私、産むわ。だから、離婚して欲しいの」
「何を馬鹿な事を言っているんだ」「高齢出産だぞ。命の危険がある事くらい分かるだろう」
「貴方に心配してもらう事じゃないわ」
「俺だって、お前を愛して来たんだ。心配するなと言われても無理だろう」「だいたい、彼奴は何と言っているんだ。まさか、産めとは言っていないのだろう」
「二人の幸せの為に全力を尽くすと言っているわ」
「男に何が出来ると言うのだ。それでもお前を本当に愛していると言うのか」「愛するものを危険に晒す事などできない筈だ。彼奴は、本当にお前を愛してなどいない」「そんな事も分からないのか」
「分かるわよ」「愛するものを危険に晒したのは、貴方が先よ」
「…。」