年末から年始にかけて、居候との出会い、続編です
連日の外出で、少し疲れたので、今日は元旦だし、ゆっくりする事にした
家事も終ったようで、彼女も横に座ってきた
「お疲れさん」と肩を抱き寄せると、キスを催促するほど、キス好きになったようだ
自分色に染めるのではなく、染まろうとしてくれる事が嬉しい
別れの日は近付いてきたが、いい思い出として、彼女の記憶に残りたいもんだ
テレビを点けたが、相変わらず面白くない
ま~、隣に彼女が居るので何の不満も無いのだが
ソファーでイチャイチャしていると、急に彼女が真顔で「ありがとう」と言い出した
「どうした?急に」と聞くと「何か、幸せだな~て思ったから」と言う
そんな事を言われると、愛しさが爆発して、帰したく無くなってしまう
多分、彼女は帰りたく無いって言うだろう、このまま生活出来れば楽しいとは思うが、そうもいかない
大人の対応として、正しい選択は、未練無く元の生活に戻してやる事なんだろうな~と考えた
「お母さんから、メール来てないの?」と聞くと、何でそんな話しするの?って顔で「見てない!」と答えた
そう言えば、この部屋で彼女が携帯を見てるのを見た事がない
「メール来てるかも知れないから、確認しな」と言うと、「いいよ!それより、キスして」と甘えてくる
誘惑に負けそうになるが、「見たら、何でもしてあげる!」と頑張ってみた
「も~!」と不満気に、携帯を寝室に取りに行った
母親と俺が、逆の立場ならどうだろう?1人娘と恋人のどちらを取るかな?
子供を持ったことの無い俺には、分からない
ただ、言えるのは、心配で仕方なくなるのだけは間違いない!
なかなか戻って来ないので、寝室に行ってみる
ベットの上で彼女が、携帯を見ながら、泣きそうな顔をしている
「どうした?」と聞くと、携帯を渡してきた
「見るよ」と言って、画面を見ると、着信履歴の所が(ママ)の文字で埋まっていた
やっぱり心配してたんだ、とホッとする気持ち以上に罪悪感があった
「連絡しよ!」と言って、携帯を彼女に渡した
携帯を受け取り、躊躇いながら、電話を掛け始めたので、寝室を出た
リビングに戻り、煙草を吸って、気を落ち着かせた
彼女を泊めたのは間違いだった
あの日、何がなんでも帰すべきだった
人助けなんて大義名分で、彼女が欲しかっただけだったんではないか?
母親を悪者にして、自分の気持ちを誤魔化した
いい気になって、年甲斐もなく、はしゃいだ自分を恥じた
煙草の灰が落ちるのも気付かない程落ち込んだ
どうすれば良いのかが、分からない…
何分経ったか分からないが、彼女がリビングに戻ってきた
多分、泣いたんだろう、目が赤くなっていた
彼女に掛ける言葉も見つからず、ただ下を見てた
彼女も隣に座って黙っている
何を言われたのかは分からないが、後悔しているのだけは伝わってきた
日も傾き始め、暗くなりだした
部屋の電気を点けて、「ごめん」と言った
この言葉しか思い浮かばなかった
彼女は泣き出し、抱き付いてきた
頭を撫でながら、「本当にごめん」と、もう一度謝った
「一緒に行って、俺がお母さんに謝るから、帰ろ」と言うと、頭を左右に振る
「二人で心配掛けたんだから、謝らないと」と言うと「おじさんは悪くない!」と、更に泣き出してしまった
「悪い・悪くないは、謝ってから、お母さんが決める事だよ。今、君が出来るのは、早く元気な姿をお母さんに見せて、安心させてあげる事なんだからね」と言うと、頷いてくれた
始めからこうしておけば、こんなに素直でいい子の彼女を、泣かす事も無かったのにと、また後悔で一杯になった
買ってあげた服を鞄に詰めて部屋を出た
もう、人目も気にならず、肩を抱いて車に向かった
家の場所を知らないので、彼女に尋ねると、最初に会ったコンビニでいいと言った
そんな所で下ろせる訳がないので、何度も聞いたが、教えてくれない
とりあえず、コンビニに向かう事にした
車の中で、彼女の携帯が鳴ったが、出ずに電源を落としてしまった
コンビニに着くと、駐車場で話す事も無く、二人で車の中に居た
こうしてる間も、母親は心配しているだろうと思い、「家に行こう」と言うと、少し考えてから、「泊めて貰ったのが、おじさんで本当に良かった。凄く楽しかったよ。ありがとう」と言ってキスをしてきた
いつもの屈託の無い笑顔ではなく、悲しそうに見える作り笑顔だった
こんな笑顔をさせた事を、恥じた
車を降りようとするので、腕を掴んで、引き戻した
「大人には、責任があって、このまま君を1人で帰す事は出来ないんだよ。自分が決めた事は、最後までちゃんとしないと、また後悔しないといけなくなるからね。俺に後悔させたい?」て聞くと、頭を左右に振った
「どんなに言われても、許して貰えるまで謝って、それだけの事をした責任を取りたいんだ。分かってくれるね?」と言うと「でも、おじさんは悪くないよ」と小声で俯きながら言った
「今、ここで降りて、1人で家に帰る勇気ある?俺だったら、逃げたくなると思うんだ、でも2人ならその勇気も半分で済むんだよ。帰り易くなるだろ?だから2人で帰ろ」と言うと小さく頷いた
彼女の家は、そのコンビニから歩いていける距離に有った
車を駐車場の隅に移動させて、歩いて家に向かった
家の前まで来ると、入り辛いのだろう、玄関の前で立ち止まってしまった
彼女の肩を叩いて、変わりに俺が呼び鈴を鳴らした
中から足音がして、引き戸の玄関が一気に開いた
出てきた母親は、俺を見て一瞬身を引いたが、後ろに立っている娘を見て、俺を手で退けて、彼女の名前を呼びながら抱き付いた
俺は、何も出来ずに、ただ見ていた
すると母親が「心配かけて、このバカ娘!」と叫んで彼女を平手打ちした
止めようとすると、また彼女に抱き付きながら泣き出してしまった
彼女も「ごめんなさい」と何度も言っている
少し冷静になって、母親が彼女に「この人は?」と聞きながら、俺の方を見た
彼女が話し難そうにしたので、自分で自己紹介をして、「ここに来た理由を聞いて下さい」と言った
母親は、何の事か理解出来ない様だったが、家に上がらせて貰った
母親の前で、泊めた事を謝りだすと、彼女の方を見て「さっき電話で言ってた人って、この人?」と隣の彼女を見た
彼女が頷くと、「こちらこそ、娘が迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と丁寧な口調で言われた
状況がよく飲み込めず、黙って母親の話を聞いた
内容は、今日家出した娘から、電話が掛かってきて、連絡をしないことを叱ると、最後にメールした後に、携帯を無くしていたと言ったそうだ
携帯を探している時に、偶然、俺に会って一緒に探して貰ったが、見つからなかった
母親が最後のメールで、旅行に行くと言ってたので、家に帰れないと相談すると、母親が帰って来るまでの約束で、俺が泊める事になった
1人暮らしなので、家に泊めれず、彼女の宿泊代その他全額を俺が出した
今日、携帯が見つかったので電話したと言うものだった
俺が善人になっていた
彼女の方を見ると、俯きながら少し微笑んだ
また、彼女の気転に助けられたが、今回は、自分自身のケジメとして、謝罪をしたかったので、心労を掛けてしまい、配慮が足らなかったと、お詫びした
母親からすると、何でそんなに詫びるのか?と理解出来ずに、恐縮していた
掛かった費用を払うと言われたが、貰える筈も無いので、丁重にお断りをした
家を出るときも、母娘揃って玄関の外まで見送ってくれた
車に戻り、煙草を吸いながら考えていた
彼女の言い訳には、随分無理があり、ツッコミ処満載だが、娘の身を案じている母親には、関係無いのだろう
娘が無事であれば、本当の事が分かっても、許しそうな気がした
自分が経験してない、血を分けた母娘の絆を見せ付けられ羨ましく思った
俺の責任の取り方も、消化不良で終わったが、【嘘も方便】と言う事で自分に許して貰おう
気分が晴れないまま、自宅に向かった
家の中で、彼女が居ないのが、部屋の寒さを倍増させていた
普段は、自宅で酔うまで飲むことはしないのだが、流石に今日は、飲まないと寝れそうには無い
どれ位飲んだのだろう?フラフラになりながら、冷たいベッドに入って寝た
翌朝の目覚めは、最悪だった
二日酔いも酷いと病気だなと思った
時計を見ると、12時過ぎを指している
体を起こすだけでも、吐き気がする
トイレの便器と友達になり、抱え込んで、吐こうとするが、何も出てこない
指を入れて、強制的に、胃の中を空にし、随分楽になったので、シャワーを浴びた
彼女の残していった、シャンプーで髪を洗った
リビングで煙草を吸っていると、部屋のチャイムが鳴った
正月に誰だ?と思いながら、モニターを見ると、そこには、満面の笑顔の彼女と「早く開けて~!」と懐かしい声がした
つづく