たいした話ではないのですが、皆さんの話に触発されて、封印していたあの頃の出来事が鮮
やかによみがえってきました。
当時、私は小5。すぐ近所の親戚の家には叔父叔母の他に、28才と26才のお兄ちゃんがいま
した。割とマセガキだった私は、26才のヒデ兄ちゃんが大好きでした。スラリとした長身、
おとなしく口数少なく、イタズラをしては親や叔父叔母に叱られてピーピー泣く私を黙って
おぶったり冷たいコーラを手渡してくれたりと、優しく慰めてくれ、今思えば私はヒデ兄ち
ゃんに淡い恋心を抱いていたと思います。
ある冬の夕方のこと、勝手知ったる他人の我が家状態で叔父の家に上がり込み、居間のテレ
ビでアニメを見ていると、叔父が『おっ五時か。相撲相撲。はい、マンガ終わりーっ』とチ
ャンネルを変えてしまいました。ふてくされる私に、ヒデ兄ちゃんは「俺の部屋で見れば?
」と。ヒデ兄ちゃんの部屋に急いで駆け上がり、テレビを点け、アニメの続きを見ていまし
たが、冬の五時なんて、寒いし暗いし、たまりません。私はテレビだけを点けた部屋の、ヒ
デ兄ちゃんのベッドにもぐり込んでいました。
そのうち、ヒデ兄ちゃんが部屋にやってきました。「なんで真っ暗なんだよ、電気点けろ、
電気~」と苦笑しながら、布団をパッとめくりました。“あんっ寒いっ!”と脚をバタバタ
させると、ヒデ兄ちゃんの顔がふと、険しくなりました。
大好きなヒデ兄ちゃんを怒らせたようで、私は思わず“ヒデ兄ちゃんも布団に入って!早く
!”と誘っていました。小5でマセガキとは言え、セックスに関する知識は皆無に等しいく
せに、男性をほだすことを女は本能で知っているのでしょうか。
私は布団の中で横向きになり、背中側にヒデ兄ちゃんのぬくもりを感じ、ヒデ兄ちゃんを独
占できることがうれしくて、時々肩ごしにヒデ兄ちゃんを振り返ってはニッコリしていまし
た。
アニメも終わり、お腹の空いた私は、叔母に夕飯の催促をしようとベッドを抜け出そうとし
ました。
が。抜けせません。ヒデ兄ちゃんの逞しい腕が、私をしっかり抱きしめていました。
怖いような嬉しいような、不思議な感情に翻弄され言葉を出せずにいると、ヒデ兄ちゃんの
顔がうなじ辺りに近付いたのがわかりました。くすぐったいような気持ち良いような。鼻か
ら声がぬけます。ヒデ兄ちゃんの手が、まだくびれていないウエスト辺りを撫で、くすぐっ
たさに身を捩ると、もう一方の手が、胸を包むように置かれていることに気づきました。
ヒデ兄ちゃんの手が私の胸に置かれている…ドキドキしながらも私は、なにか使命感のよ
うなものに突き動かされ、ヒデ兄ちゃんのほうへ向き直りました。
“お兄ちゃん。あたし。”なんだか涙が出そうでした。
“あたし。ヒデ兄ちゃんのお嫁さんになりたい”
ヒデ兄ちゃんは私をしばらく見上げていましたが、不意にニッコリ笑って、私を強く抱き
しめました。
『そうだね、お嫁さんにしたいよ。』
そう言って、何度も何度も私の頬や額にキスをしてくれました。
好き。ヒデ兄ちゃん好き。大好き……。あれから何度も私はつぶやきました。
三年後、私は初潮を迎え、“あたしもう、ヒデ兄ちゃんの赤ちゃん産めるよ”と、それを
ヒデ兄ちゃんに告げました。
ヒデ兄ちゃんは、その夏、友達との旅行に私を伴い、二人きりのペンションの一室で、私
の初めての人になりました。
私はヒデ兄ちゃん以外の男性との経験がありません。
高校を卒業した私は、両親や叔父叔母の反対を押し切って、ヒデ兄ちゃんのお嫁さんにな
りました。
従兄妹の間柄ではなく血縁のある私たちは、遺伝学上の理由から、子供を持つことは断念
しました。
でも今も 二人きりの時はヒデ兄ちゃん と呼びかけ、甘え、ヒデ兄ちゃんもあの日のよう
に私を強く抱きしめてくれます。
こんなに純粋に一途に一人の人を見つめていられてシアワセだなって、今では思います。
でも後悔している面もあって、親も兄弟も捨てるきっかけになってしまったあの冬の夕方
のことを、今までずっと封印していたのは後悔のせいだと思います。
あの日、あの狭いベッドの中で、ヒデ兄ちゃんはどう考えていたのか、聞いてみようと思
います。
長々とすみませんでした。