もう20年以上前になる。
当時高校2年生だった俺は夏休みに地元から2駅離れたコンビニでアルバイトをしていた。
千葉の田舎だったためバイト代は高くないが、オーナーが良い人だったのでやりやすいバイトだった。
海水浴場が徒歩圏内で、テニス合宿で超絶に忙しい店であったが、その分バイトの数も確保されており、コツさえ掴めば時間があっという間に過ぎる分退屈しないバイトだった。
不審な客に気づいたのは8月になる直前の14時過ぎだった。三人で来店し、酒のツマミや缶詰なとが陳列されているコーナーで固まっている女子がいた。
その場所はレジからは見えない上、防犯カメラにも映らないいわゆる「死角」なのだがビールや缶チューハイなどが入れられている冷蔵ケースの真ん前にある場所で、冷蔵庫の中からは丸見えなのである。
都内のスペースの狭いコンビニだと前側の商品を一旦カゴなどに出してから冷えてないビールなどを後ろに置いて、カゴに避けておいた冷えたビールを前側に戻すなんて店もあるが、田舎の店ならバックヤードも広めに取っており、冷蔵庫内で人が余裕ですれ違える程の広さがある。
海水浴場が近いため昼過ぎくらいまで飛ぶようにビールが売れるのでその補充に昼メシ食べた後は二時間くらい冷蔵庫内で作業をし続けているのが当たり前な仕事だった。
店内は明るく、冷蔵庫内は15W程の蛍光灯が2箇所ある程度なのてま外から冷蔵庫内で人がいるなんて余程注意して覗き込まなきゃわからない。その子たちも死角である事は分かっていたようだがまさか真後ろの、距離にして2メートルも離れていない至近距離に店員がいるなんて思っても居なかったようだ。
まぁこんな板に載せてるあたりでお気づきだろう。その女どもは万引きしていたのだ。当時「桃のお酒」なんてCMで人気のあったリキュールをスポーツバッグに入れたのをしっかりと写真に収めた。
都合の良い時にカメラなんか持ってるの?とツッコミが入りそうだから付け加えると、店側もこの場所が死角になってるのは承知している。
だから冷蔵庫内にあらかじめ使い捨てのカメラを置いてあり、不審な客に気づいたらそのカメラで撮影する様にと言われていたのだ。
最近じゃあまり見なくなったが、20年前だと使い捨てカメラを売ってないコンビニを探す方が難しい時代だったから。
本来なら怪しい動きをしている客を写真に収めたらその事を店長に伝えて、その客を事務所に「案内」し、容疑を伝えて認めるなら盗んだ品物の代金を払わせて終わり。認めないなら110番に電話してカメラと一緒に引き渡す。
でもその時俺はその客のことを店長にも店の誰にも伝えなかった。