携帯の着信音に辺りの人達の視線が集まった様な気がしたが、娘は構わず携帯を開いた。
私はまだメールを送って無い。
お互い視線を合わせ、首を捻る。
開いた携帯のメールを確かめたのだろう、娘は小さな声で、
もう…
と呟いた。
メールしようとしていた携帯をどうすりゃ良いのかほうけて居た私に、娘が俯いて携帯のディスプレイを見える様に差し出して来た。
家族からのメールだろう、
15分後に1階のペットショップ前に集合
の文面。
成る程、今時の家族はこうやってそれぞれの時間を使うのか。
子供が居ない為、私は、思わず感心してしまう。
見せていた携帯を引っ込め、上目遣いに私を見る娘に、大袈裟な作り笑いを向けて何度も頷き、テーブルの上に置いた手を娘に向けて「バイバイ」をした。
娘はのろのろ、と席を立ったが、私に向き小さくオジキをし足速に席を去り…
!!
オイオイ!
スカート、スカート!
ずり上がってショーツ、丸見えだよ!
叫びそうな私を正しく尻目に駆け出して行った。
不思議と、タイトに思えたスカートは、娘が一歩一歩駆ける度に、元の位置に戻って行った様だった。
さて、私も帰るか、娘が視界から消え、本を戻し、歩きはじめる。
案外周りは自分達の行動を気にかけないもんだな、そんな事を考えていた。
確かに、大人が下着丸出しなら注目も浴びよう。
それに経験上、露出プレイ等も、こちらが必要以上に意識するから挙動不審になり、悪目立ちする事が多く、全裸でも無い限り、平然としていると、胡散臭い顔をされても咎められた事は無かった。
余り人が多いと、人はむしろ認知範囲が狭くなる。
まあ、そういう事にしておこう。
書店を出てトイレに行き、帰るか、と思った時、私の狭く成ったはずの認知範囲に、何かが飛び込んで来て、猛烈な違和感が襲って来た。
なんだ、今のは?
来た道順を振り返る。
トイレ、通路、エントランスを取り囲む休憩用のソファー、書店の入口…
ソファー!
行き交う人の流れの中
娘がソファーに座り、私を凝視している。
思わず手を伸ばし、A、と声に出しかけた時
娘は人の流れの河の中
ゆっくりと
腰掛けたままデニムミニの中に両手を入れ
そして少し腰を浮かすと
素早くショーツを引き下ろし
器用に靴を履いたまま脚を抜き去った。
ソファーの娘と、立ちすくむ私の間を流れて行く人々の河
お互い視線を外さない。
ゆっくり脚を広げていく娘。
初めて会った公園の時を思い出す。
遠くて確認出来ない娘の幼くて、美しい性器
しかし、ありありと思い出すカタチと色…
永遠かと思う一瞬だ。
はた、と気付くと、娘は脚を閉じ、立ち上がり私に向かって来た。
A…
思わず名前を口にすると、娘は手にして居た物を私に手渡し、あどけない笑顔を見せ、また小さくお辞儀をして、そして今度こそ階下に向かうエスカレーターへ駆けていった。
私は私で、今度こそ、廻りの目が気になり、手にして居た物共々ジーンズのポケットに突っ込んで、車を停めた屋上へ向かった。
車の中でポケットに入れたモノを出し広げてみる。
オイオイオイ!
予想通り、ピンクのショーツ。
どうしろ、ってんだ!(笑)
私は確かに性倒錯者だが、下着収集の趣味はないぜ?!
そんな事を考えて居ると、携帯にメールの着信音。
オッサン~!(ありゃりゃ?戻ったぞ?)
今家族と車の中。
ノーパンだよ!(そりゃそうだろうな)
なんかエロくてヤバいね。
短い時間だったけど、Aは楽しかったよ
今日はありがとう!
なんかスッキリした。
ありがとう。
また遊んでね!
今度はゆっくりが良い!
T!(メールとは言え、遂に呼び捨て!)
ダイスキだよ!
数限りない大量のけたたましい絵文字と共に送られて来た。
因みに、ショーツはささやかな御礼らしい。
母親になんと言い訳するのやら。
家に帰り、借りて来たDVDでも見ようとして、妻に
ホラーを借りるなんて珍しい、と問われた。
まさか「小さな愛人」からのメールに気を取られて適当に手にした、なんて言えない。
言い訳は、大人の方が、
苦労する。