翌日、授業中も部活中も、A君は決してわたしと視線を合わせようとしませ
んでした。明らかに、意識して避けているのです。わたしの疑念は、確信に
変わりました。
部活が終わり、帰り仕度をしているA君に、「「A君、新聞の構成でちょっ
と打ち合わせしたいの」と言いました。
でも、それが口実で会ることはA君も分かっているはずです。わたしは、一
旦職員室に戻りました。もう、彼がわたしのショーツを盗んだのは確かで
す。わたしがいない間に、彼が逃げ出してくれないかと、そんなことも考え
ました。わたしはずるい女なのです。
しかし、A君は、逃げ出さず、部活の時と同じ席に俯いて座っていました。
わたしは、A君の向かいに腰を下ろし、一息おいて切り出しました。
「A君、もう分かっているわね。この間の企画会議の後、先生選択をしよう
と思って、洗濯機の中を見たら、下着が…その、ショーツが一枚、亡くなっ
ていたの。あの、A君…知っているわよね…」わたしは、なんとかそこまで
言うと(フーッ)と小さく息を吐きました。
わたしの問いに、A君は、肯定も否定もしませんでした。でも、さっきより
深くうなだれ、そして突然しゃくりあげるような嗚咽を始めました。大粒の
涙がボロボロ落ちてきます。
少しストレート過ぎたかな?と思いましたが、でもわたしの方こそ恥ずかし
くて、泣き出したかったのです。
でも、女って不思議ですね。あんなに恥ずかしい物を盗んだ犯人なのに、息
子ほど年下の教え子に涙を流されると、なんだか可哀想になり、スカートの
ポケットからハンカチを出して彼に差し出しました。
A君はそれに気がつきません。相変わらず大粒の涙、そして鼻水まで出て顎
を伝います。わたしは仕方なく、A君の傍に行き、ハンカチで彼の顔を拭き
ました。少し強く、何度もゴシゴシと。
A君は、されるがままです。そしてポツリと、「先生、ごめんなさい…」。
また、大粒の涙が頬を伝いました。
「ほら、もう泣かないの」
そのころから、わたしの中で、何かが変わり始めていました。
「いい。約束して。もう、あんなことは絶対しないって。そうすれば、この
ことは誰にも言わないわ。それから、先生の下着、今度の日曜日に返しに来
なさい」
わたしがそう言うと、Aクンは小さくうなづきました。ちょっと、お風呂に
入るので、続きはまた後で書きます。