そのまま、さらに待つこと20分ぐらい?
水着なしでお湯に出たり入ったりを繰り返しながら、胃が細るほどのプレッシャーに耐え続けていました。
はだかでお風呂に入るのは、本来あたりまえのことですが・・・
いつ誰が、どんなふうに現れるのか見当もつきません。
(どきどきどき)
これだけは、完全に運次第でした。
とにかく、いま男性が現れたら・・・
その人の視線を浴びている中で、全裸の屈辱にもだえながら服を着るしかなくなる私です。
想像しただけで、
(いやんいやん)
絶対に嫌だ、耐えられない・・・
(エロおやじみたいなのはいや)
(お願い、お願い・・・)
緊張で吐きそうになりながらも自身のプライドを煽ります。
後ろめたいことはないんだから・・・
(どんな相手だろうと)
(平然としてればいい)
死にそうな心境でお湯につかっているうちに、ついにその瞬間が訪れました。
向こうから人影が歩いてきています。
(えっ、若い)
(そんな・・・無理、無理、無理・・・)
待ちに待ったという思いと、
(ああん、私だめだ・・だめ・・・)
いまこの瞬間、この場から消えてしまいたいと願うほどの激しい羞恥の気持ち・・・
(あんな若い人といっしょなんて)
(絶対むり)
現れたのは、20歳ぐらいに見える男性ひとりでした。
まさか女が入っているとは思っていなかったのか、彼のほうも一瞬『あっ』という顔になっています。
かなり驚いているようでした。
でもすぐに大人の対応になって、
「こんにちは」
普通に挨拶してきてくれます。
(ああ・・・たぶん・・・いい人っぽい)
一目見ただけで私にはわかりました。
この人が、根っからの真面目タイプな男性だということが。
理由なんて説明できません。
でも、私は瞬時にその確信を得ています。
「こんにちは」
むしろ、内心どぎまぎしていたのは私のほうでした。
挨拶を返しながら、とんでもない恥ずかしいシチュエーションに耳まで熱くなってきています。
だって、だって・・・
(どうしよう私)
(なんにも着てないよう)
どうせ年配の男性しか現れないと思い込んでいた私でした。
それなのに、
(神様の意地悪・・・いじわる・・・)
こんな若い子に、コンプレックスの貧乳を見られたら・・・
私もう恥ずかしくて生きていけません。
さすがにそれは無理、
(耐えられない)
死んじゃう・・・
こちらも大人の対応を貫くしかありませんでした。
実際にこの状況になってしまった今、平然を装いながらもものすごく後悔している自分がいます。
ああなんで、
(水着を外したりしちゃったんだ)
こんな若い子といっしょになるとわかってたら・・・
(どうしよう、逃げたい・・・どうしよう・・・)
彼はもう東屋のところで服を脱ぎはじめています。
こんなふうに書いたら失礼ですが・・・
もっさりした印象で、イケメンにはほど遠い容姿の男の子でした。
ぱっと見で、馬を連想させるような『顔長』です。
たぶん学生なのだろうと思いますが、
(モテないだろうな)
そんな垢抜けない雰囲気じゃ・・・
トランクス型の水着にはき替えるとき、彼の毛むくじゃらのお尻が一瞬見えました。
その後ろ姿を目に焼きつけながら、このあと逆の立場になる自分を想像してしまいます。
(ああ、だめだ)
(消えたい・・・消えてしまいたい)
とにかく恥ずかしくてなりませんでした。
土色に濁ったお湯の中で、私ははだかの自分の胸を手でおさえています。
彼はお湯に入ってこようとしたとき、
(あああ、嫌・・・)
私が水着なしで入湯していることに気づいたようでした。
目を見開いたような表情になって、のどぼとけがごくっと上下しています。
(どきどきどき)
ふたりともお湯につかったまま・・・
お互いに無言でした。
気まずいなんてものではありません。
そして、私は気づきました。
(この子、真面目っていうより)
(そもそも内気タイプなんだ)
実は私自身も、本当はかなり人見知りするタイプなのです。
まして混浴の温泉で男の子とふたりっきりという、かなり特殊なシチュエーションでした。
沈黙のまま1秒ごとに重苦しくなっていく空気感に・・・
どんどん気まずさが募っていきます。
「・・・いいお天気ですね」
沈黙に耐えかねて、私のほうから話しかけていました。
でも、その後の二言目が続きません。
彼も同じでした。
どもったように、
「え、あ、そうですね・・・」
でも、その後は再びまたお互いに無言になってしまいます。
(どきどきどき)
もうだめだ、
(この空気の重さ・・・)
耐えられない・・・
それこそ1分が10分にも感じられるような気まずさでした。
彼が、ちらちら私の様子を窺っています。
湯中に揺らぐ私の胸を透かし見ようと懸命に目を凝らしているようでした。
(嫌ああ、恥ずかしい)
(そんな露骨なことしないで)
せめてもの強がりで、凛とした表情をつくっている私です。
だいじょうぶ、
(私なんてもうおばさんなんだから)
この子だってそんなに気にしない・・・はず・・・
(もう行こう)
(お湯からあがろう)
何度もそう思いながら、お湯から立ち上がるだけの勇気を出せずにいました。
気まずさを取り繕うかのように、
「な、なんか・・・すみません」
また自分から話しかけてしまう私がいます。
言い訳していました。
「ここ水着をつけてもいい温泉だったんですね」
「私、持ってきてなくて」
失敗したなあという表情で、はにかむ演技をしてみせます。
どう返していいかわからないという様子で、
「あ・・・はい」
口ごもっている顔長くん・・・
水着なしなのは私のほうなのに、私以上に緊張しているというのが一目でわかる感じでした。
「恥ずかしいから私がお風呂からあがるときは」
「ちゃんと目をつぶっててくださいねー」
そう言うと同時に羞恥心がわきあがって、
『かーーっ』
顔が熱くなっている自分がいます。
肩までお湯に沈めたまま、すーっと湯船の反対側のふちまで距離を置く私でした。
(どきどきどき)
湯船の対角で、向かい合うようにお湯につかっている私たち・・・
再び会話は途絶えています。
むしろさっきより気まずくなっていました。
ちょっと恥ずかしそうにお澄ましして、遠くの景色を眺めるふりをしている『彼女』です。
(無理・・・無理・・・)
(ひいいん)
男の子は無表情を装っていました。
でも、その目の動きに心の内を隠しきれていません。
超どきどきしているように見えました。
このままひたすら待ってさえいれば・・・
やがてこの女の人が、はだかでお湯から出るときがくるのです。
(誰か助けて・・・)
(私、もう無理・・・)
心のどこかで望んでいたはずのシチュエーションでした。
水着なしで誰かが来るのを待ち伏せていたのは、他でもない私自身です。
でも・・・現実にこの状況になってしまうと、どきどきを楽しむなんていう余裕はありませんでした。
なにしろ今の私は正真正銘すっ裸です。
しかも相手は、こんなに若い男の子でした。
何度もこっちに目を向けてきて、私のはだかを見る気まんまんなのがにじみ出ています。
(あああ、どうしよう)
(恥ずかしくて出れない)
それでも、昔取った杵柄というやつでした。
こんな状況なのに・・・
普通にお風呂からあがるだけでなく、貧血を装う恥ずかしいイメージが脳裏をよぎります。
でもやっぱり昔の自分とは違って、
(無理・・・無理・・・)
今の私にはハードルが高すぎました。
こうして景色を見ているふりをしているだけでも、すでに心臓がばくばくです。
「ふうーー」
どのみち全裸でお風呂からあがらなければならないことに変わりはありませんでした。
のぼせてきているかのように大きく息をつきます。
「ふうーう」
もういちど大きく息をつきました。
そして恥ずかしそうに、
「あの・・・」
顏長くんに声をかけます。
「ちょっとだけ」
「下向いててもらえますか?」
彼が目を見開いたのがわかりました。
水着をつけてないこの人が、ついにお風呂からあがろうとしています。
いかにもお上品そうな容貌の彼女が・・・
もじもじしながら、
「ざばっ」
お湯から立ち上がりました。
(ひいいーー)
水着なしのすっぽんぽんです。
羞恥の極みでした。
左右の手で胸と股をおさえながら、
「ざぶっ、ざぶっ」
湯船の中央を歩いていこうとする私です。
(ひいいいん)
見ないで見ないで、
(ひいいいーー)
恥ずかしいいいーーー
下を向いていてくれるはずなどありませんでした。
直視してくる顔長くんが、
(いやんいやん)
食い入るように目を見開いています。
(見ないでーーーおばさんだからーー)
(私なんかおばさんだからー)
恥ずかしそうに背中を丸めたまま、
(ああ・・・)
このタイミングだと思いました。
いきなり、ぴたっと歩みをとめます。
「ぁ・・・」
演技していました。
立ちくらみに襲われて、
「ぁ、ぁ・・・」
朦朧としたようによろける私・・・
かろうじて胸と股間を手で押さえてはいるものの、一糸まとわぬオールヌードです。
なんとか持ちこたえたふりをしました。
顏長くんもびっくりしたような眼差しを向けてきています。
いちおう心配してくれたみたいでした。
「大丈夫ですか?」
懸命に手だけでからだを隠したまま、恥ずかしそうにどぎまぎしてみせます。
はにかみながら、
「びっくりした・・・のぼせたみたい」
湯船のふちまでいきました。
お湯から出るときには、ちょうど彼に背を向けるかたちになります。
後ろは手で押さえることができずに、お尻まる出しでした。
ものすごく恥ずかしがってみせます。
「なんかやだぁ、もうー」
「なんで水着持ってこなかっ・・・」
言い終える前に、
「ぁ・・・」
またふらついてみせました。
険しい表情になって急いでお湯から出ようとするふりをします。
湯船から出た瞬間に・・・
がくっとひざを折ってみせました。
いきなりその場に崩れ落ちて、地べたに両手をついてしまいます。
「はあ、はあ、はあ・・・」
苦しそうに息を荒げました。
すぐに立ち上がろうと、いちどは腰を浮かせかけますが・・・
片ひざ立ちのまま動けなくなってみせます。
「じゃぼっ、じゃぼっざばっ」
顏長くんが助けに来てくれる気配がしていました。
男の子の前で、まぎれもない『一糸まとわぬ』素っ裸の私です。
「うう・・・」
つらそうに顔をしかめたまま涙を流してみせていました。
眉間に皺を寄せて、
「ひんけ・・・貧血が・・・」
喘ぐように口で呼吸をしています。
(ひいいいん、嫌あーー)
(見ないで、見ないでえ)
「はあ、はあ、はあ」
顏長くんが手を差し伸べてくれました。
すがるようにつかみます。
ふらふら状態を装いながら、あまりの恥ずかしさに顔から火を噴きそうな私でした。
男の子とふたりっきりで、自分だけが真っ裸です。
たぶんニ度と、こんな恥ずかしいシチュエーションはない・・・
1対1で付き添われたまま、
「すみ、ま・・・せ・・・」
よろよろと東屋の下にいきます。
(恥ずかしいよ)
(死ぬ・・・死ぬ・・・)
とにかく絶対に演技だとバレるわけにはいきませんでした。
傍らでじっと見守られたまま、
「はあ、はあ、はあ・・・」
トートから下着のパンツを取り出そうとします。
でも、貧血状態なのに無理やり立ち上がって歩いてきてしまった彼女でした。
症状が治まっているはずがありません。
再びふらっとよろけていました。
東屋の柱のようなところをとっさに手でつかんで、目を閉じる私・・・
立ったまま、じっと眩暈に耐えているふりをします。
(ああああん)
その間ずっと、棒立ちのオールヌードを観察されているようなものでした。
苦しそうに涙を頬に伝わらせながら、
「はあ、はあ、はあ」
最後まで貧血の演技を貫いてみせています。
目の前の柱を両手でつかんだまま、からだのどこも隠すことができていませんでした。
男の子が私の周りを行ったり来たりしています。
(ひいいいん、恥ずかしいよう)
容赦なく見られまくっていました。
眩暈に耐える立ち姿のまま、身じろぎもできずにいる彼女です。
自分で自分が不憫でなりませんでした。
私は何も悪くないのに、お尻の割れ目のあいだまで他人の目に触れさせてしまっています。
でも、こんな辱めを受けているそのみじめさが快感でした。
(もうだめ・・・死ぬ・・・)
視線に耐えられなくなって、少しずつ眩暈が落ち着いてきているふりをします。
内心で屈辱感にもだえていました。
ようやくまともに立っていられそうになった感じを出しながら、パンツを手に取ったとき・・・
横から声をかけられます。
「大丈夫ですか?」
われながら迫真の演技でした。
すぐ横に男性がいるのに自分が全裸でいることを、あらためて認識してしまったふりをします。
はっとわれに返ると同時に、泣き顔になってみせました。
「いやあん見ないで、恥ずかしい」
あまりの羞恥に顔を歪めたまま、ふらふら状態でパンツをはこうとする彼女ですが・・・
足もとがおぼつきません。
なりふりを気にしている余裕なんてないふりをしていました。
屈辱に唇を噛みしめながら、背を向けます。
「見ないで、見ないでください」
「お願いあっち向いてて」
涙声を出していました。
ふらつきながら前屈みになったこの人の恥部が、後ろの彼にまる見えになります。
被虐の快感に脳みそがとろけそうでした。
途中で足先に引っ掛けながらも、
「いやあー、嫌ああー」
なんとかパンツをはいてみせます。
(どきどきどき)
ブラもして、ひとつひとつ服を身につけていきました。
今にも泣きそうな顔になってみせています。
でも、表向きでは彼に迷惑をかけたのも確かでした。
だから、本当は文句のひとつも言いたいのにぐっとこらえている『大人』の彼女です。
「ご迷惑を・・・おかけしました・・・」
「すみません・・・」
目を伏せたままよろよろと荷物を持って、まだふらふらな感じでその場を後にします。
(まだ見てる)
(私のことを目で追ってる)
斜面の高低差で姿が見えなくなる場所まで来たところで、
(きゃあああーーー)
走り出している私でした。
駆けている足が空回りしそうな感覚で、呼吸がうまくできません。
(だめ・・・だめ・・・)
(私、もうだめ)
ひとりで車にたどり着いたときには、完全に足がガクガクでした。
でも、心はものすごい興奮の渦の中にあります。
晴れ晴れとした気持ちで空港への途につく『私』でした。
(PS)
帰途の機内で窓から暗闇の大地を見下ろしながら、ずっと顔を火照らせていた私です。
あの男の子のことを何度も思い出していました。
私だってまだ捨てたもんじゃない・・・
日常の喧騒に心をすり減らす毎日ながらも、ちょっとだけ自分に自信を取り戻せたような気がします。
また明日から、ひとりで頑張って生きていけると思いました。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。
何日もかかってしまいましたが、なんとか書き終えることができました。
長文スタイルなので、まともに読んでくださった方がどれだけいるかわからないけど・・・
ひとこと、読んだとだけでも教えていただけたら嬉しいです。
では、皆さんどうぞお元気で。
※元投稿はこちら >>