道路わきにとめた車の中で時計を見ます。
(だいじょうぶ)
(飛行機は夜なんだから)
まだ時間はたっぷりありました。
コンビニで買ってあったサンドイッチで簡単な昼食をとります。
そのまま時間をつぶしました。
心の奥底がうずきます。
(もういちどだけ)
(どきどきしたい)
車をスタートしました。
そして、ちょうど1時間ぶりぐらいであの野っ原駐車場に戻ってきた私です。
車は1台もありませんでした。
さっきのおじさんたちの軽自動車もいなくなっています。
(また来ちゃった)
昨日までの私とはぜんぜん違いました。
どきどきの興奮に憑かれてしまって・・・
やましい思考に脳をフル回転させるかつての私がすっかり戻ってきています。
だいじょうぶ・・・
どうせ旅先なんだから、
(今日だけは特別)
明日からまた真面目に生きていけばいい・・・
でもその反面、プレッシャーに胸が押しつぶされそうでした。
ああ、なんか・・・
(本当に以前の自分に戻ったみたい)
このわくわく感、やばい・・・
貴重品やスマホ、身元のわかるようなものはすべてダッシュボードの中にしまいます。
必要なものを入れたトートを持って、車から降り立ちました。
万一の紛失を恐れて車のキーは持っていきません。
とある場所に隠しました。
そういう行動のひとつひとつが、まるで歳月の針を巻き戻すかのように過去の自分と重なり合います。
とにかく慎重であることに越したことはありませんでした。
(どきどきどき)
荒れ地の道を歩いていきます。
駐車場に車がないのですから、今は誰もいないとわかっていました。
さっきみたいにひとりでお風呂に入って待っていればいいのです。
(あああ・・・この高揚感・・・)
(心臓がどきどきする)
東屋のひさしが見えてきました。
思ったとおり無人です。
服を脱いで水着に着替えました。
お湯につかって、誰かが訪ねてくるそのときを待ちます。
(今度はどんな人が来る?)
昨日のウザいおやじみたいのは嫌だ・・・
さっきみたいな真面目な人がいい・・・
でも、待てども待てども誰も現れませんでした。
時間を計っていたわけではないので、正確なところはわかりませんが・・・
かれこれ30分近く経ったと思います。
(誰もいない)
(私しかいない)
誰も現れないことにはちょっとがっかりでしたが、同時に異様に興奮してくる自分がいました。
お湯からあがって、
「ざばっ」
タオルで足先を拭います。
素足のままスニーカーをはいていました。
上下、ビキニの水着姿です。
(どきどきどき)
荒地の道を、駐車場方向へと戻るように歩いていきました。
秋空は抜けるように青くて風もほとんどありません。
数百メートル歩いていったところで足をとめます。
(どきどきどき)
日差しのまばゆさが最高に爽やかでした。
胸いっぱいに大きく呼吸して、空気の新鮮さをからだで感じます。
(誰もいない)
周囲に人の姿がないことを確かめました。
野っ原の駐車場は、この先をさらに5分ほど歩いていったところです。
今ここから見える範囲内に、こちらに歩いて来ている者の姿はありませんでした。
だいじょうぶ・・・
興奮を抑えられません。
(私しかいない)
もういちど大きく息を吸いました。
そしてビキニブラを外します。
こんなところで左右の胸を露わにした自分に、心臓がばくばくしていました。
スニーカーは脱がずにはいたままで、
「するっ」
ビキニパンツもおろします。
そのまま足首から抜き取りました。
脱いだビキニの上下を、道わきの草むらに隠します。
(どきどきどき)
異様な昂ぶりがありました。
スニーカー以外は何も身に着けていない全裸状態で、再び野湯のほうへと戻っていきます。
(ああん・・・気持ちいい・・・)
荒地の道を颯爽と闊歩しながら、職場の同僚たちの顔を思い浮かべていました。
まさか私がこんなことをしてるなんて想像すらできるはずのないあの人たち・・・
そんな自分だけの世界にひたります。
(気持ちいいーー、最高ーーー)
私のつたない文章力では、どう書いたところで理解してもらえないでしょう。
はだかのままで颯爽と外を歩いている、この開放感・・・
誰かに見られたら終わり・・・
禁断とも言えるその背徳的な心情に、意識が恍惚としてきます。
誰もいませんでした。
だから、歩きながら声に出して叫びます。
「〇〇〇〇〇(私の本名です)41歳、〇〇〇〇勤務ーー!」
「身長〇〇センチ、スリーサイズは、〇〇、〇〇、〇〇ーー!」
最高のストレス発散でした。
ふだん言葉にはできないようなことを、誰もいない荒地に向かって告白します。
「私、オナニーが好きーー、すごく好きなのーー!」
「毎日のようにオナニーしてるーー!」
(どきどきどき)
(どきどきどき)
たとえひとり暮らしの自分の部屋の中であっても、そんなことを言葉に出すことはありません。
それをこんなに大きな声で叫んでいる自分がいました。
「オナニー大好きーーー!」
(ひいいん、恥ずかしい)
(人に聞かれたら死ぬ)
東屋のひさしが見えてきます。
ひとりで勝手に赤面しそうになっている私ですが、ものすごくすっきりした気分でした。
でもほんとは、本当は、
(私、そんな下品な女じゃない)
ものすごく恥ずかしがりなの・・・
(ああん、帰りたくない)
(どきどきしたい)
仕事柄、最近では自社の企業広報誌にも何度か登場させてもらっている私です。
そんな自分が嘘のように、
(みんなー、信じてーー)
わたし、はだかで歩いてるよーーー
こんなことできるの今だけなんだから。
ふだんの日々では無理なんだから。
荷物のところでスニーカーを脱いで、
「ざぼざぼっ」
はだかのまま湯船に入ります。
(あああ、私)
(何も身につけてない)
この野湯の水着着用『可』は、水着を着用してもかまわないという意味にしかすぎません。
本来的に水着をつけるのが義務というわけではありませんでした。
すっぽんぽんのまま肩までお湯につかって・・・
そして、また待ちます。
(ううう、やばい・・・緊張する)
(今度はどんなおじさんが来るんだろ)
世の中の男性たちに教えてやりたい気持ちでした。
ねえ、いまこの混浴に来たら・・・
(こんな美人といっしょにお風呂に入れちゃうよ?)
しかも私、水着つけてないんだよ・・・
(だめだ、お願い・・・)
(誰も来ないで、お願い・・・)
誰も来ないでと強く願いながら、
(ああ、早く・・・)
誰か私をどきどきさせて・・・
緊張しすぎて、『生きた心地がしない』とはこのことです。
ひとり占めの混浴温泉でお湯につかりながら・・・
非日常のこのひとときに興奮して胸をばくばくさせている私でした。
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