翌朝、宿泊していたビジネスホテルのベッドで目を覚ましました。
時計を見ると、もう9時です。
焦りました。
身支度を整えてチェックアウトします。
(なにやってんだ)
車に乗り込みました。
どちらかと言うと、もともと私は入念にスケジュールを立ててから旅行をするタイプです。
本当は、早起きして6時前には出発するつもりでいました。
二日目の今日は、2つの温泉地をめぐってから空港に向かう予定でいたからです。
でも、どう考えても・・・もう無理でした。
どちらも訪ねることを楽しみにしていた温泉です。
がっかりなんてものではありません。
(ばかすぎる)
(ほんと、なにやってんだよ)
その2つの温泉地どうしは比較的隣接しているのですが、ここからはかなりの距離でした。
県境を2つも越えてまた戻ってくるなんて・・・
今からでは、どう考えても無理です。
(悔しい・・・)
実は、旅先で寝坊してしまって予定が崩れたというのは以前にも経験したことのある私でした。
そのとき以来、こういうことがないように気をつけるようにしていたのに・・・
本当に馬鹿です。
(しょうがない)
(このまま空港に向かうか)
(それにしたって)
(さすがに夜まで時間をつぶせない)
車を走らせながら、途方にくれていました。
道沿いにローカルのファミレスが現れたので駐車場に車を入れます。
朝食をとりながら、スマホで観光地を探しました。
これといって行きたいと思うところも特にみつかりません。
たいして美味しくもない薄いコーヒーを飲んでいる自分が、なんだかすごく切なくなりました。
会計を済ませて店を出ます。
(どうせ時間を持て余しているんだから)
(もういちど行くか・・・)
思いつきのようなものでした。
昨日のあの野湯だったら、ここから車で1時間弱で行くことができます。
もう道もわかっていました。
時計の針は、すでに10時半をまわっています。
(もういちどあそこに行って)
(今回の温泉納めにしよう。。。)
車をスタートさせました。
途中のコンビニで買い物をした以外は、ほとんど何もない山道が続きます。
そして到着しました。
(ん・・・無人?)
今日もいい天気でした。
昨日と同じあたりに車をとめます。
他にとまっている車はありませんでした。
ラッキーです。
(誰もいない)
(いまなら貸切状態?)
必要な荷物をトートバッグに詰めて、車から降りました。
アップダウンの激しい荒地の道を歩いていきます。
東屋のひさしが見えてきました。
小走りに近づいていくと、やはり無人です。
(やった)
(本当に私だけだ)
とはいえ、他の誰かがいつ訪れてきてもおかしくありませんでした。
ビキニの水着に着替えてから湯船に入ります。
(ああ・・・けっこういい・・・)
場所の特定を避けるために、あえて詳細な描写はしません。
景色はいまひとつでした。
地形的には、やや谷のように窪んだエリアにある感じで間違いないと思います。
(昨日はぜんぜん)
(お湯を楽しむ余裕がなかった)
茶褐色の濁ったお湯がじんわり熱い感じで、泉質も悪くありません。
自分だけで野湯を独り占めでした。
肩までつかりながらまぶたを閉じると、風にそよぐ草々のさらさら乾いた音が心地よく耳に届いてきます。
気配がしたと思って目を開けたら・・・
東屋のひさしの端に小さな野鳥がとまっていました。
せわしなく首を振りながら羽を休めています。
(やっぱり私、温泉が好き)
(こういうの最高。。。)
再び目をつぶって日常の自分を忘れます。
そんなこんなで、ゆっくりと30分ぐらいひとりぼっちの贅沢な時間を堪能していました。
そろそろ、もう行こうかなという気分になります。
(あ・・・)
誰かが来ていました。
向こうのほうから・・・2人・・・
男の人が歩いてきています。
(どきどきどき)
一瞬にして昨日のおっさんのことを思い起こしていました。
あんな感じのイヤな男性たちだったら・・・本当にもうウンザリって感じです。
でも、結果的にそれは杞憂でした。
「こんにちは」
60代半ばぐらいでしょうか。
人の良さそうなおじさんたち二人組でした。
女の私を目にしてもがつがつした感じはまったくなく、とても穏やかな笑顔を向けてきてくれています。
「あらまー、べっぴんさんだこと」
慣れている地元の人という印象でした。
親しみを感じさせるその笑顔に、私も心がほっこりします。
無意識のうちに警戒心でいっぱいになっていた自分に気づいて、肩の力を抜きました。
(よかった)
(だいじょうぶ)
おじさんたちが東屋のひさしの下で服を脱いでいます。
水着をつける様子はありませんでした。
はだかのまま、前の部分を手でおさえるようにして湯船に入ってきます。
「すいません、おじゃましますね」
「あ、いえ・・・」
「私もちょうど帰るとこでしたから」
入れ替わるように、
「ざばっ」
私はお湯からあがっていました。
昨日のシーンが脳裏にフラッシュバックして、苦しいほどに胸がどきどきしてきます。
(なんか、なんか・・・恥ずかしい)
このふたりに対して悪い感情は抱いていませんでした。
なぜかわからないけど、
(だいじょうぶ)
むしろ親近感を覚えるぐらいです。
(昨日の人とはちがう、だいじょうぶ・・・)
(ああん、着替えなきゃ)
胸がどきどきしました。
東屋のところに歩み寄ります。
男の人ふたりの視線が気になって何度も振り返ってしまいました。
目と目が合ってしまいますが・・・
でも女性の私に気を遣って、すぐにさりげなく視線を逸らしてくれています。
(あああ・・・いい人だ・・・)
(昨日のおっさんとはぜんぜんちがう・・・)
正直に書きます。
内心、興奮していました。
(ねえ、おじさんたち・・・)
(いつも私、すごい真面目なんだよ)
そう、真面目な私だからこそ・・・心の底からわいてくる不埒な気持ちを抑えられません。
台の上に置いていたトートの中から、
(あああ、ばか・・・)
スポーツタオルではなく、あえて小さいハンドタオルを取り出していました。
下着のブラといっしょに棚に置きます。
胸が見えないように湯船のふたりに背を向けました。
ビキニのブラを外します。
(どきどきどき)
おじさんたちに背を向けたまま、ハンドタオルで手早く上半身を拭きました。
下着のブラをさっとつけます。
そして、ふっと後ろを振り返りました。
5~6メートル後ろの湯船から遠慮がちにこっちを見ていたおじさんたちと目が合います。
(ばくばくばく)
恥じらってみせました。
演技ではありません。
本当に恥ずかしくて、顔がかーっと熱くなっている自分がいます。
(あああ・・・だめえ)
照れくさそうにはにかみながら、
「なんかちょっと・・・」
もじもじしてみせました。
「あんまりこっち見ないでください」
「あっち向いてて」
この小っちゃいハンドタオルは、ハンカチをひとまわり大きくした程度のサイズしかありません。
腰に巻くことはできませんでした。
(おじさん見て、ちゃんと見てて・・・)
(真面目なの・・・私いつも真面目なの・・・)
再び背を向けて、ビキニパンツに両手をかけます。
するっと下までおろしました。
後ろ姿とはいえ、
(ああああーー)
男の人たちが後ろにいるのに、いま私は下半身すっぽんぽんです。
脱いだビキニパンツを棚に置きました。
自虐の興奮が昂って、また顔だけ後ろを振り向きます。
ふたりと目が合って・・・
「ちょっと・・・恥ずかし・・・」
本当に顔が真っ赤のはずでした。
一瞬、手のひらでお尻を押さえて隠す素振りをしますが・・・
すぐにハンドタオルを手に取ります。
慌てまくっているふうを装っていました。
背を向けてはいるけれど、焦りのあまりつい前屈みになって脚を拭いてしまっている彼女です。
(ひいいいん)
美人さんのスリムなお尻が、無防備すぎるぐらいにまで左右に開き切っていました。
その一部始終がおじさんたちにまる見えです。
(いやんいやん、見ないで)
(恥ずかしいよう)
そして、ささっと下着のパンツをはきました。
最後まで背を向けたまま服を着ます。
(あああ、最高・・・最高に興奮する・・・)
身なりを整えてトートバッグを抱えました。
もう演技でなく本当にどぎまぎしながら、
「お先に・・・」
ふたりに会釈します。
おじさんたちも、素知らぬふりで会釈を返してくれていました。
まるで何事もなかったかのように、その場を後にします。
(どきどきどき)
脳がくらくらしていました。
荒れ地の道を駐車場に向かって歩いていくうちに、緊張が少しずつ解けていきます。
(たぶんぜんぶ見えてた)
(もうだめ、気絶しそう)
駐車スペースには、私のレンタカー以外に白い軽自動車が1台とまっていました。
おそらくあのおじさんたちの車です。
(恥ずかしい・・・死にたい・・・)
自分の車に乗り込んで発進していました。
ふわふわした頭のままで、事故を起こさないように気をつけながら慎重にハンドルを握ります。
適当に20分ほどドライブして、道路わきが広く空いていた場所に車をとめました。
そのころになって、ようやく気持ちが落ち着いてきた私です。
(ああ・・・ここなら・・・)
(思いっきり泣ける)
そして、声をあげて泣きました。
悲しいのではありません。
まるで子どものようにわんわん泣いている自分がものすごく心地よいのです。
(ああ・・・やばい・・・)
(最高・・・)
気分爽快でした。
不思議としか言いようがありませんが・・・
自分が一気に10歳も若返ったような感覚になって、元気がみなぎってくるのがわかります。
泣いたことで、怖いぐらいに神経が研ぎ澄まされていく自分を感じていました。
※元投稿はこちら >>