お湯はぬるめですが、ずっとつかっていればさすがにのぼせてきます。
でも、なかなか帰る気になれませんでした。
30分ぐらい、ひとりきりでのんびり野湯を満喫していた私です。
ああ、もう帰ったほうがいい・・・
(いつまでもこうしてたら)
(そのうち男の人も現れかねない)
かすかに何かを耳にしたような気がしました。
やがて本当に人の気配を感じて、
(どきっ!)
一気に現実に引き戻されます。
そして、心臓がばくばくばくばく・・・
(やっぱり、来ちゃったか・・・)
(あああ・・・人がくる・・・)
緊張の一瞬でした。
入ろうと思えば誰でも入ることのできる野湯ですから、ある意味予想はしていたことです。
でも、どんな人が現れるのかはまったくの未知数でした。
自分でこんなふうに書けば反感を買うのはわかっているけど・・・
外見の容姿だけなら、ちょっと目を引くような『美人』の私です。
覚悟はしていたけど、
(でもやっぱり)
男の人は恥ずかしいよ・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
あ・・・
(ひいいいいいー)
2人組の若い男性たちでした。
先客としてすでにお湯につかっていた私を目にした瞬間、
『おおおおー』
そんな表情になっています。
私は私で、
(ひいいいん)
顔が真っ赤になっているのが自分でわかりました。
(そんな・・・)
(恥ずかしすぎる)
お湯は土色ににごっているので、私のはだかが見えているわけではありません。
でも羞恥の極致でした。
気まずさをごまかそうと、いつのまにか気持ちが演技モードになって・・・
平然を装おうとしている『私』がいます。
(どきどきどきどき)
「うわあー、すげえー」
「こんにちはー!」
たぶん20代前半ぐらいの男の子たちでした。
はたから見てわかるほど、
「すげー、まじで混浴だー」
テンション爆上がりになっている彼らです。
(嫌あーー)
でも、このふたりが悪い子たちでないことは一目で見抜いていた私でした。
どうしてと問われても困るのですが、私にはわかるのです。
だいじょうぶ、
(襲われたりはしない)
間違いなく、根はかなり真面目なタイプのオタクっぽい男の子たちでした。
そういった意味では、内心ちょっと一安心です。
(だいじょうぶ)
(落ち着け・・・落ち着け、わたし・・・)
温泉に来るのにその服のチョイス?
そう言いたくなるようなファッションセンスでした。
まったく垢抜けていない外見で・・・
彼女なんていないんだろうなというのが(勝手な印象ですが)一目瞭然です。
でも真面目そうな子たちであれば・・・
それはそれで、
(ひいいいん)
私としても本当に恥ずかしくてなりませんでした。
(いやんいやん、荷物置いてる)
(入ってきちゃう)
信じてもらえなくてもかまいませんが、見た目だけなら28~9で通用する私です。
彼らの目にも、おそらくそう映っているはずでした。
でも、私の実年齢はもうアラフォーです。
もし同世代の女性がこれを読んでくださっていたとしたら・・・
想像つきますか?・・・20歳そこそこの男の子たちと混浴する恥ずかしさが。
荷物を置いた彼らが・・・
私の存在を気にして、
「えー!?・・・えー!?」
躊躇いながら服を脱ぎはじめています。
(あああ、確定だ)
(このままだと混浴だ・・・)
私はうまく演技できていませんでした。
平然のふりをしようとしても、表情に動揺が出てしまっているのが自分でもわかります。
ひいい、
(むりむりむり)
恥ずかしすぎる・・・
パンツを脱ごうとしている彼らが、照れたように手で自分の股を隠そうとしています。
完全に隠せるはずがありませんでした。
脱ぐときにどうしてもお〇んちんが見えてしまっています。
いやあん、
(見えてるってば)
恥ずかしいよ・・・
「ざぼん・・・」
「じゃばっ・・・」
ふたりがお湯に入ってきました。
あまりの気まずさにうつむいてしまう私・・・
彼らもどうコミュニケーションを取っていいかわからないようでした。
おかっぱ頭のほうの子が、
「こ、こんにちは」
あらためて挨拶しようとしてきてくれます。
その声がうわずっていて、かなり緊張しているんだというのがストレートに伝わってきていました。
この気まずい雰囲気をなんとかしようと勇気を出して接してきてくれているのです。
それがわかるのに、それなのに・・・
私が選んだ態度は『拒絶』でした。
ちょっと会釈だけして、迷惑そうにぷいっと顔を横に向けてしまいます。
自分でもどうにもできませんでした。
いい歳して情けないけど、ずっと動揺したままでとっさに笑顔をつくることができなかったのです。
もともとの内向的な性格が災いして、
(ああ私、最低・・・)
挨拶してきてくれた相手にこんな失礼な態度を取ってしまっている自分がいました。
(私のほうが年上なのに・・・ずっと年上なのに・・・)
(ごめんね、ごめん・・)
私のせいで、ますます気まずい空気になってしまっています。
それでも今度はもうひとりのメガネのほうの子が、
「すみません・・・」
なおも気を遣ってくれていました。
「気まずいですよね」
「男といっしょになっちゃったら」
私の方こそ申し訳ない気持ちでいっぱいです。
でも、いまさら態度を変えるという勇気(?)が私にはありませんでした。
ちらっと目を合わせて、
「いえ、だいじょうぶです・・・」
プライドが高そうにお澄ましした表情を崩しません。
(あああ、もうだめ)
(帰りたい)
重苦しい時間が流れていました。
こんなにつれない態度をとってしまっているのに・・・
でもやはりそこは『男の子』です。
まったく会話のない状況ですが、同じお湯につかっている私のことをチラチラ見ずにはいられないようでした。
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