順調に温泉旅を楽しんでいました。
私は昔からお風呂に入るのが大好きです。
だから温泉をめぐるのも、数少ない趣味のひとつのようなものでした。
綿密にスケジュールを組んで、行きたいと思っていた温泉をいくつか訪ねていきます。
そして3日目を迎えていました。
最終日ですが、午後の新幹線までそれなりに時間はあります。
3日目については、〇〇温泉と△△温泉をハシゴしてから帰途につく予定でした。
ただし、もうひとつの選択肢もあります。
それは、今回の温泉旅で唯一となる『野湯』を訪ねるパターンでした。
その気になれば、行程的にそちらに足を伸ばすことも可能です。
(行こう)
(朝早く行けば大丈夫)
野湯を訪ねるほうを選んでいました。
ルート的には遠回りになるので、早朝に発つ必要があります。
それに、男女共用(混浴)なので・・・
人の多くない時間帯を狙うためにも、早朝出発はマストでした。
いやらしそうな男性が陣取っていてせっかく行ったのに入るのを諦めるとか、そんなのは絶対にイヤだからです。
(まだ星が出てる)
(今日も暑くなりそうだな)
夜明けと同時にビジネスホテルをチェックアウトしていました。
レンタカーのハンドルを握って目的地を目指します。
私はこれまでも何度か野湯の入浴を経験したことがありました。
向かう途中はいつも不安でいっぱいだけど、
(だけど、まあ・・・)
大丈夫・・・
行けばきっとなんとかなります。
(どきどきどき)
下心などありませんでした。
純粋に、お風呂好きとして大自然の空気と景色と温泉を楽しみたいだけです。
そういう意味で期待いっぱいでした。
でも、野湯にはこれまでも思い出とかがいろいろあって・・・
女ひとりで訪ねる以上は、どうしても不安を払拭することができません。
緊張せざるをえませんでした。
(もしかしたら)
(男性と居合わせてしまうかもしれない)
いざとなれば混浴になる覚悟も持っていますが・・・
その恥ずかしさは経験したことのある女性でないと絶対に理解できないと思います。
できれば避けたいと思っていました。
繰り返しになりますが、
(どきどきどき)
私は下心があって今回の温泉旅をしているわけではありません。
早く行くことで野湯を独り占めしたい・・・
それが私の願望でした。
(お願い)
(エロおやじとか困る)
場所の特定を避けるために具体的なことは一切書きません。
車を下りてからなだらかな小径をかなり歩いて、ようやくその場所にたどり着いていました。
早朝なのが功を奏して、誰もいません。
(よし、ラッキー)
(私だけだ!)
質素そのものの野湯でした。
湧き出たお湯があふれ続けていてかけ流し状態です。
いちおう人の手が加えられていて入浴場のていになってはいますが、実質的には未管理状態でした。
野湯にしては、思ったより広さもあります。
土色の湯面に手を入れると、かなりぬるめでした。
この湯温だと、もし冬だったら入るのはかなり厳しいだろうなという気がします。
周囲を入念に見渡しました。
(よーし、誰もいない)
(だいじょうぶ)
着ているものを脱ぎます。
足もとは、雑木林の地面そのものでした。
湿った土や落ち葉を裸足で踏みしめながら、パンツを下ろしてはだかになります。
かけ湯しようにも・・・
桶も洗面器もありませんでした。
ちょっと罪悪感がありますが、そのままお湯に入ります。
「ざぼっ」
(ふーーーー)
感無量でした。
今回の旅行でも、ここまでいくつかの温泉地に寄ってきた私ですが・・・
こういうお風呂はやっぱり最高です。
温泉施設の意匠的な露天風呂とはちがって、
(気持ちいい。。。)
まさしく本物の野天湯でした。
「ふーーー」
独りぼっちで旅気分を堪能している自分がいます。
連日厳しい暑さが続いていますが、旅行中にお天気に恵まれているのはありがたいことでした。
昨夜はちょっとだけ、
(強い雨が降ってたみたいだけど・・・)
でも、日中はこうして毎日晴れてくれています。
まだ7月下旬の今ですが、今日も夏のピーク同然の酷暑になりそうでした。
(来てよかった)
(温泉って最高。。。)
私も歳を重ねたものです。
昔はひとり旅なんて寂しくてしょうがなかったけど・・・
いまはむしろ、そのほうがリラックスできるぐらいでした。
もし友だちを誘ったところで、
(こんな野湯なんて)
誰も付き合ってくれないだろうな・・・
そもそもみんな家族や子育てのことが忙しくて、もうそれどころではないのです。
(独身なのは・・・私だけだよ)
(ごめんねお母さん)
こんなダメな娘に育っちゃって、
(孫の顔も見せてあげられなかったな)
楽しみにしてただろうに・・・
「ふーーー」
私がこの半生で手に入れたものって何だろう・・・
考えても仕方ないけど、
(私には何もない)
毎日ただただ地道に真面目に生きてるだけ・・・
1分ごとに太陽が高く昇っていく感じがありました。
景色について具体的な描写をすることは避けますが、大自然の奥深さを感じます。
贅沢なひとときでした。
文章にすると考えていることはネガティブに聞こえるかも知れませんが・・・
日々の自分を見つめ直すいい機会になっています。
(はるばるこっちにまで)
(足を伸ばして来てよかった)
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