12月下旬に〇〇地方に行ってきました。
いつまた旅行するのが難しい社会情勢になってもおかしくないご時世です。
いまのうちにと考えて、思い切って遠出してきました。
私はもともと大のお風呂好きです。
だから今回の旅行も目的は『温泉』でした。
そして、調べに調べてここに行こうと決めたこの『温泉』・・・
私は、まさにいまその場所にたどり着こうとしていました。
かなり遠かっただけに、自分が実際にこの地に立っているというだけで既に感慨もひとしおです。
(やばい・・・)
(疲れてもう足がガクガク)
場所がわかりそうなことを書くのを避けるため、あまり具体的なことは記しません。
かなりの道のりを歩いてきたその先にある、野天の温泉でした。
イメージとしては・・・
何もない原っぱの真ん中に、ただ野湯だけがあるようなものと想像していただければと思います。
そのお風呂が、もう前方に見えていました。
(ああ・・・)
(やっぱり人がいるのか)
先客の2人組がいました。
40代後半ぐらいと思しき男性たちです。
歩いて来た私を見て、驚いているようでした。
自分で言うのもなんですが・・・
こんなところにひとりで現れるには似つかわしくない容姿端麗な『私』です。
(どきどきどき)
すさまじいプレッシャーに押しつぶされそうでした。
そもそも男湯も女湯もない野ざらしのお風呂です。
10メートル四方ぐらいでしょうか。
それぐらいの大きさのほぼ正方形に近いスペースがあって、その中央に円形の湯だまりが1つある感じです。
入浴するなら彼らとの混浴は避けられませんでした。
その覚悟はできています。
この秘湯に入るために、関東からはるばるここまで旅してきたのですから。
(どきどきどき)
よこしまな気持ちはありませんでした。
純粋に温泉を楽しみたいだけです。
とはいえ男性との混浴というのは、やはりかなり高いハードルでした。
(どきどきどき)
だいじょうぶ・・・
私には、こういうときに応用できる得意技があります。
足もとに、
「どさっ」
背負っていたザックを下ろしました。
日本人ではないふりをしながら近づいていきます。
「コニチハ」
「ゲンキデスカ」
「え・・・あ、こんにちは」
へんてこなイントネーションの日本語で挨拶されて、微妙に戸惑っているおじさんたち・・・
おかまいなしに、その湯だまりの前にしゃがみこみます。
「Ol槌,Como voc槌 est槌?」
「Voc槌 n槌o entende portugu槌s, certo」
ふたりの反応を見ながら、指先でお湯の表面にふれました。
「Se sentir bem」
自分の言葉が本当に通じていないことを確認すべく矢継ぎ早に話しかけます。
「Voc槌 pode entender o que estou dizendo?」
「Voc槌 n槌o entende o idioma, certo?」
手前にいたほうのメガネの男性が、
「あー、あー、えーと・・・」
なんとかしてしゃべり返そうとしてくれていました。
私は、まだマスクをつけたままです。
『目』だけで微笑みをつくりながら、相手のことを冷静に観察していました。
(だいじょうぶ)
(悪い人たちじゃない)
「キャンユースピーク、イングリッシュ?」
メガネさんが、私に尋ねてきます。
わざとたどたどしく、
「English?・・・Can hardly・・・sorry」
英単語をブツ切りにしてつぶやいてみせました。
そして、彼らに話しかけるのを諦めたふりをします。
ふたりの様子から、もう自分が日本人とは思われていないことを確信していました。
「Quente e confort槌vel」
しゃがんだまま、気持ちよさそうに手先をお湯にちゃぽちゃぽさせます。
目もとだけで微笑んでみせていました。
「ぜったいカワイイだろ」
「顔、小っちゃ」
もうひとりのヒョロヒョロ体型の男性が、メガネさんに囁いています。
いい気分でした。
見た目の若さと容貌には多少の自信がある私です。
こちらに言葉が通じていないと思って、率直に印象をつぶやいてくれる男性・・・
目の前で容姿を褒められるのは最高に自尊心をくすぐられました。
(どきどきどき)
本当は死ぬほど恥ずかしいけど、混浴する覚悟はすでに固まっています。
(だいじょうぶ)
(この人たちなら)
これまでの経験から得た感覚でした。
本当の自分とは違う人間(この場合は外国人)になりきることで・・・
どこか他人事であるかのように、意識の中で羞恥の気持ちを鈍らせます。
(私は入る)
(このお風呂に)
だいじょうぶ・・・
どうせこの人たちは赤の他人・・・
(二度と会うこともない)
身振り手振りで、
「Posso ficar com voc槌?」
自分とお湯とを交互に指さしてみせました。
彼らの反応を待たずにぱっと立ちあがって、ザックのもとに歩み寄ります。
マスクを外しました。
自分の素顔をふたりにさらします。
(どきどきどきどき)
靴ひもをほどいてトレッキングシューズを脱ぎました。
防寒用に着ていたシェルのフロントファスナーを下ろします。
「マジか・・・やべえ・・・」
メガネさんの囁きが聞こえました。
でも・・・本当に『やべえ』のは、私のほうです。
内心、早くも泣きそうになっていました。
知らないおじさんたちがガッツリ見ている前で、服を脱ごうとしている自分がいるのです。
ひいん、
(恥ずかしいよ)
脱げないよ・・・
人づてに聞かされて、私は知っていました。
K藤さん、N村さん、S木さん・・・
こんな私なんかに思いを寄せてくれている男性が、いま自分の職場に3人いることを。
でも、私自身は彼らに対してまったくその気がありません。
だから申し訳ないけど・・・
その人たちの気持ちには、知っていて気づいていないふりを通している私でした。
その『私』が、
(恥ずかしいよ)
おじさんたちの前で、惜しげもなくはだかになろうとしています。
(ひいん、お願い)
(こっち見ないで)
トレッキングパンツを下ろしました。
空気の冷たさが太もものあいだをすり抜けて、一瞬で鳥肌が立ちます。
(ひー、寒いぃっ)
脱いだ服は、地面に寝かせたザックの上に重ね置きしていきました。
お湯の中から見上げるように、ふたりが私をみつめています。
下着のパンツまる出しの姿で、
(ああん、むり・・・)
無理やり平静の表情をつくってみせていました。
「あし、細っそ・・・」
「細っせー・・・」
そんなつぶやきに顔全体を熱くしながら、おじさんたちの囁きに耳を傾けます。
素知らぬふりしてシャツも脱ぐと、もう身につけているのはブラとパンツだけでした。
「やっべえなこれ・・・最高だろ」
背中のホックに手をまわしながら、何か言ってるなあという感じで彼らのほうを見ます。
ふたりと目が合いました。
人がよさそうに、はにかんでみせる『この子』・・・
可憐な笑顔で目を合わせたまま、すっとブラを外します。
(きゃあああ)
おっぱいまる出しでした。
ふたりの視線をちょっと気にしてしまったかのように、左の腕を両方の胸にあてがいます。
右手だけで下着のパンツのふちをつかみました。
とてもじゃないけど恥ずかしすぎて脱げませんが、でも『脱ぐ』しかありません。
(ひいいん)
片手だけで、不器用にパンツを下ろしました。
おじさんたちのほうを向いたまま、
『ぐいっ』
(きゃああーー)
もともと薄いアンダーヘアが露わになります。
(きゃああ、きゃあああー)
下ろしたパンツから足首を抜いて、重ねた服の上に置きました。
一糸まとわぬ全裸になった私が演じる、この『微笑みの彼女』です。
左腕で両胸を、右の手のひらで股を隠すように押さえながら・・・
さすがに少し恥ずかしそうにしてみせました。
いそいそと彼らに近づいていって、私もお湯に入ります。
「じゃぼっ」
(ああん)
(入っちゃった)
めまいがしそうでした。
恥ずかしすぎて顔から火を噴きそうとは、まさにこのことです。
おじさんたちと3人きりでした。
いっしょにお湯につかったまま、周囲は何もない野っ原です。
(どきどきどきどき)
白っぽいにごり湯でした。
こうして肩までつかっているぶんには、お互い首から上しか見えません。
誰も口を開きませんでした。
無言のまま何食わぬ顔をしているおじさんたちですが・・・
ちらちらと私のことを観察しています。
(どきどきどきどき)
気恥ずかしくてなりませんでした。
だって、私・・・
信じてもらえないかもしれないけど、本当はすごく内気で臆病な性格なのです。
(どきどきどきどき)
必死に平静を装っていました。
おのおのがそれぞれ遠くの景色に目をやりながらのんびりとくつろいでいる・・・
表向きは、一見そんな穏やかな空気感です。
(恥ずかしそうにしちゃだめ)
恥ずかしがっていると思われたら・・・
よけいに恥ずかしい・・・
ここはお風呂です。
お風呂ではだかなのは、あたりまえのことでした。
誰も悪くないし、ここにいる3人とも何ひとつ不自然な点はありません。
(意識しすぎちゃだめ)
(落ち着いて・・・落ち着いて・・・)
ぬるいお湯なので、のぼせることはありませんでした。
というより、外気温が低いのでいちどつかったら寒くてお湯から出られなくなる感じです。
誰も一言も発しないまま、ゆったりと時間が流れていました。
そのまま、5分ぐらい・・・もっと?
時間の経過とともに、不思議と気まずさのようなものも薄れていきます。
(ふう、なんか・・・)
(思ったよりだいじょうぶだな)
彼らにすれば、自分たちより一回り以上も若い女と混浴している状況でした。
しかも(自分で言うのもなんですが)外見はこれほどの美人です。
ふたりとも、お湯につかっている私のことを意識しまくっているのが痛いほど伝わってきていました。
でも、露骨にいやらしいという感じではありません。
まあ・・・視線はチラチラ飛んでくるけど・・・
(だいじょうぶ)
(いい人たちだ)
過度の緊張のせいで温泉を楽しめないのは本意ではありませんでした。
なんでもいいから私のほうから話しかけてみます。
「As fontes termais s槌o as melhores」
「Voc槌 est槌 feliz por ter uma jovem com voc槌?」
「ごめんね」
「なに言ってるのかわかんないや」
あれほどプレッシャーを感じていたのが嘘のようでした。
なんとなく居心地の良さのようなものを感じはじめている自分がいます。
「ふうーう」
(ほんとよかった)
(変な人たちじゃなくて)
(ふうー)
「Estou feliz que voc槌s sejam boas pessoas」
「A fonte termal ao ar livre 槌 agrad槌vel」
なんだろう・・・
やっぱり何か不思議な感覚でした。
はるばるこんなところまでやって来たというお互いの共通意識が、性別の違いを越えてこの場の連帯感のようなものに結びついているのでしょうか。
おおらかで、なんだかとてもやさしい気持ちになれている『私』がいます。
彼らふたりからも同じような雰囲気を感じ取っていました。
やはり悪い人たちではないのです。
「ふうーっ」
いつのまにかこの温泉を満喫している自分がいました。
景色は広大で雄大だけど・・・
何もないと言えば何もない、ただの原っぱです。
どこまでも広がる枯れススキの野原を、お湯の中から一望することができました。
ちょっと寒いのはしかたないとして、お日様も出ていい天気です。
「ふーーっ」
外気が冷たくて、やはりお湯の中からは出られませんでした。
ずっと肩までつかったまま、
「ふううーーっ」
気持ちよさそうに深い息をついている私といっしょに・・・
メガネさんが穏やかに微笑んでいます。
(青空の下っていいね、おじさん)
(野天のお風呂、最高だね)
私が来たときに、この2人組はもういました。
こうして野湯を楽しんでいる彼らは、いつからこの場にいるのでしょう。
でも・・・なんとなくわかりました。
たとえどんなに長風呂になろうとも、たぶんこの男性たちが私より早くお風呂からあがることはありません。
和やかでにこやかなこの雰囲気とはいえ、きっと心の中では・・・
お湯から出るときの私の全裸姿を、もういちど『しっかり見てから』帰ろうと思っているにちがいありませんでした。
たぶん、きっと、そう・・・たぶん・・・
(馬鹿・・・)
(おじさんたちのえっち・・・)
「Voc槌 n槌o acha que as fontes termais s槌o as melhores?」
私は、はるか彼方の稜線を眺めながら、けなげに微笑みを浮かべてみせています。
もう怖くなんかありませんでした。
この天然のお風呂を、心ゆくまで楽しむまでです。
まさに『冬』という季節そのものに身を委ねているかのような、非日常の感動を覚えていました。
それに・・・
(ああ、私)
(来てよかった・・・)
私との混浴を、おじさんたちが喜んでくれているのがわかるのです。
本来だったら縁もゆかりもない男の人たちでした。
極端な話、街中や駅でたまたますれ違うような赤の他人となんら変わりありません。
それがこの大自然の野湯で・・・
あたりまえのように、いっしょにお湯につかっているという奇跡・・・
(よかったね、メガネのおじさん)
私はいま、トレッキングで偶然この場を訪ねて来た外国人滞在者を装っています。
でも、本当の正体は普通の会社員の『私』でした。
(このあいだ、私)
(ちょっとテレビにも出たんだよ)
この人たちに認識するすべはありません。
自分たちが、実はいま□□□の△△に勤めているOLと混浴しているだなんて。
もちろん名刺を出して名乗るわけにはいかないけど・・・
(本当はね)
(△△で広報をしている女なんだよ)
この可憐な『彼女』を見事に演じている自分自身に拍手してあげたい気持ちでした。
私みたいな何の取り柄もない真面目人間でも・・・
こうしていま、人の役に立てているんだという実感があります。
(華を添えてあげられたかな)
(あなたたちの旅の思い出に)
どれぐらいのあいだ、お湯につかっていたでしょうか。
すぐそこに男の人がいるのに気持ちよくリラックスできている自分がいます。
(うわあ、すごい・・・)
(あんなに空の高いところで、鳶が輪をかいてる)
「hoooo・・・」
「Valeu a pena vi」
ヒョロヒョロさんと目が合いました。
健気な女になりきって、にこっと微笑み返してあげます。
私をみつめて、
「顔、小っちゃ」
ぼそっとつぶやいていました。
その短いたった一言に、またも心地よく自尊心をくすぐられる自分がいます。
(もっと言って)
(私のこと、もっと褒めて)
彼が、メガネさんにぼそぼそ囁いていました。
小声ですが、その会話の内容は私にもぜんぶ聞こえてしまっていて・・・
え、
(なんで)
・・・冗談でしょ?
「(ぼそぼそぼそ)・・・」
「おまえが(ぼそぼそぼそ)・・・」
(なんで・・・)
ショックでした。
ふたりの本音が耳に入ってきてしまいます。
私は、のんびりと贅沢な時間を彼らと3人で共有しているつもりだったのに・・・
この人たちにとっては、そうじゃなかったんだと知りました。
おじさんたちは、ただただ目の前にいるこの女のはだかを早くまた見たいと思っていただけ。
いつまでもお湯からあがらない私にずっと業を煮やしていたのです。
「俺が服を(ぼそぼそぼそ)・・・」
「(ぼそぼそぼそ)・・・」
「もちろんすぐに返す(ぼそぼそぼそ)・・・」
(そんな、ひどい。。。)
まる聞こえでした。
おじさんたちが私を騙そうとしています。
とは言っても、ちょっと驚かせようとしてきているだけのようでした。
内心ほっとしつつも・・・
気持ちとしては、なんだか完全に裏切られたような気分です。
(なんだよ)
(せっかく友だちになれそうだったのに)
同時に、耳が『かーーっ』と熱くなっていました。
まもなく訪れるであろうその瞬間を想像してしまって自虐的な気持ちがわきあがります。
私は悪くありませんでした。
あくまでも、何の非もない立場です。
頭ではわかりはじめているのですが、まだぜんぜん現実感がありませんでした。
だいじょうぶ・・・
(そういうフリをされるだけ)
(本当に服を持ち逃げされるわけじゃない)
彼らが根っからの悪人でないことは、ちゃんと見抜いています。
だいじょうぶ、
(ちょっとからかわれるだけ)
そうわかっていても、胃がきゅうっとなりました。
(いやだ、いやだよおじさん)
(意地悪しないで)
ふたりが、
「ざばっ、ざぼっ・・・」
揃ってお湯から立ちあがっています。
「Voc槌 est槌 indo para casa?」
湯だまりから出たヒョロヒョロさんが、振り返りながら笑顔を投げかけてきました。
ふたりともからだをさするようにしながら、
「さっぶー!!」
自分たちの手荷物のところに歩いていきます。
「さぶ、さぶ、さぶ・・・」
「やっべえ、さぶー!!」
私はお湯の中から、そんな彼らの様子を見ていました。
メガネさんの、
(うわあ)
毛むくじゃらの汚いお尻・・・
寒そうに背中を丸めてタオルでからだを拭いています。
「さっぶー、さぶすぎマジで」
(いやだよ、私)
(ほんとうに恥ずかしいよ)
ヒョロヒョロさんのお〇んちんがまる見えでした。
そんなもの見たくなくて思わず目線をそらします。
「さみーーっ!!」
(どきどきどきどき)
(どきどきどきどき)
ふたりともすごいスピードで服を着ていました。
こっちをチラチラ見ながら、それぞれ各自の大型ザックを背負っています。
(ひいん、やばい)
(来る・・・)
何が起ころうとしているのか、私は理解していました。
このあと『この子』の服を持ち逃げするふりをしてくるはずのおじさんたち・・・
あまりの急展開に、正直まだ気持ちの準備がまったく追いついていません。
(やめてやめて)
(私が何したっていうの)
メガネさんがこっちを見ました。
ヒョロヒョロさんも私を見て、にこっと笑いかけてきます。
ふたりの笑顔に、
(ひいん、意地悪・・・)
顔全体が、ますます『かーーっ』と熱くなりました。
何もわかっていないふりをします。
照れたように微笑みを返してみせる『素直な』この子・・・
(あなたたちの職場に)
(この子よりキレイな社員いる?)
メガネさんが、その『彼女』のザックにすたすたと歩み寄っていきました。
重ねてあった私の服を平然と抱えて、
「ばい、ばーい」
ふたりで立ち去ろうとしています。
(ああん、だめえ)
演技をしていました。
彼らが期待したであろう通りの展開を装ってあげます。
「aguarde um momento?」
「por favor, aguarde!」
慌てた様子で、
「O que est槌 acontecendo!」
ざばっ・・お湯から立ちあがってみせました。
血相を変えて、ざばっざばっ、湯だまりの中から飛び出します。
真っ裸でした。
「No no no・・・No! !」
まさに迫真の演技です。
彼らのもとに駆け寄って、メガネさんの行く手を遮るように立ちはだかりました。
男たちの前で正真正銘すっぽんぽんです。
(きゃああああ)
(イヤぁあーー)
ふたりの眼差しが容赦ありませんでした。
両手で股間を隠すように押さえながら・・・
(おにー、鬼ーーーっ)
パニック顔で、
「No!・・・No!」
返してくれと訴えかけます。
(恥ずかしいよ、恥ずかしい)
(ひいいいん)
興奮して脳みそがとろけそうでした。
狂おしいほど恥ずかしすぎて頭に血が昇ってしまっているのが自分でもわかります。
股間を両手で押さえているぶん、胸は完全にまる出しでした。
K藤さん、N村さん、
(S木さんも)
彼らは決して目にすることのできないこの子のおっぱい・・・
こんなおやじたちに見られまくりです。
「Por favor, devolva!」
(ひいん、意地悪・・・)
(はやく返して)
泣きそうな顔で、地団駄を踏んでみせました。
肩を揺するようにイヤイヤをすると・・・
私のような小さい胸でも、その膨らみを誇示するかのようにふるふる揺れ動きます。
(見ないでえー)
(死ぬ・・・死ぬ・・・)
すっと服を差し出されました。
メガネさんが、
「イッツジョーク、ジョークだよ」
白々しく笑顔を向けてきます。
(知ってるよ)
(エロおやじ)
もう限界でした。
からだが凍えて手先がかじかんでしまっています。
引ったくるように奪い返していました。
急いで自分のザックのもとへと踵を返しますが・・・
同時に、
(エロおやじ・・・)
自虐的な気持ちが燃え上がります。
頭の中が『かーっ』と真っ白になりました。
(ひいいん)
標準よりもかなり細身体型の私は、からだがむちむちしているわけではありません。
上体を屈ませたら後ろ姿がどうなってしまうのかわかっています。
(だめえ、絶対だめ)
手足の感覚がなくなりそうです。
寝かせたザックの上に、腕に抱えた自分の服を『ばさっ』と置きました。
その置き方が(わざと)雑だったので・・・
服の山が崩れて、
『ぼろっ』
そのままバラけ落ちてしまいます。
拾い上げようと、無造作に前かがみになっていました。
(だめえ、だめえ)
(私なのに)
そう、こんなに可愛い子なのに。
肉厚のない小さくて貧相な尻が、あわれにも開き切っていました。
気の毒なぐらい肛門がまる見えです。
わずか4~5メートル後方には、おじさんたち・・・
旅の記念に見せてあげました。
前かがみになったお尻からのぞく、彼女の淑やかな『股間の割れ目』を。
(あああああ)
ただ、それも時間にすればほんの数秒のことにすぎません。
お尻の穴をまる見えにしたままシャツやパンツを拾ってザックの上に重ねます。
(嫌ああああ)
次の瞬間には、
「ざぶっ!」
湯だまりの中に飛び込んでいました。
冷え切った肌の表面に、ぬるいはずのお湯のぬくもりが痛いぐらいです。
肩まで湯中に沈めたまま、怯えた顔でふたりを見上げます。
「ソーリー、ソーリー、イッツジョーク」
「そんな目しないでよ」
(どきどきどきどき)
本当は、内心で興奮しまくっていました。
ああん、
(私、かわいそう)
こんなおやじたちなんかに見られた・・・死にたい・・・
(どきどきどきどき)
さすがに気まずそうな顔で・・・
何度もこっちを振り返りながら、おじさんたちが立ち去っていきます。
(ばか・・ばか・・・)
(さよなら、おじさん)
お湯の中から、その後ろ姿が消えていくのを最後まで見届けていました。
首までお湯につかったまま、とにかくからだを温めます。
(寂しい)
とてつもない孤独を感じていました。
人里離れた野湯を独り占め・・・という感動はありません。
自分の背丈ほどもあるススキの壁が、風に吹かれて黄金色に波打っています。
せつなくて涙が出そうでした。
(どうせ私なんか)
こみ上げる寂しさの感情を抑えられません。
もうだめだ・・・
人恋しくてなりませんでした。
このままここにいようものなら、私は泣き出してしまうかもしれません。
ひとりぼっちを噛みしめながらぽろぽろ涙する『私』でした。
(PS)
長文にお付き合いいただいてありがとうございました。
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