ハイキング気分で、どんどん山道を歩いていきます。
次の温泉を目指していました。
(どっちにしよう)
自分の中で、候補地が2つあります。
どちらに行こうか、まだ迷っていました。
でも・・・
さっきの興奮の余韻で、内心のテンションは完全にマックスです。
(よし)
(決めた)
候補にしていたうちのひとつを、2つ目の温泉に決めました。
(暑っつい)
空気はひんやりしているのに・・・
歩きながら、だんだんと汗ばんできてしまっています。
さっきのおじさまたち・・・
(よかったね)
(いいもの見えたでしょ?)
思い出すだけで、恥ずかしさがこみあげていました。
次の温泉にも混浴があることは下調べ済みです。
(どきどきどき)
しかも事前情報によると・・・
今度のところのは、けっこうハードルが高い・・・
プレッシャーがのしかかっていました。
でも、さっきの混浴露天のおかげで舞い上がるぐらい気持ちに勢いがついています。
(どきどきどき)
到着しました。
幸か不幸か、人は少なそうです。
受付棟で料金を払って、簡単に説明を受けました。
外に出て・・・
ここで最終的な決断をしなければなりません。
混浴風呂の建物に行くなら、出て左へ・・・
男女別風呂の建物に行くなら、出て右へ・・・
さっきのところのように、普通の女湯からの延長線で混浴に行けるわけではありませんでした。
(せっかく来たんだ)
(行くしかない)
躊躇しながらも混浴のほうへと、砂利道を歩いていきます。
私にとって、第一のハードルでした。
傍から見れば、この時点で・・・
私は、あえて『わざわざ』混浴のほうのお風呂を選択した女ということになってしまいます。
(いやあ)
(どうしよう)
誰も同じ方向に歩いて来ていませんでした。
男女別温泉のほうへと行く人が圧倒的に多数派だということです。
(でも、でも・・・)
(だいじょうぶ)
ここも、わりと名の通った温泉でした。
混浴の温泉棟のことも、女性向けに雑誌で紹介されているのを見たことがあります。
(どきどきどき)
木造の建物でした。
開きっぱなしの入口から、中に入ります。
(いやあ)
(すごい)
左側に、男女別になった脱衣室の入口がそれぞれ並んでいます。
右側は、狭い壁の向こうに内湯・・・
人の気配がありました。
真正面に突き抜ける方向には、露天風呂への出口がそのまま見えています。
(どきどきどき)
女性用脱衣室に滑り込みました。
緊張して、心臓が破裂しそうです。
(どきどきどき)
ものすごいプレッシャーを覚えていました。
だって・・・
ここの温泉は、さっきのところとはルールが違うからです。
お湯に入るときには、ここではからだに巻いたタオルをとらなければなりませんでした。
それは女の私にとって、とてつもなく高い『第二のハードル』です。
(いま確かにいた)
(内湯に男の人の気配があった)
胸をばくばくさせながら服を脱いでいきます。
狭い脱衣室でした。
全裸になります。
薄っぺらいバスタオルをからだに巻いて、胸からお尻までを隠しました。
(私は悪くない)
(そういうルールのお風呂なんだから)
(ここではあたりまえのこと)
やはり私は、気の弱い人間です。
後ろめたいことをしているわけではないのに、足がすくみました。
(よし)
(行くぞ)
勇気をふりしぼります。
脱衣室から出ました。
そのまま真っ直ぐ、狭い壁の横から混浴内湯へ・・・
(きゃっ)
湯船に親子がいました。
私と同世代に見えるパパさんと、小学生ぐらいの娘さんです。
私もですが・・・
そのパパさんも、私を見て『どっきり』しているようでした。
思わず、
(ひいん)
湯船の横をそのまま通り過ぎてしまいます。
隣に、横だけが仕切られた洗い場ブース(?)がありました。
ちょこんと腰かけて身を隠します。
(どきどきどき)
必死に気持ちを落ち着かせました。
バスタオルをからだに巻いたまま、呼吸を整えます。
(だいじょうぶ)
(落ち着いて)
人がほとんどいないのは、幸いでした。
もし、狭い内湯に男性がごった返しているような状況だったら・・・
私にはとても無理だったところです。
大丈夫・・・
(やましいことはない)
(私は、ただお風呂にはいるだけ)
あとは自分の勇気ひとつでした。
自分の娘といっしょにいる男性が、不審なことをするはずがありません。
(だいじょうぶ)
(ここはそういうお風呂)
覚悟を決めて、
(どきどきどき)
湯船のあるほうに戻ります。
そこは、まるで時間が止まったかのようなレトロなつくりの空間でした。
パパさんと目が合います。
(どきどきどき)
下手に演技はしませんでした。
素でどぎまぎしながら、お互いになんとなく目礼します。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
背を向けました。
からだからバスタオルを取って、手すりのようなところにかけます。
すっぽんぽんのまま、
(ひゃあああ)
振り向きました。
片腕で胸を、もう片方の手で股をおさえながら湯船のふちをまたぎます。
「ざぶ」
肩までお湯につかりました。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
緊張しすぎて死にそうです。
まともに相手を見ることができませんでした。
恥じらいの顔を隠せずに、
(どきどきどきどき)
お互い無言のまま、静かに時間が流れていきます。
(どきどきどき)
パパさんも若干緊張しているようでした。
見ず知らずの『美人』(自分で言ってごめんなさい)と、いっしょにお風呂に入っているのです。
この人の奥さんは、きっと男女別の女湯に行っているのだろうと思いました。
自分の娘の手前、何食わぬ顔を装っているようですが・・・
明らかに私のことをチラ見しながら、目線が泳いでいます。
(どきどきどき)
乳白色のお湯でした。
こうして肩までつかっていれば、からだは見えません。
光の加減なのか、青みがかるように光って見える美しいお湯でした。
古い木造の建物と相まって、秘湯温泉の風情を感じさせます。
でも、内心それどころではありませんでした。
(恥ずかしいよ)
さらに脱衣室側から別の男性の話し声が聞こえてきて、どきっとします。
でも、彼らはそのまま露天のほうに出ていったようでした。
悪いことをしているわけではないのに、このハラハラ感・・・
(どきどきどき)
やがて、
「パパ、もう私あがる」
娘さんがお湯から出て、ひとりで脱衣室のほうへ行こうとしています。
パパさんは・・・
お湯から出ようとしませんでした。
「○○ちゃん」
「転ばないようにね」
私とパパさんのふたりっきりになってしまいます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
会話はありませんでした。
いっしょの湯船にいながら、
「・・・・・・」
お互いに、しゃべる言葉がみつからないのです。
恥ずかしさと気まずさに支配されて、私はもうギブアップ寸前でした。
(出るに出られない)
私の恥じらいの気持ちは、間違いなく相手に伝わってしまっています。
パパさんに非はありませんでした。
男女別のお風呂もある中で・・・
あえてこちらの混浴のほうに入りに来たのは私自身なのですから。
(いやあん)
(もう出る)
「ざば」
お湯の中から立ち上がりました。
胸もアンダーヘアも、一瞬まる見えになります。
パパさんの目線が、上、下、上、下・・・
私のヌードを瞬時に瞼に焼きつけようとする動きをしていました。
(ひいいん)
(恥ずかしい)
くるっと後ろ向きになって・・・
お尻まる出しのまま、内股気味に湯船のふちをまたぎます。
(ああん、今)
(ぜったい見えちゃった)
恥ずかしすぎて振り向けませんでした。
そのままその場で、バスタオルを手早くからだに巻きます。
(ばくばくばくばくばく)
もういちどパパさんと目が合いました。
軽く会釈して、
(恥ずかしいよ)
おそらく、顔が真っ赤になっていたはずの私・・・
じっと固まったようになっている相手の表情を、私のほうも自分の記憶に焼きつけます。
(恥ずかしい・・・恥ずかしいよ・・・)
おずおずと露天に向かう私でした。
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