諦めました。
虚しい一泊旅行の終わりです。
レンタカーのハンドルを握って、帰途につきます。
心の中が空っぽでした。
しばらく走ったところで、ロッジ風のドライブインが見えてきます。
なんとなく、
(コーヒーでも飲んでいこう)
そんな気分でした。
長時間のドライブを前にして、頭をしゃっきりさせておきたかったのかもしれません。
車を停めました。
入店した私は、窓際のカウンター席を選んでコーヒーを注文します。
窓ガラスの向こうに、荒涼とした冬の森が広がっていました。
(なにやってんだ)
(いったい私は)
せっかくの週末を無駄に費やしてしまったことの虚無感・・・
こんなことでいいんだろうか・・・
自分という人間の存在に、なんの意味があるんだろう・・・
昔からの友人のほとんどは幸せな結婚を果たして、それぞれ素敵な家庭を築いています。
その多くは子どもも得て、みんな絵にかいたような幸せをつかんでいるのに・・・
とりとめもなく自分の人生について考えてしまっていました。
子どものころから周りの期待に応えようと一生懸命頑張ってきたつもりです。
大人になってからだって・・・
私は、
(いつも真面目にやってきた)
でも、今の自分にはたして何が残っているのだろうかと考えると・・・
何もありませんでした。
結婚の失敗・・・
ひとりぼっちで、先の見えない将来・・・
それでも無職でないだけまだマシです。
昨年の夏に、ようやく再就職を果たした私でした。
無意識に、
(明日はまた会社に行かなきゃ・・・)
ひとりでため息を連発してしまっている自分に気づきます。
けっきょく真面目に日々を送るしかない、つまらない私の生き方・・・
(このコーヒー、美味しいな)
(どうやって淹れてるんだろ)
店員さんが、ちょうどお代わりを注ぎに来てくれました。
お礼を言って、カップを差し出します。
2杯目を味わいながら、
(こういう景色も嫌いじゃないな)
のんびりと窓の外の風景を眺めていました。
寒々しい幹色をした原生林(?)が、広大な森を形成しています。
その1本1本が、必死で冬の冷気に耐えているかのように私の目には映って見えました。
もし写真撮影するなら、
(あっちの角度からがいいかな)
なんとなく構図を考えて、頭の中に空間を組み立ててみたりしてみます。
興味がわいてきました。
華やかな風景もいいけれど、こういう寂しい景色を撮るのもいいのかもな・・・
(景色っていうのは)
(あるがままなのがいいんだよな)
コーヒーの香りに、つかのまの幸せを感じます。
(空っぽだなあ)
(私の毎日って)
意識の中で、何かが『すとん』と収まった気がしました。
残りのひとくちを飲み干します。
会計をして、店を出ました。
バッグの中から、レンタカーのキーを取り出します。
(帰ってたまるか)
フラットな気持ちでした。
この感覚を文章で説明するのは難しいのですが・・・
主観ではなく、客観で物事を考えることのできる冷静な思考モード(?)に切り替わっています。
(行こう)
車に乗りこみました。
エンジンをかけて、のろのろとスタートします。
そしてハンドルを切りました。
ここまでずっと走ってきた、もとの方向へと戻る側に・・・
躊躇いはありません。
これがラストのチャンスでした。
再び、あの温泉町へと戻っていきます。
明日のいまごろは・・・
きっと会社で慌ただしく仕事に追われているはずの『私』でした。
でも、
(それは明日のこと)
今日じゃない・・・
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