時間が経つのを待っていました。
夕食を終えて、なおもしばらく・・・
(そろそろだな)
たしか・・・
これぐらいの時間帯だったはず・・・
お風呂道具一式を詰めた袋を持って、宿の玄関を出ます。
1本道をたどっていました。
そう・・・まさに、万感の期待を込めて。
凍てつくような寒風に、ダウンのジップを首まで上げています。
ようやく見えてきました。
昼間も来たあの建物が。
同じ建物でも、夜の暗さのせいでまったく違う景色のように感じます。
明かりはついていませんでした。
あのときと同じです。
私の狙いどおりなら・・・
(そのうち、管理の人が掃除に現れるはず)
前回と同じ人であってくれと願いました。
そうならば、
『また、来ちゃいました』
そのひとことで、すべて済ませられるはず・・・
建物の入口に踏み入ります。
左手の戸を・・・
なのに、
『ガッ・・・ガッ』
そこには、もう鍵がかかっていました。
(だめか。。。)
もう掃除は終わってしまったのでしょう。
もしかしたら、前回とは違う人が担当(?)だったのかもしれません。
ノーチャンスでした。
虚しさにつつまれながら、無人の1本道を戻っていきます。
(だめだな)
前にも後ろにも、人はいませんでした。
温泉町のはずれを、ひとりぼっちで歩いている『私』です。
左右の頬を伝い落ちる涙・・・
拭きませんでした。
たとえ泣き顔がみっともなかったとしても、どうせ私以外には誰もいないのだから。
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