野原のような駐車スペースに車をとめました。
ここからは、徒歩でいかなければなりません。
そう、私は・・・朝いちばんで訪ねた野湯に戻ってきていました。
お年寄り3人組の前で大恥をかいた、あの野天温泉です。
(着いた)
来たのは今朝だったのに・・・
不思議な感覚がしました。
なんだかあれが大昔のことのように思えてしまいます。
(けっきょくお昼も食べてない)
(なにやってんだ、私・・・)
秋の空が微妙に傾きかけていました。
山中ですから、もし日が暮れたら真っ暗闇になってしまうはずです。
時間的には、まだ大丈夫ですが・・・
照明灯のようなものは一切ありませんでした。
(オナニーしたい)
(誰もいない場所で)
ちょっとだけ気持ちが焦りますが、まだ15時をまわったばかりです。
野湯まで片道20分ぐらい・・・
この感じだと、現地にいられるのは1時間ぐらいが限界でしょうか。
(行こう)
私の車以外に、オフロードタイプのバイクが1台とまっていました。
先客がいる可能性が高いということです。
でも、もっと人がいてもおかしくないと思って覚悟してきていたところもありますので・・・
ちょっと肩透かし感があるというのも正直なところでした。
ラッキーといえばラッキーです。
(どきどきどき)
今朝ここに来たことによる既視感だけで、すでにどきどきしていました。
はやる気持ちを抑えつけて荷物を準備します。
(落ち着け・・・慌てる必要ない・・・)
貴重品やスマホは持っていかずにダッシュボードの中にしまいました。
後部座席のボストンバッグから服を一式取り出します。
過去の苦い経験から得た知恵でした。
予備としてエコバッグにつめたうえで、それをザックの中に入れます。
車から出て、キーはある場所に隠しました。
そして、出発します。
(どきどきどき)
バイクが1台・・・
ということは、たぶん男性が1人・・・
(このままだと)
(おそらくお風呂でいっしょになる)
だったら、朝のときみたいに・・・
のぼせたふりをする作戦で・・・
あの興奮をもういちど?
(あんなの恥ずかしすぎて)
泣いちゃう・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
でも、その目論見は外れました。
歩いて15分ぐらい経ったころでしょうか。
向こうのほうからこっちに歩いてくる人の姿が見えてきました。
(あの人か)
(そっか、もう帰るとこか)
きっとあのバイクの人でしょう。
それならそれで、私はこれからあの野湯を独り占めできるということでした。
むしろそのほうを望んでいた私です。
今度こそ、
(秋空の下、大の字になって)
心の赴くままに思いっきりオナニーしてやる・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
まもなくすれ違うことになる相手との距離が縮まってきます。
肥満気味の太った男性でした。
手には、ヘルメットを持っています。
山の中で女ひとりの私でした。
隙があると思われたくないので、きりっとした顔つきをつくります。
(どきどきどき)
わかりやすい人でした。
女の私が現れたのを目にして、まさかという表情になっています。
(どきどきどき)
まだ20代半ばでしょうか。
思いのほか真面目そうな感じで、
(だけど)
それ以上になんだかちょっと根暗そうな印象の人でした。
近づいてくる私の顔を、ものすごく見ています。
(なんか・・・もしかして・・・)
(この感じなら・・・)
思わず、
「あの、すみません」
すれ違いざまに声をかけてしまっていました。
「この先に野天の温泉があるはずなんですけど」
「この道で合ってるんでしょうか?」
吸い込まれるように私の顔を直視しながら、
「え・・・あ、そうですよ」
相手が足をとめてくれます。
まだ髪が乾いていませんでした。
あの温泉に入ってきたばかりなのは間違いありません。
(どきどきどき)
笑顔で、ああよかったとつぶやいてみせました。
「どこにもなんにも書いてないから」
「歩いていて心配になってきてたんです」
うまく説明することはできませんが、
(どきどきどき)
この一瞬のやりとりだけで、相手の性格を完璧に見抜いていた私です。
様子からして、間違いなく人見知りするタイプの人でした。
もういい大人なのに、こうして単独の女に話しかけられただけで・・・
すでに私と目を合わせられずにいます。
(なんか・・・)
(この感じなら)
相手の髪が濡れているのを見て、
「いま入ってこられたんですか?」
なおもにこやかに話かける容姿端麗な『彼女』・・・
理知的で、いかにも聡明そうな雰囲気の女性を演じていました。
「ここから近いですか?」
問いかけに頷いている彼の心理を読み取りながら、さりげなく誘導していきます。
(あんまり女慣れしてないよね?)
(そんなに人見知りなの?)
私も、本質的には同じようなタイプの人間です。
だから、きっと内心どぎまぎしているこの男性のぎこちなさをすごく理解できました。
実際には私自身も紙一重なのですが・・・
今の私は、わきあがる高揚感に衝き動かされています。
(どきどきどき)
このときには、もうイメージができていました。
私は、悪い人間です。
何の非もないこの『根暗くん』を自分のために利用しようとしていました。
女に対して明らかに奥手そうな、この若い男性・・・
なんとかうまく惑わせて、私のお風呂を覗かせるように持っていくのです。
もしかして、
(私、緊張させちゃってる?)
ごめんね・・・
「あのー、今って」
「誰か入っている人いました?」
「え、あ、いえ」
「僕が出てきたときには誰も」
「えっ、本当に?」
「よかった!私・・・」
ぱあっと明るい笑顔になってみせました。
「もし誰かいたら」
「やっぱり諦めようと思ってたんです」
これから行こうとしているこのお姉さんは、まだ知らないようでした。
たとえ混浴にならずとも・・・
そもそも脱衣場はもちろん、囲いすらもない自然の野湯です。
場合によっては簡単に覗けてしまいそうでした。
しかも礼儀正しいだけでなく、思わず目を引くような美貌の持ち主です。
シンプルなチノパンにシャツ姿の、
(ほら、ほらこんなに)
凛とした美人・・・
「よかったー」
「行ってみます」
相手の心のうちの葛藤が手に取るようにわかりました。
会話の流れを考えれば、どうせ自分がいっしょに混浴できるチャンスはないと悟ったはずです。
でも、だったらせめて・・・
(こっそり覗いちゃえば?)
そうすれば、
(誰にも知られずに)
この人のはだかが見れちゃうかもよ?
目の前にいるお姉さんは、普段ならすごくガードの固そうな感じの女性です。
(こんなの人のおっぱい見れたら)
(大興奮でしょ?)
「このまま、まっすぐ行けばいいんですよね?」
「すぐわかる感じですか?」
(ほら、あなたに聞いてくれてるよ)
(チャンスだよ)
「あ、あーじゃあ、すぐだし」
「ご、ご案内しますよ」
(よーし、かかった)
それは申し訳ないからと固辞するふりをしました。
それでも、
「いえ、ぜんぜん」
すでにどこか夢見心地な感じの顏で、瞳がうるんでいる男の人・・・
そんな彼を利用しようとすることに、私だって多少は罪悪感がないわけではありません。
(ごめんね、ごめん)
(私、悪い人間だ)
それでも、その親切に甘えさせてもらうふりをしていました。
ふたりでいっしょに歩いていきます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
私も今朝いちど来たから知っていました。
ここからなら、もうあと5分も歩けば目的地に着くことを。
絶対に覗きたいという気持ちにさせるのなら、その5分の間の会話が勝負でした。
「ひ、ひとりで温泉旅ってすごいですねー」
「よく来るんですか?」
「あなただってー」
「ひとりでいらしてるじゃないですか」
やはり、あまり女性に免疫がないのでしょうか。
こんなふうに書いて申し訳ないけれど、どうしても根暗な印象が拭えない彼でした。
本当のことを言う必要などありません。
嘘をついていました。
「もうすぐ29の誕生日だからその記念に」
「思い切って来てみちゃいました」
自分の職業を尋ねさせるコツは、こちらから相手の職業を尋ねることです。
仕事について聞いてみると、
「〇〇とか、〇〇の設計をしています」
彼は24歳の会社員とのことでした。
身長は私と同じぐらいで太り気味、顔はまあ・・・あまりカッコよくはありません。
会話の流れで、私も仕事を尋ね返されました。
「えー、ないしょ」
言いたくなさそうに『わざと』もったいぶります。
そうすれば、
「えっ、教えてくださいよ」
本当に知りたいという気持ちになるのが人の感情というものでした。
面白いように自分の思い通りの展開になっていきます。
「えー、困ったな」
「どうしよう」
「え、なんなんですか」
「なんで言えないんですか」
嘘に嘘を重ねていました。
ちょっと口ごもるような感じで、
「絶対にないしょだよ」
最後まで教えるのを躊躇うふりをします。
かつて自分の実家があった地域の、ローカルテレビ局の名前を出していました。
実は『〇〇放送のアナウンサー』だと偽ります。
昔から、一度ついてみたかった嘘でした。
「地方の放送局だけど」
「天気とか地域の情報コーナーとかやってるんです」
おとなしそうな『根暗くん』の目が見開いています。
素直な人でした。
そう聞いて舞い上がっているのがわかります。
「えっ、えっ・・・」
「お名前は」
「えー、いいよ、言いたくない」
「ないしょ」
まったく疑うことなく信じてくれているのがわかりました。
読んでくださっている方は、本当かよとお思いになるかもしれませんが・・・
私は、実際のやりとりをここに書いています。
「露天風呂はいろいろリスクがあるから」
「本当は行くのを禁止されてるの」
「だから、〇〇〇〇の人が来てたとかって」
「誰にも言わないでくださいね」
幾重にも念押ししていました。
打ち明けたということは、あなたの口の堅さを信用しているってことだよ・・・
根暗くんに、そんな優越感を味わわせてあげます。
「正直に言ったんですから」
「約束ですよー」
そして、
「あっ、あれですか?」
野湯のほうへ分け入る、ひらけた川の場所が見えてきました。
一瞬、歯がゆさがよぎります。
本当は、万一のリスクに備えてこの辺りに予備の服の包みを隠しておきたいところでした。
でも状況的にそのタイミングはありません。
(だいじょうぶ、この人なら)
(必要になるとは思えない)
「よかったー、着いたー」
「ご親切にありがとうございました」
「いえ・・・そんな・・・」
根暗くんの鼻の下が伸びまくっていました。
私の胸の膨らみをシャツごしに見据えるかのような、
(やだっ)
鋭い目線・・・
「お仕事、頑張ってください」
差し出された手を、生真面目に両手で握手してあげました。
彼の興奮具合を推し量りながら、
「ありがとうございます」
その手をぎゅっとしてあげます。
そしてお別れしました。
(どきどきどき)
ひとりで帰っていく彼の背中を見送ります。
私の演じる『この女』は、彼に対して特別な感情を持っているわけではありません。
旅先でたまたま言葉をかわした人のひとり・・・
すぐに忘れてしまう存在です。
(どきどきどき)
野湯のところにいきました。
無人の湯だまりに、落ち葉が数枚浮いています。
(誰もいない)
(やばい・・・完璧・・・)
ザックをおろしました。
貸し切り状態です。
でも、まだ服を脱ぎませんでした。
棒立ちになったまま、遠くひらけた景色を眺めているふりを続けます。
(どきどきどき)
100%の確信がありました。
これだけのお膳立てをしてみせたのです。
(来る・・・)
(必ず覗きに来る)
この場所自体は、小さな川沿いのひらけたところにありました。
でも背後の山道側は地形が入り組んでいます。
目星はついていました。
覗かれるとすれば、きっとあの辺り・・・
□□□がせり出している箇所のところからに違いありません。
(どきどきどき)
やばい・・・やばい、心臓が・・こんなに・・・
と思う間もなく、
(ああっ)
まさにその□□□のところにすっと人の頭が見え隠れしていました。
(ひいいいい)
ここから15メートルぐらい距離があるでしょうか。
体感的にはすぐそこという感じです。
(嫌ああ、変態。。。)
(覗きがいる)
背筋がぞくぞくっとしました。
ほんの2分前までいっしょに会話していた男性なのに・・・
24歳の若いあの子が、
(あああ、やめて)
いまは、私のお風呂を覗こうとする姑息な男としてそこに潜んでいます。
(あああ、やばい・・・)
(これはやばい・・・)
ひざが震えそうになりながらも、まったく気づいていないふりをしていました。
状況的には、完璧すぎるほど完璧です。
(服を・・・)
(シャツを脱がなきゃ)
胃がきりきりしました。
男の人の前ではだかになるなんて恥ずかしくて嫌です。
やっぱり無理、
(さっきのあの子が見てるのに)
いっしょにお話ししながら歩いてきたのに・・・
(脱がなきゃ)
(もう脱がなきゃ)
ものすごく興奮しました。
耳までかーっと熱くなりながらも、自然な感じで演技をはじめます。
(あなたの前でなんて)
(脱げないよ)
景色を眺めているふりしたままスニーカーとソックスを脱ぎました。
根っから真面目そうな彼女は・・・
野外で服を脱ぐことに警戒心でいっぱいになっている表情です。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
しつこいぐらいに周囲を見渡すふりをしてみせました。
誰もいないことを何度も確認してから、シャツの前ボタンを外していきます。
足もとに脱ぎ置きながら、ひざががくがくになりそうでした。
だって、
(だってあそこにいる)
さっきのあの子がじっと見てる・・・
チノパンも下ろして、すでにブラとパンツだけの下着姿になってしまっています。
(これ以上脱げないよ・・・)
(もう許して・・・許して・・・)
本当に脱げませんでした。
たくさんしゃべったばかりの相手ということもあって、
(無理・・・むり・・・)
自尊心を掻きむしられるような思いです。
でも・・・それが快感でした。
一瞬にして意識が客観化するような独特の感覚に陥ります。
頭の中が真っ白になりました。
(ああん、私)
(女子アナって嘘ついた)
ものすごく警戒しているような素振りをしながらブラを外します。
きっと目を皿のようにして見ているはずでした。
地方とはいえ、局アナの彼女・・・
ブラも足もとに置いています。
シャツの中に潜んでいた彼女の胸は、こんなに慎ましいおっぱいでした。
絶対に見ることなどできないはずの女子アナの胸です。
(恥ずかしいよ)
(見ちゃイヤあー)
身につけているのはパンツだけでした。
ふと・・・『妄想』がよぎります。
その瞬間によこしまなことを計算している私は、やっぱり悪い人間でした。
でも、私が演じているこの彼女自身は何も悪くありません。
(どきどきどき)
足もとに脱ぎ置いた服を、すべてひとまとめに抱えました。
そして、
(あああん)
そのまま、まっすぐ根暗くんのところに歩いていきます。
そのこと自体は不自然ではありませんでした。
服の置き場にちょうどいい感じの、平たい岩があったからです。
彼のいる□□□から目と鼻の先の場所でした。
その平らな岩に、服を置きます。
(あああ、見ないでえ)
すぐそこの□□□の間に、根暗くんの顔があるのがわかりました。
そのことに気づいていないお姉さんは、顔色ひとつ変えません。
おっぱいまる出しのままでした。
(いやあ、嫌ああ・・・もう許して)
胸どころか・・・
その場でさらに、
『するっ』
パンツも下ろします。
人見知りの根暗くんが目にしているのは、紛うことなき現実の光景でした。
凛とした美貌のアナウンサー・・・
その彼女が自分のすぐ目の前で一糸まとわぬ姿です。
すらっとした細身のからだでした。
(あああああ・・・ひざが震える)
(立ってられない)
脱いだばかりのパンツもその岩の上に置きます。
(いやんいやん)
(はやく・・・早くお湯に入らせて)
湯だまりのほうに歩いていきました。
おそるおそる足先から入る感じで、
「ちゃぽっ」
お湯の中に腰を下します。
「ふうー」
(ひいいん、耐えられない)
(帰りたい)
一部始終を見られています。
恥ずかしすぎて死にそうでした。
でも同時に、
(あああ、最高・・・)
ものすごく幸せを感じている自分もいます。
(だって私は)
(何も知らないんだから)
最初の数分は、緊張で顔をこわばらせたままお湯の中にいるふりをしていました。
徐々に慣れてきた感じを出して、
「ふうー」
リラックスした表情になっていきます。
(ねえお願い、今夜)
(私のことを思い出して)
そして、私を想いながらオナニーして・・・
ほら・・・ほら、
(おっぱい見せてあげるから)
お湯から出て、あなたのほうを向いてあげる・・・
「ざばっ」
立ち上がりました。
そのまま後ずさるようにして積石に腰かけます。
全身からふわーっと湯気がたっていました。
(ああ、だめ・・・)
根暗くんだけに許された特別な光景です。
腰かけているだけで、きりっした空気をまとっている美貌の彼女・・・
でも、その胸は残念なぐらいに貧乳でした。
申し訳程度の左右の膨らみに、大人の女の乳首がくっついています。
(見ちゃイヤ・・・)
背徳の興奮に脳みそがとろけそうでした。
何も取繕っていない自然体の表情で、
「ふうー」
遠くの景色を眺めています。
その眼差しには『来てよかった』という充実感が表れているかのようでした。
(おっぱい見ないで)
(見ないでえ)
お湯と外気との温度差で、乳首が痛いほど膨らんでいます。
覗かれているなんて夢にも思わず、
「ふうー」
入浴姿を晒し続けている、かわいそうなお姉さん・・・
(ああ、だめ)
(涙が)
思ったよりも太陽の傾きが早いような気がしました。
けっきょく10分ほどの入浴で、すっかり満足したお姉さんになりきります。
お湯から立ち上がって、
「ざばっ」
積石をまたぎました。
(ひいいん)
服は、10メートル以上向こうの平たい岩の上にあります。
でも、それ以外のナップザックやスニーカーは最初の場所に置いたままでした。
素っ裸でザックのもとに歩み寄ります。
(許して)
(早く着させて)
もちろん、からだを拭くためのタオルを持ってきてありました。
でもそれは出さずに、ザックのフロントポケットから小さなハンカチタオルを出します。
覗き男に見られている、このハラハラの状況で・・・
妄想を膨らませていました。
ショートボブの黒髪を掻き上げて、自然体を装います。
(どきどきどき)
□□□のほうの景色を眺めるふりをして・・・
どこも隠さずに、根暗くんのほうを向いてあげました。
(あああん、恥ずかしい)
(ひいいいいー)
たとえ彼自身は気づいていなくても、あの男の子は私に利用されていたのです。
だから、視線で仕返しさせてあげました。
私が演じているこの『彼女』に、
(嫌あー、イヤああ)
全裸のまま恥をかかせてやります。
(見ないで、意地悪・・・)
(変態、変態・・・)
泣きそうでした。
若い男性のほうを向いて立ったまま、死ぬほど恥ずかしくてなりません。
そんな自分が快感でした。
小さなハンカチサイズのタオルで、
(ああああー)
全身を拭きます。
(ひいいいん)
(許して)
襲いかかってこれるような男性ではないと見抜いていました。
景色に目移りしたかのように、
「ふー」
今度はさりげなく背を向けます。
なかなかパンツをはかせてもらえない自分がかわいそうすぎて、気が狂いそうでした。
(恥ずかしすぎて、息が)
(息が苦しい)
からだを拭きながら、
(ああ、お願い)
根暗くんの『悪い心』に期待している自分がいます。
さっき思い描いた妄想が現実化する可能性はゼロではありませんでした。
ちゃんとあのとき・・・
とっさに計算して、布石は打っておいたのです。
(困らせちゃえよ)
(このお姉さんを)
心の中で根暗くんに問いかけます。
(ねえ、あなたの目と鼻の先にあるのは)
(それはなに?)
すべて計算ずくでした。
いざとなったら、
(だいじょうぶ)
予備の服も、ちゃんとこのザックに入ってる・・・
(あああ、お願い)
(根暗くん)
あとはもう、このお姉さん・・・
平然と帰っちゃうだけだよ・・・
(誰もいないよ)
(あなただってバレないよ)
意地悪しちゃいなよ・・・
あのキレイな女の人に・・・
その気になれば、容易くできるはずでした。
小さなハンカチタオルで、お尻や太ももを拭いている彼女・・・
こちらには背を向けたまま、
(今のうちに、早く)
10メートル以上離れています。
(早く・・・持っていっちゃって・・・)
(あなたにあげるから、お願い・・・)
もはや期待ではなく、懇願の思いでした。
小川のせせらぎが邪魔をして、
(お願い・・・お願い・・・)
背後の気配を感じ取ることはできません。
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
からだを拭き終えたふりをして振り向きました。
脳天までしびれるぐらいに、
(ああ・・・ばか・・・)
興奮している自分がいます。
向こうの岩の上に置いてあったはずの服がなくなっていました。
(ああん・・・どろぼう・・・)
(卑怯者・・・)
このお姉さんはまだそのことに気づいていません。
ザックのところにしゃがんでいました。
化粧水を出して、
「ふー」
手早く顔につけています。
(死ぬ・・・私、死んじゃう・・・)
脳の中にどばどば快感があふれ出ていました。
化粧水の容器をしまって、
『すっ』
立ち上がります。
服のほうに行こうとして・・・
「ぇ・・・」
われながら、迫真の演技でした。
あれ、たしか・・・え・・どこだっけ・・・?
そんな戸惑いの表情で、
「ぇ・・・ぇ・・・」
顔をひきつらせながら平たい岩のほうに駆け寄ります。
(ああ・・・やばい)
(最高。。。)
パニックになってみせました。
根暗くんの姿はありませんが、慌てている私の様子をどこかから見ているに違いありません。
風?・・鳥?・・動物に持っていかれた?
呆然となってみせました。
そして、泣きそうな顔をつくります。
(まだ、まだだ・・・どっかで見てる)
(演技しないと)
いずれにしても、丸々すべて無くなるはずがない・・・
どこかにあるはずだと、
「嫌あん・・・嫌あ・・・」
平たい岩の周囲を必死に探す、素っ裸の彼女・・・
取り乱した様子で叫びます。
「誰か!・・・誰かいるんですか!」
実はそのとき、
(ぁ・・)
ひとかたまりになった服が目に入っていました。
本当は、あの子に持ち去られてしまうことを妄想していたのですが・・・
根暗くんは、そこまではしていなかったのです。
ちゃんとみつけられるように、近くの別の岩のところに隠していただけでした。
だけど、それでもじゅうぶん卑劣なイタズラです。
(ばか・・・ばか・・・)
(私はみつけたくないの)
自虐の極致でした。
すぐそこの岩裏に置かれた自分の服に、気づかなかったふりをしてみせています。
わけがわからず、呆然と立ち尽くすお姉さん・・・
一糸まとわぬ全裸でした。
(続く)
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