車を発進させました。
なかなか動悸がおさまりません。
男性がいるロビーで、確信的にあんな恥ずかしいことをしてみせたのです。
あのバイトくんもそうですが・・・
ソファおじさんの強烈なニヤニヤ顔が脳裏から離れませんでした。
(私なのに・・・この私なのに・・・)
(あんな大胆なことをした)
あああん、嫌あ・・・立ち直れない・・・
ものすごくニヤニヤしてた・・・
記憶をたぐって車を走らせます。
すぐに町が寂れてきて・・・
やがて見えてきた、誰もいない無料駐車場に車を入れました。
午前中にも来た足湯のあの駐車場です。
外に出て助手席側の車のかげにいきました。
通りがかる車がいないタイミングを狙って素早くチノパンを脱ぎます。
ひざ丈のスカートにはきかえました。
荷物を整理して最低限のものだけをトートバッグに入れます。
(ああああ、どきどきする)
(はやく・・・早く・・・)
うずうずとする感情の昂ぶりを自分で抑えられませんでした。
ドアをロックして、キーを隠します。
(今度こそやってやる)
トートを肩にかけました。
寂れた一本道を歩いていきます。
(入ってやる)
(足湯に入ってやる)
午前中の展開が脳裏にフラッシュバックしていました。
さっきみたいに誰かがいるかもしれません。
最後の角を曲がる前に、そっと首を伸ばして様子を窺いました。
(どきどきどき)
誰もいません。
すでに興奮がMAXになっていました。
足湯のふちのベンチに腰かけます。
スニーカーとソックスを脱いで、お湯に足を入れました。
(どきどきどき)
慎重に周りの様子を見渡します。
ベンチから腰を浮かせて、スカートの中に手を突っ込みました。
パンツを下ろして、
(どきどきどき)
足から抜いてしまいます。
チノパンからスカートに換えておいたのは、そのほうが脱ぎ着が簡単だからでした。
でも、どうしてもそれ以上は勇気が出ません。
人の姿はありませんが、なにしろこの足湯はけっこう見通しのいい場所にあるのです。
(どきどきどき)
あとは、このシャツとブラとスカートを脱ぐだけでした。
全裸になるのに10秒もかかりません。
でも、
怖いよ、怖い・・・
こんなところで・・・
シャツのボタンを2つ3つ外したところで、気持ちが縮みあがってしまいます。
あらためて周囲を見渡しました。
どこにも人の姿はありません。
(どきどきどき)
無理だ・・・
私には、
(できない)
からだが固まったまま緊張して涙が出そうでした。
それでも、もしやればどれほどの高揚感を味わえるのか想像はついています。
(なに怯えてるの?)
(大丈夫だってば)
全裸になって、浅いお湯に寝そべる自分をイメージしていました。
空を見上げながら『こんな場所で』と、きっと後ろめたさに満ち溢れて・・・
われを忘れるような背徳感に、脳みそをとろけさせることができるはずです。
でもやっぱり、
(ああ・・・無理・・・)
どうしても行動に移す勇気が出ませんでした。
最後までボタンを外すことができずに、
(ああ、あああ・・・)
時間だけが緩慢に過ぎていきます。
(平気だってば)
(誰も現れない)
しつこいぐらいに周囲を確認しました。
いちばん下のボタンまで一気に外して、シャツを脱ぎ捨てます。
同時に、ブラを剥ぎ取っていました。
(ひいー)
スカートを、あとはこのスカートを・・・
わかってる、
(大丈夫)
今なら誰もいない・・・
なのに、なのに・・・
(無理、むりむり)
この底知れない不安感に打ち勝つことなど到底できません。
大慌てで、またシャツを羽織っていました。
ブラをつけなおす気持ちの余裕などなく、ノーブラのまま急いでボタンを留めます。
そして、気持ちの糸が切れました。
(私には、無理)
ブラとパンツはトートバッグに突っ込んで、スニーカーを履きます。
一本道を駐車場へと戻っていきました。
けっきょく一度も誰とも遭遇することなく、自分のレンタカーに帰ってきた私です。
最初から最後まで無人でした。
それはそれで、なんとも悔しいような気分にもなってきます。
(やろうと思えばやれたんだ)
素っ裸で足湯に寝転んで・・・
記念に自撮りとかもして・・・
(ああ・・・誰もいないじゃない)
(やればよかった)
車のわきで足もとに荷物を置きました。
スニーカーを脱いで、踏んづけてしまいます。
(どきどきどき)
シャツを脱ぎました。
その場に投げ置きます。
(どきどきどき)
スカートを下ろして、
『するっ』
真っ裸になっていました。
上も下も全部脱いだ姿になってしまってから、わざと時間をかけてトートの中の下着を取り出します。
気持ちの中にみじめ感が高まってきて、人知れず涙ぐんでいました。
いちどは履きかけたパンツを履くのをやめて、スニーカーに素足を突っ込みます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
目の前は思いっきり道路ですが、人の姿はありませんでした。
車の音もありません。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
陽射しの暖かさがありました。
道路の真ん中に行って、仰向けに寝そべります。
(これでも私・・・)
(職場の男性たちには、けっこう注目されてるんだから)
道の真ん中で『大』の字になっていました。
声に出して、
「もーわたし、何年も男とやってない」
超下品なことをつぶやきます。
男の本音なんて、みんな同じ・・・
(ほら、ほら・・・)
みんな私としたいくせに・・・
さらに、はしたなく大股を開きました。
(だってだって)
(私、オナニーのほうがいいんだもん)
からだをねじり起こして四つん這いになります。
(だめえ、だめえ)
(こんな道の真ん中で)
股間に手を持っていって、
「あっ、ぁ・・」
敏感な部分に指先をあてます。
全身に電気が走ったかのようでした。
たったこれだけで、もうぬるぬるになっています。
が、
「ひっ」
一瞬で跳ね起きて駆け出していました。
はるか遠くからかすかに聞こえてきたエンジン音・・・・
放り出してあった荷物をすべて抱えて、自分の車のかげにうずくまります。
(ばくばくばくばく)
だめ・・・
(みつかったら)
私、死んじゃう・・・
ほどなくして、
「ヴーーー」
1台のトラックが通りすぎていきました。
再び、完全なる無人の世界になります。
(どきどきどきどき)
胸が苦しくて立てませんでした。
心臓が爆発しそうに鼓動したまま、いつまでもおさまってくれません。
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
なんとか呼吸を整えました。
ようやく立ち上がって、服を着ます。
スカートは後部座席のボストンバッグにしまいました。
チノパンにシャツの格好に戻ります。
きちんと身なりを整えて、車の中に入りました。
運転席にからだを落ち着けて、一息つきます。
(ふー)
なんで?
どうしてそんな危ないことばかりするの?
(だって、だって)
(どきどきするんだもん)
シートに座っているのに眩暈がしそうでした。
なんとも例えようがない、空虚な気持ちに襲われています。
(帰りたくない)
ダッシュボードを開けました。
無理だと言われたら、あきらめる・・・
OKだったら・・・どうする?
レンタカーの書類を取り出しました。
営業所に電話します。
今からでも返却予定の時間を延長することができるか尋ねました。
延長料金が発生する可能性があるけれど、20時までならOKとの確認が取れます。
本当に行くならとんでもない大戻りになりますが、まだ時間はありました。
ナビをセットします。
(オナニーしたい)
(がまんだ、いまは我慢・・・)
急いで車を発進させました。
(続く)
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