水着姿のままで運転をしながら、適当な場所を探していました。
このままというわけにはいきません。
どこかでビキニから服に着替えなければ帰れませんでした。
すでに二股路のところまで戻ってきて、本線道路に合流してしまっています。
(えー、どうしよう)
どこかで一時停止して、ぱぱっと水着の上に服を着てしまうという手もありました。
でも、
(水を浴びたい)
今の私は汗だくすぎて全身がべたべたです。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけでいい・・・
もういちどだけ、川で汗を流してから帰りたい・・・
だいぶん走ってきてしまっていました。
ときおりすれ違う対向車の目が気になってしかたないビキニ姿の私です。
(どうしよう)
ポイントゼロの場所に差しかかりました。
車をとめられるわずかなスペースのところが空いています。
ハンドルを切って、すかさず駐車していました。
(よしっ)
トートの中に着替えと必要最低限のものだけを突っ込みます。
車から出ました。
道を横切ってガードレールのところから眼下の渓流を見下ろします。
(がーーん)
人がいました。
ひとりだけですが、男性です。
広げたレジャーシートに寝転がったまま、日陰で音楽を聴いているようでした。
でも・・・
(人がいたって)
(別にかまうもんか)
水着をつけたまま川に入って、すぐあがってくるだけのことです。
(行こう)
ガードレールをまたぎました。
転ばないように気をつけながら、数メートルの斜面から岩場へと下っていきます。
たぶん私と同年代ぐらいの男性でした。
イヤホンをつけていて、私のことにはまだ気づいていません。
からだにぴったりフィットするタイプの赤いTシャツを着ている人でした。
寝そべっている彼の傍らには、マウンテンバイクの自転車がとめてあります。
(どきどきどき)
気配に気づいた彼が上半身を起こしてこっちを見ました。
いきなりビキニ姿の女が現れたのですから、ちょっと怪訝そうな視線を向けてきています。
気が引けて、反射的に目をそらしていました。
そのままやり過ごします。
(どきどきどき)
余談ですが・・・
今これを書いていても、実はこの人の顔をちゃんと思い出すことができません。
いちども正面から目を合わすことがなかったからです。
適当な場所にトートを置いて、じゃぼじゃぼ水辺に入っていきました。
浅瀬で腰を下ろします。
仰向けに近い姿勢になって、川の流れに身をひたしました。
(ひーーーー)
信じられないぐらいの冷たさに凍えそうになります。
が、すぐに慣れて心地よさに変りました。
息をとめて、
「ざぼっ」
首を反らすような感じで頭も一瞬沈めます。
そして立ち上がりました。
「ざばあっ」
長居するつもりはありません。
どこかで着替える場所を探さなければなりませんでした。
この人がいますし、隠れられるところがないのでここではちょっと無理です。
(さよなら、お邪魔しました)
けっきょく、岩場のところからまた斜面を登っていきました。
ガードレールをまたぎます。
車は、道に平行するような感じで狭いスペースにとめていました。
下流方面に頭を向けて駐車しています。
(もう汗をかきたくない)
道を横切って車のところに戻ります。
人目につきにくいように車体の裏側にまわりました。
トートバッグを足もとに置きます。
タオルで頭をもしゃもしゃ拭きました。
このままだと髪がバサバサになってしまいますが仕方ありません。
帽子をかぶって帰れば済むことです。
「・・・ゥゥウ」
遠くからエンジン音が聞こえました。
ぱっとしゃがんで身を隠します。
私の存在に気づくことなく1台の乗用車が通過していきました。
後続車がないことを確かめてから、再び立ち上がります。
(どきどきどき)
緊張しました。
交通量自体は、さほど多いわけではありません。
でも、さっきまでのわき道のように通る車がほとんどないというのとは違いました。
次の車が現れるのが10秒後なのか、それとも2分後なのか・・・
それこそまったく見当もつきません。
(どきどきどき)
そもそも車体の小さいコンパクトカーです。
車体の裏と言っても、ルーフの高さよりも自分の顔が上に出ていました。
当然ながら窓ガラスも透明です。
注意深く前後を見渡しました。
走って来る車の気配がないことを確かめてからビキニブラに手をかけます。
(どきどきどき)
ぱっと外して、急いでからだを拭きました。
保湿用のボディローションを手に出して、ちゃちゃっと上半身に伸ばします。
超スピードで下着のブラジャーを身につけました。
頭からかぶるようにTシャツを着ます。
(どきどきどき)
スリル満点でした。
すぐさま下も替えようと、もういちど周囲を見渡して・・・
このとき初めて、それに気づいた私です。
色としての『赤』が一瞬視界の隅に入ったけれど、そのまま視線をそらしていました。
さっきのおにいさんのTシャツの色です。
(ああ)
不思議な感覚でした。
もちろん驚きはしましたが、『びくっ』とも『どきっ』ともしていない自分がいます。
まったく動じていませんでした。
さりげなく確かめる私・・・
さっきのあの男の人がガードレールの下の隙間からこっちを見ています。
(人がいる)
そのこと自体には何の感情もわきませんでした。
気づいた瞬間に、なぜか感情がフラットになっていたからです。
そのくせ・・・・
いつ現れるかもしれない車に対しては、心臓が破裂しそうなほど緊張していました。
(こんな道端なんかで着替えてる『私』・・・)
(かわいそう)
ふわふわーっと、脳内から意識が離れていくような不思議な感覚に陥ります。
自分という人間の存在も含めて、
(どきどきどき)
すべてを客観的に見ているような・・・
(この子、かわいそう)
(男の人に覗かれてる)
からだが勝手に動いていました。
ガードレールのほうに目を向けることもなく、まったく気づかないふりをしてみせています。
むしろ、負い目のような感情すら覚えていました。
こんなことでしか非日常感を得ることのできない歪んだ自分がせつなくて・・・
心が震えています。
(どきどきどき)
間髪入れずにビキニパンツに手をかけていました。
わずか10メートルぐらいの距離・・・
道路沿いにとめた車のかげで、大急ぎで着替えをしている『彼女』です。
首から上は隠れていませんでした。
焦り気味の表情で、道路の前後を見渡しています。
あああ、
(やばい)
どきどきする・・・
ビキニパンツを一気に脱いで、トートバッグの中に放り込みました。
素早くからだを拭きます。
車体のかげで、直接には見えていなくても・・・
どんな動きをしているのかは、まるわかりのはずでした。
2,3秒で拭き終えて、そのタオルもトートの中に放り込みます。
不埒なイメージが瞬間的に脳裏をよぎっていました。
(あああ、ばか・・・)
(そんなこと考えたらだめ)
本当の『私』が即座に拒絶しようとしますが、からだが勝手に動いています。
(そんなの嫌)
(私まだパンツはいてない)
ボディローションの丸いボトルは、車のルーフの上に立てて置いてありました。
そのボトルを取ろうとするふりをして、
「ごとん」
わざと勢い余ったように倒してしまいます。
とっさに手を伸ばしますが間に合わない、というふりをしていました。
狙い通りに、そのままフロントガラスから車の向こう側に転がり落ちてしまいます。
(ほんとにゆるして)
(お願い、やめて)
慌てて足もとのトートを持って、
(あああああ)
ボンネットの前側へと回り込む『彼女』・・・
(ひいいいい)
まだ下半身すっぽんぽんのまま、車体の裏側から出てしまいます。
おにいさんからまる見えの位置に立っていました。
地面に転がったボトルを拾い上げて、そのまま地べたにトートを置きます。
(嫌ああ、イヤあ)
(恥ずかしい)
Tシャツをおなかまでまくりあげて口にくわえました。
急いでいるふりを続けながら、
(イヤあああ)
手のひらにローションを出します。
(もうゆるして)
(お願い、おねがい・・・)
男性の前で、死ぬほど赤っ恥でした。
Tシャツのすそを口にくわえたまま、さりげなくおにいさんのほうを真正面に向いて・・・
ガニ股になりながら、
(ひいいん、恥ずかしいよ)
股間がまる見えの格好をします。
周りをかなり気にしている素振りをしながら、大急ぎで両脚にローションを塗るふりをしました。
(お願い、はやく)
(はやくパンツをはかせて)
実際、いつ他の車が通りかかってもおかしくないのです。
だからお上品になんて振る舞っていられないふりをしていました。
はしたなく股の割れ目をお披露目したまま、
(だめえ、だめえ・・・)
太ももの内側にも超スピードで保湿ローションを伸ばします。
(嫌あ、イヤあああ)
(お嫁にいけないよう)
恥ずかしすぎて、もう限界でした。
下着のパンツも短パンも、足もとに置いたこのトートバッグの中に入っています。
でも、
(あああん)
そのトートに手を突っ込んで私が取り出したのは、車のキーでした。
運転席のドアを開けます。
どうせ、私なんて・・・
(私なんて)
(どうせ、いつも一人ぼっち)
ドアを全開にしたまま、車内に上半身を入れていました。
運転席のシートに片手をついて、
(どきどきどき)
奥の助手席のボストンバッグに手を伸ばします。
(寂しくなんかない)
(だから・・・)
両足は車外で踏みしめたまま・・・
道路に向いているお尻が開ききって、股間がまる見えの大胆ポーズでした。
どこの誰ともわからないこのおにいさんに、
(だからせめて)
あなただけは私のことを褒めて・・・
(ああああ)
無防備にすらっと車外に伸びた白い太もも・・・
姿勢が姿勢だけに、
(ひいいん、恥ずかしい)
あそこはおろか、お尻の穴まで露わな後ろ姿です。
そんな自分に死ぬほど興奮しました。
全身の血が『かーっ』と頭に昇って、脳みそがとろけそうです。
(あああああ、人まえで)
(死ぬ・・・死ぬ・・・)
でも長い時間ではありません。
その姿勢のまま、助手席のボストンバッグから予備のパンツとジーンズを取り出した彼女・・・
すぐにからだを車の外に出しています。
(ひいん、はやくパンツをはかせて)
(恥ずかしすぎる)
最後まで演技を貫きました。
変わらず焦っている様子で、周りを気にしながらパンツをはきます。
すぐさまジーンズもはきました。
そして、ほっと安堵した表情になってみせます。
(どきどきどき)
動悸がおさまりませんでした。
まちがっても、おにいさんのいる場所に直接目を向けたりはしません。
トートを拾い上げて、車内に入れました。
最後にもういちど振り向いて、しばらく遠くの景色を眺めるふりをしてみせます。
日差しのまぶしさに目を細めていました。
たった今、
(何も知らずに)
自分のあそこを見せてくれた女・・・
細身のホワイトジーンズにネイビーのTシャツ・・・
あなたがこっそり覗いた女は、こんなに楚々とした顔の『美人』です。
(どきどきどき)
何事もなかったかのように平然と車に乗り込みました。
早く出発しないと、
(ぐすっ、ぐすっ)
屈辱感に負けて泣き出してしまいそうです。
(落ち着いて・・・早く出して・・・)
エンジンをスタートして、車を発進させました。
同時に、堰を切ったように涙があふれ出します。
(もうだめ)
(私・・・ほんとだめ・・・)
ハンドルを握りながら号泣しつつも・・・
このうえなく晴れ晴れしい気持ちで帰路につく『私』でした。
(PS)
長文に最後までお付き合いくださってありがとうございました。
いちどに書ききれず、けっきょく3つに分けて書いたかたちになってしまいました。
もしこの体験談を気に入ってくださったのであれば・・・
お時間のあるときに、もういちど3つをぶっ続けで読んでみてください。
短い時間のあいだに怒涛のように押し寄せる私の感情の波を、読んでいただきながらもし共感していただくことができたのなら・・・
わざわざ投稿してみた甲斐があったというものです。
とりあえず皆さん、さようなら。
どうぞお元気で暑い夏を乗り切ってくださいね。
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