のぼせたら、おじさんたちに背をむける側で湯だまりのふちに腰かけて・・・
ふたりが去ってくれるのを待ちながら、またお湯につかる・・・
ただただ、その繰り返しで時間を稼いでいました。
地べたの割れ目から短い雑草が1本だけ伸びていて、小さい花を咲かせています。
その白い花の健気さを目にして、また涙ぐみそうになりました。
(私って)
(なんて弱いんだ。。。)
さっきからもう20分近くそのすだれの裏に張り付いているのです。
おじさんたちだって、とっくにくたびれているはずでした。
(戻ってください)
(お願い、もう男湯に戻って)
それなのに・・・
一向に、その場から離れてくれる気配のないふたり・・・
(帰ってくれるわけがない)
(多少は見られてもしかたない)
半ば、諦めの境地でした。
だったらもう・・・
のぼせ切ってしまう前に、はやく・・・帰ろう・・・
「ざばっ」
立ち上がっていました。
湯だまりから出て、すっぽんぽんのままトートバッグを置いた岩に歩み寄ります。
(なるべく手早くからだを拭いて)
(そうしたら、さっさと服を着て)
そう思ったのに、そう思ったのに・・・
(イヤああ)
おじさんたちに大サービスしている、もうひとりの自分がいました。
その場で『すっ』と棒立ちになってみせています。
全身から湯気を立たせたまま、
「う、ぅーん」
両方の腕を真上に突き上げながら、大きく伸びをしていました。
肩をぶるぶる震わせて・・・
からだから、『ふうっ』と力を抜きます。
真っ裸のまま、あらためて景色に見とれているふりをしました。
ふたりの前でのんびり立ちつくして・・・
この『お堅い』女の、股の割れ目がおじさんたちに見えてしまっています。
(やめてやめて)
(はやく服を着てよぉ)
スポーツタオルで軽くからだを拭いてから、ボディクリームを手に取りました。
パンツもはかずに、
(やめてってばぁ)
大胆にも全身にクリームを塗っていく私・・・
人一倍警戒心の強い『この女』の、無防備な姿をふたりに眺めさせてあげます。
(ねえねえ、おじさんたち)
(にやにやしてるの?)
あくまでも自然体を装いました。
右の足を上げて、ほどよい高さの岩上に置きます。
その無造作な格好のまま、ふくらはぎにクリームを伸ばしていきました。
何も知らないこの女は、
(もうイヤぁ)
まさか男性に覗かれているなんて夢にも思っていません。
そして・・・
(ああ、だめだ・・・)
自分自身を客観的な視点から観ているような、不思議な感覚に陥っていきました。
自分で演じている『この女』に対して、どんどん意地悪な気持ちになっていく私がいます。
トートの中からスマホを取り出しました。
カメラを起動して、
(いやん、いやん)
すだれの真正面に行く私・・・
真っ直ぐふたりに向き合うように、ガニ股でしゃがみこみます。
もはや、頭の中は真っ白でした。
どこかへ意識が遠のいていくかのように、すーっと『無』の心境になっていきます。
地べたから生えたあの雑草にスマホを向けて、にこにこしてみせました。
楽しげな表情で、
「ピッ、カシャッ」
その小さな花を何枚も写真に収めます。
少しでもいいアングルで撮ろうと・・・
片ひざをつきながら、
「ピッ、カシャッ」
はしたなく内股が開いてしまっているこの女・・・
どういうわけか、奇妙なぐらいに意識がフラットのままでした。
急速に冷めきっていく気持ちをよそに、表面上は撮影に夢中のふりを続けます。
(もういい)
(好きなだけ見て)
逆向きからも写そうとする感じで、花の反対側にまわりこみました。
すだれに背を向けて、
(まゆげさん、どんな気持ち?)
この容姿端麗なCAのしゃがんだお尻を、目の前で拝ませてやります。
そのまま地べたに両ひざをつきました。
わずか1m後ろには、おじさんたちの目・・・
両ひざ立ちのまま、
「ピッ、カシャッ」
思いっきり前かがみの格好になって、小さな白い花にレンズを向けます。
彼らを喜ばせてあげようと思う一心でした。
おじさんたちの眼前で、無防備なお尻を後ろに突き出してあげます。
地面についた両ひざを『がばっ』と左右に開きました。
さらにローアングルから狙おうと、
(鷲鼻さん、どんな眺め?)
体勢を低くして、這いつくばるようにスマホを構えてみせる私・・・
「ピッ、カシャッ」
ふたりとも、かぶりつくように見ているはずでした。
29歳のCAが、目の前で股ぐらを披露してくれています。
何も知らずに、
「ピッ、カシャッ」
もろ股間に男の視線を浴びている、かわいそうすぎる女・・・
でも、私の感情は完全に冷めていました。
「ピッ、カシャッ」
何事もなかったかのように立ち上がります。
潮時でした。
にこにこしたまま、トートのところに戻ります。
慌てることなく、ゆっくり服を着ていきました。
(じゅうぶん見たでしょ?)
(今のうちに自分たちのお風呂に戻って)
ペットボトルのお茶を飲んだりして、さりげなく時間の余裕をつくってあげます。
すだれから、おじさんたちのシルエットが消えました。
まるで呆けたかのように、一切の感情が『無』というか・・・
自分でも不思議なぐらいに気持ちが淡々としています。
身なりを整えて、
(そろそろ戻ったころか)
そっと石垣をまわりました。
「ガタッ」
木戸を開けると、ぱっとおじさんたちに目が合います。
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