その後も、3人で歩きながら自然と会話が弾んでいました。
「俺、〇〇のとき〇〇〇だったんですよ」
「えー、そうなんですか?」
そのうちに仕事や生い立ちの話になってきます。
「えー、私ですか?」
ここからが私の真骨頂でした。
もちろん、本当のことなんて言うわけがありません。
CAだと嘘をつきました。
「CA?」
「スチュワーデスさんなの?」
食いつくように私の顔を覗きこんできたのは、まゆげさんです。
私をみつめて、
「すごいじゃないですか」
ますます興味津々の表情になっています。
「いえ、そんなことないんですけど」
照れたようにはにかんでみせると、鷲鼻さんも話に乗ってきました。
「〇〇〇?」
私は、本当に悪い女です。
軽くうなずきながら、
「でも・・・」
すらすらと嘘に嘘を重ねている自分がいました。
「もう29ですし」
「はやくいい人をみつけて、身を引きたいんですけどね」
さらっと年齢も偽りながら、
「あれっ、水の音がする」
急に立ち止まったりして、さりげなく話をそらしていきます。
「この下に、川が流れてるからね」
「もうすぐ着きますよ」
ふたりとも、
・・・へえー、CAさんか。
・・・どうりでキレイな顔してるわけだ。
露骨にそんな表情になっていました。
私は、まったく意に介していないふりをしています。
ときおり歩みをゆるめて、
「だいじょうぶですか?」
このふたりをやさしく気遣ってあげました。
肥満体のせいで、さっきから息が上がりかけているおじさんたち・・・
私だけが、ひょいひょいと歩けている感じです。
(もっと私の顔を見て)
(高嶺の花だと、もっと見惚れて)
「けっこう、でこぼこ道ですねえ」
なりきって演技をしている自分が快感でした。
良心の呵責を覚えながらも、
(べつに迷惑をかけてるわけじゃない)
人を騙していることの罪悪感に、どきどき興奮してしまいます。
「もうすぐですよ」
そう言いながら、先頭を歩く鷲鼻さんがこちらを振り向きました。
前髪の生え際のところに、枯れ葉のようなものがくっついています。
「あ、待って」
チャンスでした。
足をとめた相手に、『すっ』とにじり寄ります。
そして、
「葉っぱが・・・」
おもむろに鷲鼻さんの顔に手を伸ばしました。
一瞬、見つめ合うような距離感になりながら・・
そっとゴミを摘み取ってあげます。
「ありがとう」
このちょっとした振る舞いが、効果てきめんでした。
鷲鼻さんの表情が、でれっと弛んでいます。
「ごめんなさい、くっついてたから」
私は自然体を装いました。
その物腰は、あくまでも真面目な女そのものです。
(完全に、こっちのペースだ)
やがて『〇〇湯→』という朽ち果てた木の表示が見えてきました。
この歩道からそれるように、下へと降りていく階段道が続いています。
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