持ち物は、玄関の鍵を入れた小さなポシェット一つ。コートのような羽織るものも、身を隠せるものもありません。もしものことを考えると、せめてコートくらいはと思ったのですが、こんなことが出来るチャンスは、この先二度と来ないかもしれませんから、自分が思い描いてきた通りのことをして、完全燃焼したいと決めたからです。 足元も靴やサンダルなど履かず、素足のままと決めていました。実行するのなら、完全な全裸で。私が描いてきた変なこだわりです。 全裸の私は、玄関の鍵を静かに開けました。私の鼓動がドンドンと大きく音を立て始め、心臓が口から飛び出しそうなくらい波打っています。膝はガクガクと暴れ出し、全身が激しく震えています。ドアのノブに手を掛け、静かに回そうとしても、手が震えてカチャカチャと音を立てるだけで、ドアを開けることも出来ません。落ち着いて、落ち着いて。と自分に言いながら、ノブを回しました。ゆっくりと開いていくドア。私は顔だけ出して、マンションの廊下に誰もいないことを確認しました。震えながらドアから廊下へ出ると、夜の冷たい空気が、私の全身を包み込みます。でも、なぜか寒さは感じません。気持ちが高ぶっているからなのかな。玄関の鍵を掛けて、階段へ向かって歩こうとしたのですが、廊下の灯りで全裸の全身がハッキリと浮かび上がり、ますます緊張と怖いのとで、バクバク、ドキドキ、ブルブル、ガクガクの私。なんとか階段の踊場までたどり着いても、まだ震えが止まりません。エレベーターもあるのですが、階段を使う方が少しでも安全かもと思ったから。6階から1階まで下りるのは大変です。何かの物音にも、身体がビクッと反応します。 全神経を研ぎ澄まし、やっとの思いで1階へたどり着きました。マンションの敷地内の植え込みに沿って、前の道路へ。 植え込みに身を隠しながら、道路の様子を確かめました。昼間でも通行量の多くない道路は、深夜になると静まり返っていました。所々にある民家の灯りも消えて、街灯だけがぼんやりと道路を照らしています。200mくらい離れた所にある小さな郵便局まで歩くことが、私が考えていた課題です。もう後へは戻れません。覚悟を決めて植え込みから道路へ出ました。道路の端を郵便局へ向かって歩きます。お願い、誰も来ないで、お願いだから。心の中で祈りながら、私は何度も後ろを振り返り、郵便局を目指しました。
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