2020/04/11 17:56:06
(Gz62/q7Y)
髪をばっさり切りました。
10年以上ぶりのショートカットです。
思いきって短いヘアスタイルにした理由は、たったのひとつ・・・
でも、その理由をきちんと知る人など誰ひとり存在しません。
職場でも、みんなが驚いていました。
ぱっと見だけでも、かなり大きなイメチェンになったからです。
「失恋でもしたの?」
中年以上の男性社員たちときたら、みながみな口を揃えて同じ冗談ばかり・・・
でもまあ、そんなのは軽く受け流すまでのことでした。
「いえいえ、そんな」
「ちょっと気分を変えてみようかと思っただけです」
あの先月の旅行のことを思い出すたびに、耳まで『かーっ』と熱くなる私・・・
男性たちの前で、
(ひいいいい)
お湯を流したカランの下に頭を突っ込んだあの場面・・・
四つん這いのお尻を晒してみせた羞恥の興奮を忘れることなどできません。
「ショートにしたの、久しぶりだなあ」
「ちょっと首もとが寒いんですよね」
あれからずっと、
(そんなとこ見ないでえ)
もういちど同じ場面を『夢見る』ようになってしまっていた私でした。
それこそ来る日も来る日も、毎日自分のベッドの中で・・・
「似合ってますか?」
「この髪型」
目の前にいるこの楚々とした女に、まさかそんな裏の顔があるだなんて・・・
おそらく想像もできていない職場の男性同僚たち・・・
(髪が短いほうが)
(あの体勢でもシャンプーを流しやすい)
信じてもらえなくたって構いません。
長年のセミロングをショートカットに変えたのは、ただそれだけが理由でした。
われながらどうかしてると思わなくもありません。
でも、後悔なんてありませんでした。
それに・・・
自分で書けばまた反感を買うのもわかっているけど・・・
こうして鏡に映ったショートカットの自分を見てみると、
(可愛いじゃん)
以前よりもフェイスラインがはっきり出て・・・
自分で言うのもなんだけど、とても『キュート』な感じに見えます。
特に、すっぴんのときは20代後半だと言っても完全に通用する気がしました。
予約は取れています。
12月の半ばに泊ったのと同じ宿でした。
その日が来るのを心待ちにして・・・
(本当に来ちゃったよ)
ついに私は、再びこの地に立っていました。
旅館にチェックインしたのは、まだほんの1時間ほど前のことです。
さすがに部屋でちょっと一息つきましたが・・・
そのあと、すぐに袋を持って宿の玄関を出ていました。
ノーメイクの『すっぴん』です。
(どきどきどき)
あの公共温泉を目指して歩いていきます。
なんてことのないこの細い道のすべてに見覚えがありました。
(あれから1ヵ月か。。。)
まだそれほど月日が経ったわけでもないのに・・・
なんだか、とても懐かしい気持ちがします。
(どきどきどき)
やがて、遠くに建物が見えてきました。
曲がり角は何ヵ所かありますが、このあたりからは基本的にずっと1本道です。
前後には、まったく人の姿がありませんでした。
(どきどきどき)
寂れた町のはずれを、ひとりぼっちで歩いていきます。
どうしよう・・・
(誰もいなかったら)
この日を夢見て、わざわざ訪ねてきたのに・・・
あのときの管理のおじさんの言葉を思い出していました。
1日の利用者は、30人ぐらいって言ってた・・・
でも、あれだってもしかしたら適当な数字を口にしていただけかもしれません。
最後の角を曲がって、建物の入口も見えるところまで来ました。
胸が破裂しそうになりながら、
(私は、悪くない・・・)
心の中で、とにかく勇気を奮い立たせます。
(私は、お風呂に入りに来ただけ)
自分にそう言い聞かせていました。
実際、人に咎められるようなことをしているわけじゃありません。
だってここは、
(もともと混浴なんだから)
私が入浴したって何の問題もない『公共』の温泉でした。
プレッシャーは尋常じゃないけど・・・
客観的には、実はリスクの少ない安全なシチュエーションとも言えます。
(あああ、混浴か)
(嫌だよ・・恥ずかしいよ)
建物に入って、脱いだスニーカーを上のほうの靴棚に置きました。
他に靴が3足あります。
それは、
(中に3人いる)
すでに先客がいるということを示していました。
(ひいい)
(がんばれ、私・・・)
左手の戸を開けます。
どきっ!
いきなり目が合いました。
(ひいいん)
そこにひとりでいたのは、50代ぐらいの『中年男性』です。
足がすくみそうになるのをこらえます。
(あああ・・・)
(なんで)
脱衣スペースに入りました。
(なんでお年寄りじゃないの)
そのおじさんが、
『まじかよラッキー・・・』
そんな驚きの表情で私のことをみつめています。
いきなり若い女が現れたことに、半ば呆然としている様子でした。
(どきどきどき)
私のほうも、
「こん・・・にちは」
やや戸惑ったような表情で挨拶をしてみせます。
「どうも」
脱衣場にふたりっきりという、きまずい空気がありました。
緊張しすぎて、
(どきどきどき)
私はすでに死にそうな心境です。
勇気を出して、
「混んでます?」
相手に尋ねながら、ダウンコートを脱ぎました。
目の前の棚の、脱衣カゴに突っ込みます。
「あ・・・いやそれほど」
おじさんは・・・
お風呂上がりで、もう服を着た状態でした。
(あああ・・・)
決して自意識過剰なんかじゃありません。
はっきりと感じ取っていました。
いま相手のおじさんは・・・
明らかに私の容貌に目を奪われています。
(ぜ、ぜ・・・ぜったい無理)
あまりにも酷でした。
こんな見られている状況で、はだかになるなんて・・・
(どきどきどきどき)
パーカーを脱ぎます。
ブラまる出しになった私に、おじさんが息をのんでいるのがわかりました。
そして、なにやら荷物を整理しているようなふりをしています。
完全に時間稼ぎの態勢でした。
「このあたりの方ですか?」
ジーンズをおろしながら、にこにこ尋ねる私・・・
相手が、
「いえ、九州のほうから」
私の下着姿に釘付けになっていました。
言われてみれば、確かにこの人の荷物はボストンバッグです。
「あなたは?」
今度は、逆に質問返しをされていました。
靴下を脱ぎながら、もっともらしく嘘をつきます。
「実家がこの近くで」
「ここ、子どものときからよく来てるんです」
「へえー・・・」
そのまま、
「ひさしぶりだなー」
すっと背中に手をまわしました。
(イヤあぁ、無理・・・)
「ここのお湯、熱くなかったですか?」
会話を続けながら、お互い完全に目と目が合っています。
おじさんの喉仏が上下していました。
ホックを外して、
「昔からいっつも熱いんですよ」
あたりまえのようにブラを取ってみせる私・・・
(ひゃああああ)
おっぱいまる出しでした。
袋の中から、
(むり・・無理・・・)
タオルを取り出します。
(見ないでえ)
完全に限界でした。
なんとか平静を装ってはいますが、下までは絶対に無理です。
パンツをはいたまま、タオルを腰に巻きました。
横で結んで・・・
ミニスカートのようにしてから、タオルの中に手を突っ込みます。
そして『するするっ』とパンツをおろしました。
(ばくばくばくばく)
目の前で見ているおじさんの興奮が手に取るように伝わってきます。
腰にタオルを巻いただけで、
(ああああああ)
あとは、もう何も身に着けていない『私』・・・
そのタオルも、股下の長さが超ぎりぎり状態でした。
おじさんの視線が、せわしなく上下に動いているのがわかります。
(ばくばくばくばく)
入口横の料金箱に、
「ぼとっ・・ぼとっ・・」
決められた額の小銭を入れました。
(恥ずかしいよう)
おじさんが、私の胸を『ガン見』しています。
お風呂ポーチを手に持ちました。
自然体の雰囲気で、
「じゃあ、どうも」
ちょっと恥ずかしそうに会釈をします。
(ばくばくばくばく)
浴場へと続く、曇りガラスの引き戸に手をかけました。
中には、
(ふたりいる)
靴の数から計算しても、そのことは確実です。
前回のときの記憶が瞬間的にフラッシュバックしました。
プレッシャーで息がつまりそうになります。
「ザシャーッ」
戸を開けて中に入りました。