冬の寒気が日毎に増していた。俺は目を覚ます。今日も変わらない天井だった。毎日が等速で流れているはずなのに、この季節は時の流れが遅く感じる。ふと、そんな日々に彩りを添えたくなった。
俺は、ため息をつきながら、下着を下ろし、ブラウザで開きっぱなしにしていたアダルトサイトを閲覧する。この前見たような、見てないような、そんなコンテンツばかり。一様に「メス」が股を開き、発情した「オス」が性器を内側に擦り付けるだけ——。正直、そんな自慰行為にはとっくに飽きていた。またため息をついた。寒い。
ふとした思いつきだった。さらに寒さを感じてみよう、と。俺は窓を開けはなつ。俺のアパートは隣が線路になっていて、頻繁に電車が往来する。そんなことを考えているうちに、電車が右からやってきた。そのとき、俺の心臓(とソレ)が跳ねた。尋常ではない興奮だった。これだ。俺は確信した。俺はすかさず上を脱ぎ、開け放った窓の前に仁王立ちし、生殖器を摩擦し始めた。仄かなあたたかみを持ったそれは、確実に、着実に硬度と律動、そして熱を増してゆく。また列車が通った。乗客と目があった気がした。もうスマートフォンなど見ていなかった。それは、旧時代の遺物のようで、画面に色欲に塗れた、扇情的な映像を垂れ流すだけだった。俺はさらにその右手を早めた。するとそこへ通りがかった電車が、スピードを緩めた。後から思うに、おそらく点検か何かだったのだろう。そして、目の前で停車した。全裸のオスは、ひとりそこから目を離せずに、さらに加速していた。もう、止められなかった。そして「それ」はやってきた。俺は小さな、しかし確実な呻き声を漏らしながら吐精した。精液は放物線を描き、網戸にへばりついた。肩で息をしながら、数秒間俺は沈黙していた。膝が笑っていた。電車が音を立てて動き出した。その音で俺は我に帰り、慌てて窓をバタンと閉めた。そしてそのまま情けなく座り込んでしまった。それからしばらくは、電車の中から自身を見つめるねばっこい目線が脳裏から離れなかった。