猛暑日が何日も続く、福岡の夏。
午前中は快晴だったのに、お昼前には黒い雲が空に広がり、雷のゴロゴロという音が遠くから聞こえてくる。
会社倉庫に戻った私は、駐車場に停まる一台のトラックが気になった。
荷台には午後から納品に向かう段ボールが積まれている。
(あの荷物は濡れるとマズいわね・・・)
私は近くに居た三島さん(20代♀)を呼び止めて、雨が降っても大丈夫か確認したのです。
「ちょっと三島さん、あれ大丈夫よね?」
私が福岡に来たばかりの頃、彼女は事務職の派遣社員として働いていたが今では正社員となり忙しい毎日を過ごしている。
「濡れる前に荷物にシート掛けといた方が良くない?」
「なんか昼から雨が降りそうな予報でしたね」
そう言って倉庫でブルーシートを探している間にポツポツと振り出した雨は、わずか数分後には大粒の雨に変わり周りの景色を変えました。
「キャァァァ、三ちゃん急げぇ!!!」
土砂降りの中、二人で荷台によじ登りブルーシートを広げて荷物を守る。
私たちに気付いた同僚が、次々とトラックの周りに集まりなんとか荷物にシートを掛け終え荷物は無事でしたが、私達二人は無残な姿になっていました。
「もう最悪ですよ~こんなに降るなんて」
「空が暗くなってきたと思ったらいきなり土砂降りだもんね」
天気予報では晴れと言っていた。局地的な雷雨の可能性があると言っていたのでゲリラ豪雨というやつでしょうか。
しかも最悪のタイミングで降ってきたのです。
「私、着替えなんて持ってないからどうしよう」
「取り敢えずタオルで拭くしかないべ」
「下着も透けて絶対、見られてますよ、絶対」
私は自前のスーツとブラウスがびしょ濡れで、彼女は支給されている制服がスカートとベストですがどちらもびしょ濡れでした。
制服といっても事務用のレンタル品ですが。
「それにしても、三ちゃん可愛いブラ着けてるのね」
「はい、こういうの好きなんです」
私のイメージでは彼女はもっとセクシーな下着を着けていると思っていた。
「しかしほんと酷い雨でしたね、こんなにびしょ濡れになったの久しぶりですよ」
「私もよ、こんなに濡れる事ないもん」
しかしこのままでは午後の業務が出来ないから濡れた服は着替えないといけない。
「私は大丈夫だけど、三ちゃん着替え持って来てる?」
「持って来てないんですよ」
私は知り合いのドライバーから貰った冷感インナーを数枚ロッカーに置いていたからそれを着れば良いが、
彼女には着替えがないため一枚分けてあげる事にする。
「私用のSサイズだけど生地は伸びるから着られると思うけど」
「はい、ありがとうございます、でも上だけ着替えてもこの下着のままだと、結局意味ないですよ、下着も変えないと」
「そりゃそうでしょ、あれだけ濡れたらね・・・」
上着はどうにか出来るが、スカートと下着は絞れるほどびしょ濡れのままだ。
取り敢えずタオルで拭きとれるところは拭いてあとはロッカーの中で乾かすしかない。
「でも濡れたままの服、帰りまでロッカーに入れとくの何か嫌ですね」
「そうねぇ、貴重品は持ち歩いてロッカー開けとくか」
インナーを着て、生乾きのスカートだけを履くと私たちは更衣室を後にする。
昼休みが終わり、業務に戻った私たちに予想もしなかった事が起こるのですがこの時は
そこまで気付いていませんでした。
午後一番の業務は後輩が持ってきた書類の審査だった。書類を確認している間、後輩は私の傍に立ち微動だにしない。
(いつもは無駄にうるさいのに、今日は静かね)
チラッと彼の表情を確認すると、彼の視線は私のある一点を凝視している。
その視線の先は私の胸元でした。
(もしかして!)
ここで変に騒いで動揺する姿を周囲に見せてはいけない。
私は静かに書類に印鑑を押して、彼に手渡す。
そして立ち上がると窓から外の天気を伺う振りをしながら、窓ガラスに映った自分の胸元を
確認してみると不安は的中していました。
貰った冷感インナーは体感温度が5℃下がると謳っており、その着心地はとても快適だ。
しかも吸水性に乾燥性も抜群だった。夏の現場に出る人達にとってはマストアイテムと
言っても過言ではない。しかし色がホワイトという落とし穴に気付いていなかった。
(白はダメじゃん、乳首透けてる。丸見えじゃん!)
慌てて前屈みになって胸を隠しましたが、インナー1枚なので乳首のところが色が透けているようでした。
この冷感インナーを私に譲ってくれたドライバーは女性なのだが確かインナーの上から自社のポロシャツを着ていた。
先程まで自分の胸元に気付いていなかったので平気でしたが、意識し始めると急に恥ずかしくなる。
そして私はこれを一枚譲った、三ちゃんが今どうなっているのか気になった。
(三ちゃんはと)
彼女は私以上に羞恥の姿を職場で晒していました。
Sサイズのインナーは彼女にとっては小さすぎたのか、私以上に胸のボッチと乳房の形をくっきりと浮き上がらせていた。
同僚の中には目敏い者が彼女の痴態に気づき、チラチラと見つめる者が居る。
(何も見なかった事にしよう・・・)
私は周囲に気取られないように静かに事務室を出る。
そして更衣室に向かう途中、仲の良い同僚から運悪く声を掛けられた。
「よぉ、久美子、お前凄い格好だな(笑)」
恥ずかしかったので腕で何とか見えないように胸元を隠しましたが、わざとブラをしていないと思われてるみたいで恥ずかしかった。
しかしそれを同僚が凝視していました。
この瞬間、私の心の中で悪戯心が沸き起こり自分でも信じられない言葉を発する。
「同僚よ、耳寄りな情報を教えてあげよう」
「何だ?」
ここで私がわざとらしく声を小さくして、同僚に内緒話をするように近づいた。
同僚も私に耳を寄せてくる。
「私達、さっきの土砂降りのせいで今、ノーパンノーブラ(NPNB)なの」
「!!!」
唐突な私の言葉に彼は言葉を詰まらせ、私を見つめる目が点になる。
「何故そんな事を嬉しそうに、わざわざ俺に言う?」
「いや、これ言ったら、君は喜ぶだろうな~って思って」
「馬鹿かお前は!・・・一回着替えに帰れば良かったのに」
「そ~だけど、昼からミーティングが有るから帰れないのよ」
「三ちゃんは?」
「三ちゃんもNPNBだよ(笑)そっちの方が気になる?」
「・・・・・、お前暑さで頭やられてないか?」
「そ~かも、もうどうでもイイって感じ(笑)」
最後は適当に笑って誤魔化し、同僚との話はここで終了させた。
しかしこの同僚は「スピーカー男」と言われるほど口が軽いのです。
きっとこの後、嬉しそうに私達二人の事を仲間に吹聴して回るでしょう。
更衣室に入ると、ロッカーの中にしまってあるバンドエイドを探して試しに乳首に貼ってみました。
鏡で自分の姿を改めて確認すると絆創膏の方が余計に白いインナーに透けて見えて、まだ乳首の方が色が薄くて小さい分、
バレそうに無かったので一度剥がしました。
出来る限り胸を隠して仕事をすれば気付かれないと思って、そのまま下着無しのまま
事務所に戻りました。
事務所に戻るとそこに居る男性達の視線が胸に突き刺さります。
自意識過剰なだけかもしれませんが、私を見る同僚が皆、胸を見ている様に感じてしまうのです。
しかし何人かの同僚は私がブラジャーをしていない事に気付いているようです。
デスクに戻り、少し時間が経てばノーブラに慣れていた私は胸元の事を忘れていました。
電話応対に気を取られていた時には完全に警戒心が緩んでいました。
私のデスクの周りには男性同僚が数人居たのですが、気にせず椅子の背もたれに寄りかかり背伸びをしていました。
電話が終わり受話器を置いた時、女性の同僚が私に耳打ちしました。
女「久美子さん、胸、胸、あいつら見てますよ」
(えっ?)
そう思って、チラッと周囲を見ると、近くの男性が私のポッチをじっと見ているようです。
目が合った男性に「なに?」と聞くと急にソワソワして自分の仕事に戻る。
明らかに「胸見てました」と周囲に解る反応でした。
(なんで男って、こんなに解り易い反応をするのよ)
私は傷口に塩を塗られたような気分です。
ここでは恥ずかしくて「やめてよ〜」と注意する事もできません。
男に胸を見られて、また警戒心が強くなり前屈みになってガードしました。
これでは椅子に座って背伸びも出来ません。
こんな環境ですから午後からの仕事は全く成果を出せません。
(今日はもう駄目だ、定時で退社しよう)
退社時間になり私は足早に帰宅準備を始める。
事務所から更衣室の荷物を取ると私は一目散に駐車場へと向かった。
そして駐車場の自販機コーナーで運悪く「スピーカー男」に呼び止められた。
喫煙所に行かない一部の不届き者達は、いつもここで隠れて煙草を吸っている。
彼もその不届き者の一人です。彼は口が軽く「スピーカー男」と社内では有名でしたが、
女性社員からはセクハラ王と呼ばれていました。
私は彼からスカートの中を覗かれたり、胸を触られた経験が有りました。
「もうパンツ乾いたの?」
「うるさい!まだノーパンよ。見たい?」
「そんなもん、見ねぇ、ってか見せたいのか?」
「ほんとは見たいんでしょ」
「そこまで言うなら見る」
(釣れた!)
私は勝ち誇ったドヤ顔(・∀・)で彼を見つめます。
「見せる訳ないだろ!!バーカ」
悔しがる彼を横目に自分の車に向かっていると、いつの間にか背後から近づいて来た彼が思いっ切り真後ろから私の胸を掴んできました。
そしてすぐに手を離しました。
「スゲ〜!ほんとにノーブラだ!スゲ~柔らけ~(笑)」
はしゃぎながら逃げていきます。
(チッ!!!やり逃げかよ!)
令和の時代でもうちの社内にはこんなセクハラ男がまだ居るのです。