趣味の風景撮影を終えて、早春の山を下っていました。登頂することを目指していたのではないので、それほど登ってきたわけではありません。とはいえ、けっこう汗をかいていました。思っていたよりもわりとハードな山道だったからです。登山用とまではいわなくても、いちおうトレッキング用のフル装備で臨んできていました。それでも疲労感でいっぱいです。(疲れた)(ザックが重い)やっと登山道の入口まで戻ってきました。それからはしばらく平地を歩いていきます。へとへとになりながら駐車場まで辿り着いていました。とめてあった自分のレンタカーに乗り込みます。発進させました。(おなかすいた)まだ夕方前の時間帯です。30分ほど運転して、予約していた宿に到着しました。本当はビジネスホテルがよかったのですが・・・あいにくみつからなくて、代わりに選んだすごく安くて小さい旅館です。かたちだけのフロントで呼び鈴を鳴らしました。奥のほうから係のおばちゃんが出てきます。チェックインしました。お金をかけたくなかったので、食事なしの素泊まりです。(昭和って感じ)(お客さんいるのかな)ずいぶん古い建物でした。廊下を歩いていって、自分の部屋に入ります。小さいテレビと冷蔵庫があるだけの八畳間ぐらいの和室でした。寝るためだけの宿のつもりで予約しましたから、何も文句はありません。おなかがすいていました。用意してきてあったカップ麺やパンを荷物から出します。でも・・・(先に汗を流そう)(お風呂に入りたい)部屋にお風呂はついていません。チェックインしたときに、浴場の場所の説明を受けていました。必要なものを持って部屋から出ます。廊下を歩いていって、いちばん奥の角を曲がりました。どん詰まりになった通路の狭いスペースに男湯と女湯の入口が並んでいます。その前には自販機とベンチもありました。ひとりでベンチに腰かけていたおじさんに会釈しつつ・・・女湯の引き戸は開いたままになっていて、暖簾だけがかかっています。その瞬間に違和感を覚えていました。(ちがう・・・)(今の目はおかしい)暖簾をくぐって脱衣場に入ります。時間が早くてまだ誰もいませんでした。たかだか4~5メートル四方ぐらいしかない狭い脱衣場です。入口でスリッパを脱ぎながら、(そういうことか)そのときにはもう気づいていました。建物の構造が古くて、入口からの曲がり角度がありません。(あのおじさん)(やっぱり)一瞬で察知していました。こんなの自慢できることでもなんでもないですが・・・経験上、私はもう・・・すぐにわかるのです。(間違いない)(あの人、絶対そう)まるでお風呂からあがって涼んでいるかのように・・・人待ち顔でベンチに腰かけていたおやじ・・・(あの場所からだと)(たぶん見えてる)確信していました。脱衣している女の姿がちらっとでも見えないものかと・・・下心を持ってあの場に腰かけているのです。(うわー)あまりにも唐突すぎて、考えるいとまもありませんでした。でもあの目は絶対そうです。いきなりのなりゆきに思考停止したまま、思いっきり頭に血が昇っていました。
...省略されました。