(7つ目です)
***
要領を得ないストロークの振動が長く続きすぎたことで、さすがに彼女も異変を感じ取ったらしい。彼女が腰の圧迫を解除すると、奥にめり込んでいたものが滑り出してきて、お尻の付近で暴走した機械のように宙を切って振動した。僕はバランスを崩してよろけ、彼女の背中にもたれかかると、密着から解放された右足は、かかとを上下させながらガクガクとより大きく動く。自分で制御できていない状態であることに彼女も気が付いたようだった。
「(震えてるの?)」
彼女はこちらを振り返り、目を見開くような仕草で驚きの意を表すと、1/4周ずつ、時間を置いて体を回転させこちらに向き合った。満員電車で体を回転するのは不自然な行為だけれど、周りに悟られないよう、細心の注意を払って動いてくれていて、そんな気遣いが、当たり前だけど嬉しい。
顔と顔の距離が近く、目元の小さなほくろまでハッキリ見える 。彼女とはS駅からもうずっと長い時間一緒にいたのに、いま初めて顔を合わせるのかと思うと、新たな緊張が走る。相対する彼女もどこか緊張しているようで、お互いに目を合わせられない。彼女の視線は僕を通り過ぎ、あさってのほうを向いて無関心を装っていて、それは僕も同じだった。やがて他の乗客の死角になっているのを確認すると、彼女はようやく僕に視線を送ってきた。
「ごめんね」
彼女は声に出さず、口パクで言った。恐る恐る僕の顔を覗き込む様子は、僕が恐怖で震えていることに驚いているらしかったし、自分が追い込んでしまった未熟な男子を憐れんでいるようでもあった。あるいは、僕が彼女の痴女行為をまだ受け入れていないかもしれない、と警戒しているのかもしれなかった。改めて突っ張ったテントの持ち主が僕であることを、手の甲や太もものあたりで確認している。その仕草はぎこちなく、さっきまでの大胆な彼女からは別人のような慎重さが伝わってくる。
「怖かった?」
彼女は僕の震える足に手を回して振動の源を確認すると、太ももの裏をそっとと撫でた。あらためて彼女を見る。寒色で甘すぎない色のトップスは普通に仕事をしている会社員を思わせるし、グラマラスなお尻とは対照的に、存在感を控えめに抑えた胸は向かい合ってもセクシャルな主張がなく、まじめに生活している人間の証のような気がしてくる。
大丈夫だよ、私は変な人じゃないから安心して、と語りかけるように彼女は僕の腰あたりをぎこちなく撫でた。手つきや仕草の全てが不慣れな感じで、それがまた僕を安心させた。痴漢として突き出される事はなさそうだなと思うと、震えはだんだん収まっていった。
しかし、僕の貞操が安全でいられる時間は長くなかった。震えが収まって僕が自立できる程度まで落ち着きを取り戻したのを見ると、彼女は腰に回した手を沿うように少しづつ移動させ、体の間に差し込んだ。チャックから不格好に飛び出しているテントに狙いを定めると、手の甲で触って反応を確かめる。甘い香水の香りがして、また彼女のペースに引き戻されているのだと知る。
***
※元投稿はこちら >>