4つ目です
***********
A駅へのブレーキが始まると、彼女が僕の腰骨あたりを叩く。体を離してというサインだ。指示するのはあくまでも私なのだ、というメッセージにも感じられた。彼女は僕に預けていた体重を解除すると軽く腰を浮かし、深く刺さっていたそれを深奥から離す。
数分ぶりに“外の世界”に出た不自然なズボンの膨らみはズボンの有り余る布地の一切を使って大きなテントを張っていた。彼女の攻めから解放され脳に久しぶりの酸素が届く頃、電車が停車しドアが開いた。
冷静になれ。彼女は何者なんだ。こんなことありえない、降りるなら今だ、と自分に言い聞かせる。腰を立て直し、ドアに向かおうとした。すると間髪いれず、彼女が手を回してきた。イレギュラーな動きはすべて彼女に筒抜けだ。僕が抑えるよりも早く、彼女の右手は僕の股間に到達した。
「降りますか?」
彼女は小声で、しかしあくまで一般的な、奥にいる人を外に出すための声掛けのような雰囲気で聞いてきた。表向きは降りる権利を行使するのか、中立的に聞いている。しかし壁側から後ろに回った手は僕の股間に覆いかぶさり、後ろ髪を引くように…というか手綱を握るように全体を覆っている。僕は自分の手で股間を奪い返し、覆い隠して防衛する。
「…」「降りるの?」
今度はささやくような小さな声で、親しい人に問いかけるように聞いてきた。聞きながら、僕の指をそっと握る。きつく掴むのではなく、触れているくらいで、手を払って逃げることも許可しているかのような緩さが、彼女の優しさのように感じられてズルい。
一方で、すべすべした肌と指先から伝わる体温が、先ほどまで繋がっていた彼女の記憶を強く呼び起こしてくる。彼女は手を重ねたまま放すことはせず、結局のところ逃がさないと言っているようなものだけれど、あくまでも僕に言わせるつもりのようだ。ここで初めて彼女は後ろを振り返り僕を見た。
派手さのない清楚な顔立ちに面を食らう。あんな大胆なことをするのだから、目鼻立ちがくっきりしているか、あるいはギャルっぽいとか、いずれにしても自信をみなぎらせたグイグイくるような女性をイメージしていた。ところが、彼女の雰囲気は落ち着いた真面目な社会人そのものといった風で、どこにでもいそうな普通の人だった。あえて例えるなら、地方のテレビ局やBSでニュースを読んでいそうな、大人しめな中堅の女性アナウンサーといった感じで、華やかさよりも真面目さが顔からにじみでている。表情は少しこわばって緊張しているようで、恐る恐るこちらの反応をうかがっている。自分のしていることに驚きつつも、この上なく破廉恥なこの行為を、人知れず上手く運びたいという意思が感じられる。
「降りる?」「大丈夫です。次の駅です」
ドアが閉まり電車が動き出す。ここから次のO駅まではかなり長い。本当は降りるべきだったのに、この場にとどまることを自分で選んだ形になってしまった。こうなると、もう彼女にとって先ほどまでのように偶然を装う必要はない。自分の手と僕の手をを重ねると、優しく撫で始めた。手というのは足やお尻と違い雄弁で、手の動きには常に意志がある。すべてが能動的で、見まがうことなく自発的で、つまりこうしたいと訴えかけてくる。
目下、彼女の目標は僕の手の中にある突起を奪還することだった。人差し指からゆっくりと1本ずつ優しくなでるので、堅牢なカードは着実に攻略されていった。握力が緩んだ一瞬のスキをついて彼女の指が僕の指の間に入ってくる。手を重ね指を絡ませたまま、僕の手の下にあるペニスの根元を粘っこくなぞり始めると、あとはなし崩し的に他の指も侵入してくる。程なくしてペニスのすべては彼女の手に落ちた。
僕はだんだん怖くなってきた。大人の女性が自分の股間に手をかけている。さっきまでの抵抗はむなしく、すべて無力化された。これから何をされるのだろうという恐怖。男だって、圧倒的な性欲の塊を前にすると恐怖を感じるのだと知る。僕は童貞、相手はおそらく手慣れた痴女…その差は歴然としており、冷や汗をかいているのに、あそこは勃起したままなのが悔しい。
僕がもはや抵抗の意思を示さないのを見ると、彼女は器用にファスナーを開け、制服の窓からパンツにつつまれたそれを取り出した。収縮性のある化学繊維はペニスが増長することをどこまでも許容している。彼女はズボンの中より一層解像度の上がった輪郭をなぞり、細部の形状を確認しているようだった。先ほど腰で感じていた物体と手の中の感触の答え合わせを一通り楽しむと、彼女は次の行動に出た。
僕にカーディガンの裾を持たせると、自らの手でスカートのサイドスリットの部分を持って、大胆に横にめくった。右から左へと舞台の幕が開かれるように、彼女の脚が姿を現す。巻きスカートのスリットの上端まで片足を露出させると、裾を少しだけたくし上げて腰近くの高さまで持っていき、一瞬ショーツと美尻が現れたかと思うと、間髪入れず僕の股間に向かって沈めてきた。
彼女の服装はなかなか理にかなっていた。カーディガンもスカートも、サイドのスリット部分から内部へ通じることで、スカートを”めくって”いるようには見えない。もしこれがミニスカートだったら、内側から外側へめくり上がっていることは周囲から見れば明らかだろう。
この長いスカートなら、よもやそれをめくろうなどという想像は起きにくく、周囲の関心も集めないので、欺きやすい。しかも彼女がひとたび腰の密着を解けば、横にスライドさせたスカートは自重で元の位置に戻って瞬時にアリバイを完成するだろう。スリットがあるのが壁側というのも、偶然だが完璧で、仮に隣にいる乗客が振り返ったとしても、ずらされたスカートのサイドは見えないだろう。
彼女がスカートをめくったことで彼女と僕を隔てる布はに4枚から2枚となっていた。お互いを感じ取るバリアとしては無きに等しい。先ほどまで堂々と張り出してスカート越しにペニスの輪郭を安定的に保持していた尻肉も、今はゼリーのように柔らかな通路となって、パンツ越しのペニスを奥へと導く。先端が、今度は真空ではなく、つるっと滑らかなシルクの感触に触れる。
彼女の背の高さは、僕が圧倒されている感覚を増幅した。ヒールで底上げされた腰の高さは僕とほぼ同じで、ペニスは上に向いてはじめて彼女の秘部に接触することができるほどの高さだった。張り出したお尻も肉厚で奥が深く、腰の幅も見た目以上に広い。スカートの下で密着すると文字通り上から覆いつくされたようで、中心でくさびを打つペニスは彼女が好きなようにできる。
服装も素早さも、僕を飲み込む体格も、すべてが計算されたように完璧で、僕は狙われるべくして狙われているように思われてくる。彼女はやはりプロなのではないかという疑念が湧いてくるが、もちろん彼女はそんなことはお構いなしに、奥に入ってきたものを楽しみ始めた。
「あっ」
彼女は初めて小さな吐息を漏らした。大きな声ではなかったが確かに息を漏らした。周囲を見て気取られていないのを確認すると、彼女は腰を少し落としてショーツ越しに僕をなぞりを始めた。
衣服の枚数が減ったことで結合部よりもたらされる感覚は先ほどよりずっと生々しく、生身の男女が触れ合っているんだと意識させられる。服どうしの摩擦がなくなって接点は肌身が触れ合ったようにスムーズに滑りあい、衣服の突っ張り感がなくなったことで、肌と肌はその凹凸の通りに重なった。先ほどまで突き出した尻肉と棒の果し合いだったのに、いまはもう太ももから腰までがぴったりと一体となって密着し、その結実として股間部に強い圧力を生じていた。
彼女は僕の手を取って何かを伝えようとしてくる。最初は恐る恐る掴んでいたが、握りられれば握り返すほかなく、正のフィードバックとなって次第にその握力が強まっていく。どうやら彼女が右腕を通じて高さや当て方を指示しているらしく、意図を理解した僕は素直に従った。
限られたスペースで不自然な動きをしないよう、彼女は僕をコントロールしながら接触のバリエーションを増やすことで、このつながりを最大限に愛おしんだ。熱の伝わる速度は圧倒的に早く、溶け合うような一体感に達するまで時間はかからなかった。この誰も知らない二人だけの秘密の世界で、僕たちは奇妙な体の波長を重畳しながら、ゆっくりとした微動を下半身全体で共有していた。
改めて下に目を落とすと、制服ズボンのチャックは社会ではなく彼女にだけ窓を開き、その中身たる僕の化身は、彼女のカーディガンやスリットスカートの巧妙に連続したトンネルをくぐって、まだ見ぬ暗闇の奥に続き、その奥で神秘と欺瞞に満ちた女体と結節している。表面に見えている幾重かの布は現実世界そのものなのに、布のトンネルの下に隠れている彼女と僕の熱く湿った暗闇は、この世界から奇妙に遊離している。
彼女の求めるままに動くと、彼女はますます僕を飲み込み、手で、腰で、触れ合う角度と圧とその温かさで情熱を伝えてくる。彼女の欲求は底なしで、僕はすでに抵抗する気力もなく、彼女の提供する快楽に溺れてただただ飲み込まれていく。彼女が時折動きを止めてじっとペニスを挟み込むと、根元までうずもれたそれに彼女の体温が流れ込んできて、僕の突起した部位は僕本体からすっぱりと別れて全て彼女の所有物になっているようにさえ感じられる。満員電車の中の、世界から切り離されたこの二人の異様な空間は彼女が圧倒的に支配しており、彼女の底知れぬ闇が僕を飲み込んでいる。僕は犯されているのだと初めて感じた。
デリケートゾーンに何がどう配置されているのか僕はよく知らなかったが、彼女が同じ箇所を重点的に刺激しはじめたので、そこが膣の入り口やクリトリスのなのだと流石に理解できた。彼女は意識させるように、僕に何度もそこを往復させた。
布を2枚隔てた先に求めているものがある。この2枚は理性の二枚、超えてはいけないけれど、それを超えることを希求しているのが彼女の動きから伝わってくる。あなたもこの先へ行ってみたいでしょ?そう言っているように思えた。ハイ、行ってみたいです。もう好きにしてください。僕たちどうなるんですか?どうやってこの先――
この先どうなるのだろう?と先の事を意識した途端、急に恐怖の念が沸き上がってきた。
どう見てもこの場ではセックスはできない。それは高校生でもわかる。もし周りに見つかったら、客観的に見れば、どう見ても言い逃れできない状況である。そんなところに僕は連れ込まれそうになっていた。興奮に覆われた脳のほんの一部で恐怖の感情が芽生え始め、考えを深めるほどに広がる。一方で、この快楽からも逃れられない。逃れられないと思うほどに、自分がますます危険な立場にいると思えてきて、興奮と恐怖で足が震えだした。
※元投稿はこちら >>