集会場では宴会が始まった。
「おいっ!!」 後ろから大きな声で話しかけられて驚いた。 いつも元気なおじちゃんだった。 既にビールでも飲んでいるのか酒臭い。
「大きくなったなぁ。今年から高校生だろ?勉強ガンバレよ」
それだけ言うとまた大広間に行ってしまった。
すると入れ替わりでやってきたおばちゃんにめざとく見つけられ、
「あらぁ、カズちゃん。品定めしてるのぉ~?」
と白々しい声で言われた。
女性に聞こえる声で言ったので少し図星を突かれた僕は焦って顔が紅くなり何も言えなくなってしまった。
女性はおばちゃんの言葉と僕の反応を見てはじけるように笑いだした。
「やぁだぁ~!ゆみちゃんてばぁ」
「もぉ~~!カズちゃんみたいな若い子が私らみたいなおばさん選ぶわけないでしょ~?」
「でも、カズちゃ~ん。カズちゃんが良かったらおばさん達みんないいのよぉ?」
次々に軽口が飛び出して笑い声がどんどん大きくなる。
立ち尽くすしかなくなってしまった僕を見かねたのか煽った張本人のおばちゃんが
「あんまりからかわんといてね。カズちゃんお初なんだからあがっちゃってるのよ 」
と言った。
ゴメンねぇ~、なんて笑い顔のままおばさん達が謝ってくるのを頷きながら僕は広間に逃げ戻っていった。
広間に若者は僕くらいしかいなかった。
30代にしても数えるほどで、女性で最年少でも、おそらく30過ぎのおばちゃんくらいだろう。
村の20代以下は就職・進学のため出てしまっているのだ。
酒が進むにつれて集会場の大人たちは少しずつ減っていった。
遠い席に座っていた母ちゃんも何人かの男たちに進められるままにビールを飲んで頬を紅くしていた。
そして、母ちゃんの姿も気づけば途中で見えなくなっていた。
もう家に戻って寝てしまおうと玄関にそっと向かうとおばちゃんが仁王立ちで待っていて驚いた。
「こらっ。こんな日に一人で寝るんかい!」
酔ったおばちゃんの声は大きい。
思わず広間から人が見に来ないか様子を伺う。
「叔母さんが教えたったいうのに…ホンマカズちゃんて、子供だよ」
あまり逆らわないほうがいいと思い小さな声で「すいません」と謝る。
「まぁ、ええわ。カズちゃん捕まえたしなぁ」
一瞬意味が理解できないと
「家行こか…カズちゃん」と言った。
酔っているのは演技だとその声のトーンでわかった。
そのまま靴に履き替えて暗い夜道を二人で歩いて戻った。
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