家に来る女の子の殆どは息子に自分を売り込むつもりの容姿に自信のある積極的なお嬢さんでした。
ところがそうでは無い女の子が一人いて、私がその女の子に初めて会ったのは息子もその子も中学三年生の春でした。
家の勝手口の方で、はい、ではお預けします。よろしくお願いいたします。と言ってる若い女の人の声がしましたが、言葉使いは大人なのにその声はまだ子供のようでした。
覗いてみると、その声の主は息子の通う中学の制服を着た小さな女の子でした。
お手伝いさんが、この子が生徒会の書類を坊っちゃんに届けてくれました、と言うので私が息子を呼ぼうとしました。
また息子のファンが息子に会いに来たのだろうと思ったのですが、その子は、会長から清書するように言われてたのが出来たらからお届けに来ただけです、会長のご迷惑になりますからここで失礼させていただきます。と言うとちゃんと会釈をして雨の降ってる中を帰って行きました。
中学生が社会人のような言葉使いをすると、似合わなくて笑いを誘うか、駒しゃくれた生意気な感じを覚えることが殆どなのに、その子の態度は不愉快な感じはしませんでした。
息子に近づきたくて来たのではないらしい女の子は初めてでしたし、息子のことを◯◯君と呼ばずに生徒会長と呼んだのも印象に残りました。
その子が届けてくれた書類を息子に渡すと、息子は特に気にも停めない様子で、その子に対して特に関心がある様子も、雨の中を届けたくれたことを感謝する様子もありませんでした。
あの子が誰なのか聞くと、生徒会の庶務係の退屈な女の子、と答えました。
息子は雨の中を届けてくれたあの子に感謝するでもなく、自分があの子に命令する権利があることを当然だと思っている様子を見て私は心が痛みました。
それからもその子は時々家に来ましたが、けして玄関からは入ろうとせず勝手口から出入りし、用件が済むと直ぐに帰ろうとしました。
その子がまた、生徒会の連絡です、と来た時に私は無理を言ってその子を引き留め、紅茶を入れて上げました。
私が息子の母だと分かったのか顔を真っ赤にしていました。
あまりお喋りしない子で僅かな話しか出来ませんでしたが、この子は真面目なこと、目立つのが嫌らしく謙虚過ぎるほど謙虚なこと、それと最後に使い走り等をさせられても少なくとも息子に悪感情は持ってないことが感じられました。
中学三年生にしては小さくてまだ女らしい身体になってないので、息子はこの子を恋人には選らばないだろうな、とも思いました。
息子の祖父母があまりに息子を甘やかすので、息子に家の敷地内の草取りをさせたことがありました。
今度の日曜日にあなたが責任持って敷地内の雑草を刈ってしまいなさい、と言うと意外にも、分かった、と返事をされました。
かなり広い敷地ですから、一人ではとても1日では終わらない筈でした。
ところが息子は、学校で自分の言うことを聞く子達を集めて草取りをさせると言う私が全く考えもしないことをやってしまいました。
土曜日の夕方から家に、明日は雨が降っても草取りがあるんですか?と次々と女の子達から電話が入り、驚いた私が息子に聞いたところ、多分女の子だけで30人くらい来るんじゃないかな、と言われてしまいました。
私が息子に、貴方一人でするのよ!と叱っても、誰々が来ると決まってるわけでもないし学校の連絡網で中止の連絡を回す公的な内容でも無いからもう仕方ないね、と言われてしまいました。
そして午前10時頃から次々と40人近い女の子が集まって来ました。
もちろん草取りなどしたことがないお嬢さん達で、ワーワーキャーキャー騒いで遊んでいるようなものであちこち刈り残したりの見苦しい結果になりました。
それなのに祖父母は孫が人気があるのを見れて満足気でした。
でも本当は皆が集まるよりずっと早く朝の6時ころにあの庶務の女の子が一人だけで来ていたんです。
それも他のお嬢さんのような可愛い服ではなく、ダブダブの元は男物だった古いワイシャツ、いっぱい継ぎを当てた作業ズボン、黒い雨靴で首に古いタオルを巻いて自分で鎌を持って来ていました。
勝手口の外で渡が出てくるのを待っていたようで、最初に出てきた私に挨拶をすると直ぐに斜面のところのススキを刈り始めました。
私がちょっとお茶を飲みなさいと言っても、朝露で柔らかいうちに刈らせてください、と言って手を止めまでした。
まだ寝ていた息子を起こして一緒に草取りをさせようとしたのに息子は、集まるのは10時って言ってるんだよな、と冷たい態度で家から出ようとはしませんでした。
その子は二時間かけて刈り取るのが難しい斜面をきれいにしてくれると8時に、すみません、家の用事があるんです。これだけしかお手伝いできずに本当にすみません。と言って帰ろうとしました。
私が引き止めてまた紅茶を飲ませようとしたのですが、本当にごめんなさい、他の人から私が来てたって知られたくないんです、と言って帰られてしまいました。
お察しと思いますが、この子がその当時思い上がっていた私の息子から恥ずかしい目を受けたんです。
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