今日はシフトがたまたまあいて、友達は誰も暇な子はいないし、
彼氏もこの前、別れたばかりだし、映画館に行くことにしたみか。
上からハーフコートを着て、胸元が緩めのだらしないTシャツを隠して。
下は真っ赤なフレアスカートをはいて。
ひとりで気楽に散歩がてらに映画館に向かう。
映画館の席に着く。
最近の映画館の席は、ずいぶんとゴージャスだ。
ゆったりと隣との距離をとって、前後にもゆとりがある。
コートを脱いだらだらしないTシャツなのが恥ずかしい気がして、
みかは、一番後ろの端の席を選んで座ることにした。

端っこの席には誰もいないから広々と見ることが出来る。
呑気に映画を楽しもうと思っていたら…
はっ、と思ったら男の人が右隣に座った。
同じ列の真ん中あたりに座っていた人だ。
なぜか、みかの隣の席に座ってくる。
メガネをかけたおじさん。
顔はスクリーンのほうを向いているけど、明らかにみかのことを意識している。
気配で分かる。
おじさんは、左腕を肘置きからはみ出すようにしているものだから、
みかは身をよじって反対側によける。
でも、おじさんは、容赦なく左肘を突き出してきて、みかの右胸の横あたりにツンツンと当たってくる。
みかは、恥ずかしいけれども何も言うことが出来ず、スクリーンに映し出される映像に集中しているふりをした。