昭和の面影を伝える、昔ながらの公衆浴場を妻と定期的に利用している。
内風呂がありながら今どき銭湯に通うのは、周辺に温泉がないことに加え、スーパー銭湯では味わうことのできない熱めの湯と静かでレトロな雰囲気、掃除の行き届いた清潔な場内を妻も私も気に入っているからだ。
私たちが利用する夕方の時間帯、番台に座っているのは決まって年輩のオヤジさん。
番台経験のなかった妻は初めて利用した日、店から出て来るなり「イヤだったー!」と顔を顰めていたが、すぐに慣れて「一度見られたんだから、二度見られるも三度見られるも同じ」に変わり、今ではオヤジさんと言葉まで交わしている。
妻は混浴温泉でも前を隠したことがなく、二人の話し声が聞こえてくると、隣の女湯で老人とはいえ自分以外の男に全裸の妻が今まさに視姦されていることに、嫉妬と興奮を感じる。
最近は、番台からでは遠くて満足できないのか、浴槽の温度調節を隠れ蓑に女湯の洗い場に入って来ては、すぐ間近から妻をジッと見るなどオヤジさんの「職権濫用」もエスカレートしてきたという。
妻は美形の上に、胸が大きく胴の括れもあるので、年齢より10歳以上若く見られることが多く、たまに私の娘と間違えられたりもする。
女湯を利用しているのはお年寄りばかりだそうなので、女性客の裸を見慣れたベテランの目にも「掃き溜めに鶴」なのだろう。
おまけに妻は、浴槽に出入りするために縁を跨ぐ際、低い姿勢で温度調節しているオヤジさんの前でも足を上げるという。
オヤジさんとしては下から妻の股間を見上げる形になるので、その度にアソコまで見られている可能性が濃厚だ。
妻が洗い場に入るとオヤジさんが温度調整にやって来るのも、それにすっかり味を占めたからではないだろうか?
認知症の予防に役立つ適度な刺激と興奮、老後の生き甲斐を定期的に得られるせいか、近頃ではオヤジさんの顔色がツヤツヤしてきた。
無論、見るだけで指一本触れるわけではない。
妻も「お爺さんだから、見られたって別にいいよ」と気にかける様子はないが、夫としては何とも悩ましい気分である…